第10話 沖ノノ島到着
「今日の参加者達は一獲千金を狙っていたリ、生き残れば一気に名を上げるチャンスだと思って集まって来ている。そしてスタジアムの観客達を喜ばせる為だけに、参加者を皆殺しにする程難易度を跳ね上げる日の事を、ゾンビハンターのファン達は
「何故だ……何故俺達の初陣を、そんな危ない日かもしれない今日に選んだんだよ! もっと他の日でも良かったじゃねぇか! ふざけんなよ!」
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさか霧姉がここまで命知らずの馬鹿だとは思わなかった。
「全国高校ゾンビハンター選手権の県大会予選開催まで残り一ヶ月。その間のオープン戦は、選手権出場者達の予約が立て込んでいて、飛び入り参加の私達は予約が取れなかったのだ。キャンセル待ちをしても良かったけど、確実に参加する為には、今日出たキャンセル分で参加するしかなかったのだ」
もしかしたら今日が
ぶっつけ本番で県大会予選に出場するなんて無謀過ぎるし、霧姉としては何としても俺に経験を積ませたかったのだろう。
クソ、霧姉の言いたい事も分かるけどよ……。
「今日たまたま出たキャンセルっていうのも、今日のオープン戦が
霧姉、泉さん、瑠城さんの視線が一ヶ所に集まる。
みんなの視線の先ではお面ウーマンが独り、船上の隅で佇んでいた。
「何だよ、あの子供って有名人か何かなのか?」
「恐らく彼女は今日の会場を更に盛り上げる為に、運営側から特別に招待されたのだろう」
と、特別に招待? そんな事もあるのか?
「……じゃあ何か? あの子供は相当の実力者だっていうのか?」
「そうだ。彼女は『二刀乱舞』の二つ名を持つ有名人だ。数か月前、突如彗星の如くゾンビハンター界に現れたニューヒロインで、そのスタイルは異形も異形。お宝には目も呉れず、ただ只管にバッタバッタとゾンビ達を殲滅して行くのだ。彼女は今、ファンの間で絶大な人気を誇っているぞ!」
あのか細い子供みたいな、お面ウーマンがか?
ス、スゲーな。全然そんな風に見えないのに。
「じゃあ彼女はトッププロの選手なのか?」
「いえ、そうじゃないのですよ雄磨君!」
また瑠城さんが、瞳をキラキラと輝かせている。
こういう時の瑠城さんの話は、とても長くなりそうだ。
こっちはそんな気分じゃないから、勘弁して欲しいんだけどな……。
「オープン戦で一定以上の活躍を見せると、そのプレイヤーにはランクが与えられるのですよ。Bランクから始まり、Aランク、Sランク、
「へ、へー。じゃあ彼女はその
「ところがそうじゃないのですよ。いいですか? ゾンビハンターとして評価されるポイントは色々あるのですが、基本的にはゾンビを倒すだけでは駄目で、島内のお宝を持ち帰る事が出来て初めて評価されるのです。彼女の場合、ゾンビの殲滅力だけなら
お宝には目も呉れず、ゾンビばっかり倒しているって霧姉が言ってたもんな。
戦闘狂なのか? あんな子供が?
――と思ったが、オープン戦の参加者は全員が十五歳以上、だったよな。
という事は、彼女は最低でも俺と同い年?
あんな不細工なネコのお面を被った奴がか? 嘘だろオイ。
「船に乗る前にデスアタックの事を伝えると、雄ちゃんが逃げ出しちゃうと思ったから言わなかったのだ。ゴメンな」
「逃げねぇよ! ここまで来て逃げるかっての! ……いや、船に乗る前なら確かに……いや、逃げねー! 逃げねぇよ……多分」
「何か自分に言い聞かせているみたいだけど、私達の安全は雄ちゃんの能力ちからに掛っているのだからな。……因みにどうだ? もう何か感じているか?」
いつの間にか船は防波堤を通り過ぎていて、数えるのが面倒な程沢山の漁船が並んでいる、沖ノノ島漁港内へと進入していた。
しかしどれだけ意識を集中させてみても、近くではゾンビの気配が感じられない。
どういう事だ? 今日はゾンビ達お休みか? それとも俺の能力が鈍ったのか?
「近くにゾンビ達はいないみたいだぞ?」
「奴らは水を嫌うからな。基本港の傍ではウロウロしていないのだ。ただし
こ、怖ぇー。すっ飛んで来るのかよ。
さて、お宝の方はどうかな……と。
目を閉じてお宝の在り処に全ての意識を集中させる。するとじわじわと映像が脳裏に浮かんで来て――
来た来た、お? あ、あった。あったぞ!
「霧姉! お宝があったぞ! あそこだ、あの電話ボックスみたいな所に――」
「馬鹿、雄ちゃん! デカい声を出すな! 指を差すな、こんの馬鹿!」
ドゴッ!!
「ぐはぁ!」
鋭角に切り込んで来た霧姉のボディーブローが、俺の脇腹に突き刺さった。
お宝を見付けられた事ではしゃいでいたら、久しぶりに霧姉の攻撃を喰らってしまった。
い、息が出来ねぇー! また鋭くなってねぇか?
一発で意識が飛びそうになるこの威力、久しぶりだ……ぜ。
周りに居るのは海外の連中ばかりだし、騒いでいても日本語が通じないから大丈夫だと思うが、流石に指を差すのは……マズかったかな。
お面ウーマン――改め二刀乱舞さんは、そんな俺達のやり取りを遠巻きにして眺めているようだった。
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