第12話 鉄則
抜けてしまった腰が回復するまで、霧姉達は待ってくれている。
少々格好悪いところを見せてしまった。
「ったく、私達が雄ちゃんに沖ノノ島での鉄則を説明する前にゾンビ化するとは。何てダサい奴だ」
「全くですよ。死んで当然です」
「ホント最近、見掛け倒しの人増えたよねー」
黒人男性は死んでからもボロクソに言われ続けている。
ちょっと可哀相だな。
「と、ところで霧姉、その沖ノノ島での鉄則って何だよ」
「そうだそうだ。それを説明しておかないとな。泉ぃー、アイツの事任せていいか?」
「りょーかい!」
霧姉が突き立てた親指の先で、死んでしまった黒人男性をクイッと指し示すと、泉さんが走って向かって行った。
何をするつもりか知らねぇが、あんな気持ち悪い死体によく近付けるな……。
「まずはアレだ。鉄則の一つ、死人に口なしだ。死んでしまった参加者の持ち物は、お宝だろうがウォーターウェポンだろうが奪って良し。ただしゾンビに噛まれていない参加者への略奪行為は一切禁止されている」
「霧ちゃーん、コイツ何も持っていないよ! ホント役立たずな野郎だな! バーカバーカ」
死体を蹴飛ばしてしまうんじゃないかというくらいに罵声を浴びせた後、泉さんがこちらに戻って来た。
あの黒人男性、ホント可哀相だな。
「それから今の沖ノノ島は、初めてゾンビを解き放った当時の沖ノノ島の風景を、運営が忠実に再現しているっていうのは彩芽から聞いたと思うけど、今現在島にある物は全て自由に使用していいのだ」
「その忠実ってのは何処まで再現されているんだ?」
「何処までも何も、全てが用意された作り物だぞ? この建物も、そこに置いてある土産物も、民家の冷蔵庫の中にある食料品も何もかもだ。食べちゃってもいいし、壊しちゃってもいいし、ゾンビに向かって冷蔵庫を投げ付けてもOKだ」
ふーん、壊しちまっても別に怒られねぇのか。
そもそも冷蔵庫をぶん投げられる人間なんかいねぇよ。
いや、霧姉ならやり兼ねんな……。
「そしてゾンビの事だけど、彩芽の方が詳しいから、彩芽から説明してくれるか?」
「はい、喜んで!」
……はぁ。瑠城さん、瞳を輝かせないで。
「感染型のゾンビ達は本能の赴くまま、食欲に任せてただただ只管に噛み付いて来ます。噛まれてしまいますとゾンビウィルスに感染してしまい、噛まれた人もゾンビ化してしまいます。この辺は流石の雄磨君でも知っていますよね?」
「ああ。そのくらいならな」
「ですがそのゾンビ化というのが非常に厄介でして、噛まれてからゾンビ化するまでの時間というのが、人によってバラバラなのですよ」
「へー、そうなんだ。どのくらい差が出るの?」
「早い人だと噛まれて即座にゾンビ化します。ガブッ、ウガガー! って感じですね」
噛み付く仕草とゾンビ化する動きを、照れる様子もなくモーション付きで演じてくれた。
柔らかそうな髪をフワフワと揺らす、ちょっと可愛らしいゾンビだ。
「遅い人だと噛まれてから数時間ゾンビ化しない人もいるのです。こういったケースは稀ですが、鉄則として不用意に近付いて来る人間はゾンビだと思って行動するのです。一度視界から外れた人間はゾンビに噛まれたと思え、です」
「でも近付いて来るからといっても、ゾンビに噛まれていないかもしれないじゃないか」
「その通りですが、実はゾンビ化していなくても、既にゾンビに噛まれているかどうかを見分ける方法があります」
瑠城さんはウォーターセイバーのスイッチを入れると、自分の細腕に当てがった。
「既に私が噛まれていれば、今ので腕は切断されています。ガンタイプのウォーターウェポンで私の頭を撃ち抜けば貫通します。例えゾンビ化していなくても、噛まれた直後にはゾンビウィルスが体内を駆け巡り、すぐさま水での攻撃が有効になるのです。一度視界から外れた他人と接触する場合は、体の一部に水を当てながら近付くのが暗黙のルールとなっています」
成程ねー。だからさっき霧姉は走って近付いて来る黒人男性に向かって、ウォーターセイバーを投げ付けたのか。
ゾンビに噛まれていなければ、水での攻撃は効かないみたいだし。
……頭が破裂する、なんて事は流石になさそうだが、なかなかの勢いでブン投げていたから、当たれば気絶くらいはしそうだったぞ。
「そしてチームで参加していてチームメイトがゾンビに噛まれてしまった場合、その噛まれてしまった人はチーム内で処理します。これも鉄則です」
「へ? それってどういう……俺が噛まれた場合、瑠城さん達が俺を殺すって事?」
「その通りです。身内の不始末は身内でカタを付ける、当然の義務です。そもそもゾンビに噛まれた時点で死人扱いですから、殺す事にはならないのですけどね」
「いや、でもまだゾンビ化していない訳だし――」
「駄目ですよ雄磨君。噛まれた人は遅かれ早かれ必ずゾンビ化しますし、他の人を襲い始めます。私が噛まれてしまって、霧奈さんや泉さんに襲い掛かるシーンを見たいですか?」
いや、それは流石に見たくねぇ。
見たくねぇけどよ……知り合いを殺すなんて、あんまりじゃねぇか。
「更にですね、噛まれてしまった身内を競技時間内に始末出来なかった場合、その人は運営の手によって研究施設に回収されてしまうのです。新たなゾンビ養殖の為の種として、永遠に施設内で研究の材料にされてしまいます。それでも雄磨君は私達に止めが刺せませんか?」
施設で養殖された瑠城さんや泉さんや霧姉が、他のゾンビハントのゾンビ役として、永遠に使用されるってのか?
そんなの……そんなの許せねぇよ!
「ですよね? 今の雄磨君の表情でもう十分伝わって来ましたよ」
「私が噛まれたら雄ちゃんが止めを刺してくれよ!」
霧姉は笑顔で右手を大きく上げている。
「じゃあアタシも。雄磨に止めを刺して欲しいな」
今度は泉さん。右手を上げているのだが……アレ、こういうのって何処かで見た記憶が――
「私の時も雄磨君が止めを刺してくれる?」
俺よりも先に手を上げた瑠城さん。
……何だよこの展開は!
「じゃあ俺は――」
「「「私達三人で止めを刺す!」」」
三人が構えたウォーターセイバーが、座り込んでいる俺の喉元をビタリと捉えている。
ハ、ハハハ。俺に止めを刺すのは、ゾンビに噛まれた時だけで頼むぞ。
「アハハ、揃ったなー」
「はい、ハモリましたねー」
「考えている事は一緒だね!」
三人共笑顔で凄く楽しそうだ。
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