第8話 謎の少女登場


 オープン戦の控え室というのは快適空間だ。

 軽食が準備してあったり、各種飲料が全て飲み放題。

 マッサージ師や通訳の人、更には牧師様が待機していたりと、オープン戦の参加者というのはなかなかの好待遇を受けられるみたいだ。

 参加者達は、各々がリラックス状態で待機している。


 霧姉達が着替え終わるのを待っている間、他の参加者達を観察していたのだが、俺達以外の出場者は皆外国人で、屈強な男達ばかりだ。

 何処からどう見てもカタギにゃ見えねぇ奴等だぞ。

 丸太みたいに太い腕にはタトゥーがびっしりと刻まれているし、中には銃創の痕っぽい物が残っている奴も居る。

 上から下まで迷彩柄の軍服フル装備を着込んでいる奴も居る。


 『水亀商店うちのみせ』のTシャツを着ている、俺の場違い感が半端ねぇぞ。



 「お? 雄ちゃん似合っているじゃないか」

 「ハイハイそりゃどうも。霧姉達もお似合いだよ」


 こんなTシャツが似合っているとか褒められても、ちっとも嬉しくない。

 控え室に現れた霧姉達は、制服のスカート姿にTシャツというラフな格好。

 女子の参加者が霧姉達だけだからなのか、それとも『何しに来たんだコイツ等?』と馬鹿にされているのかは分からないのだが、他の出場者達から好奇の視線に晒されている。


 ……しかし、お揃いの衣装を着ているのは俺達だけだな。


 「なぁ瑠城さん、俺達以外の出場者って、皆個人で参加しているのか?」

 「そうですよ? オープン戦にチームでの出場が許可されているのは、部活動として参加する場合のみですが、オープン戦の参加者同士が、競技中に協定を結んで行動を共にするのは自由です」

 「部活動って……日本人だけだよな。ちょっとズルくないか?」 

 「そうですね。ですが現在トップランカーは海外勢がひしめき合っていて、日本人ハンター達は圧倒されています。運営側は日本人ハンター達全体のレベルの底上げを図っている最中なのですよ」

 「へー、成程ねー。少しでも安全に且つなるべく多くの日本人の若者達にゾンビハントへ参加させて、育成してからプロの第一線で活躍させたいって事か」

 「その通りです! 分かってますね雄磨君」


 スタジアムの外に飾ってあったパネル写真も、海外の選手達だったし。

 少し日本人贔屓な気もするけど……弱ぇーのか、日本。


 「同じ考えで作られたのが、全国高校ゾンビハンター選手権です。未来の輝けるスターの出現を、日本中が期待しているのですよ!」


 ふーん。運営も何とかして日本人プレイヤー達に頑張って貰おうと、色々考えているんだな。


 「ウフフ。ねぇ雄磨君、今さ、運営も頑張っているんだなー、みたいな事考えていたでしょ?」

 「へ? まぁそうだな。どうして?」

 「実は今私がお話しした内容、全て運営側の建前なのですよ」


 へ? どういう事だ?


 「若者達の参加者を募って育成したいという考えは、全てが嘘ではないのかもしれませんが、本音は別のところにあります。未来ある若者達がゾンビハントで死亡するというのは、実は会場が物凄く盛り上がるのですよ。観戦に訪れる富豪達は常に刺激を求めていますので、そういった方々の欲求を満たす為に、日本の若者達をあの手この手を使って呼び込んでいる、と言った方が正しいと思います」


 運営側もボランティアでゾンビハントを提供している訳ではなく、商売として行っているので、客が求める物を提供する、という事なのだろうが……腐ってやがるな。

 利益優先ってヤツか。馬鹿馬鹿しい。

 そんな考えだから日本人プレイヤーが育たなくて、現状海外勢ばかりが活躍しているっていう悪循環に陥っているんじゃねぇのか?

 運営側ってのは、こんな簡単な事にすら気が付かねぇ程馬鹿な奴等なのか?


 「フフフ、心配するな雄ちゃん。私達は別だ。そんな運営側をギャフンと言わせるくらいに稼ぎまくってやるぞ」

 「……ああ。何か俺もやる気出て来たよ。胸糞悪い奴等なんかぶっ潰してやる」


 俺の能力ちからってのが、何処まで通用するのか知らねぇが、出来る限り――


 ガチャ


 興奮気味に考え事をしていると、突然控え室の扉がゆっくりと開いた。

 いよいよオープン戦が始まるのか! と思ったのだが、どうやらそうじゃないみたいだ。

 扉からひょっこりと現れたのは――マスクマン。いや、違うな。お面ウーマンだ。

 縁日の露店で見掛ける、不細工なネコのお面を装着している子供だ。

 ……しかしこのお面、デザイナーの美的センスを疑いたくなる程不細工なネコだな。

 もうちょっと可愛らしいのはなかったのかよ。


 少女は小柄な瑠城さんよりも更にか細く小柄で、お面の両脇から黒髪のツインテールが肩甲骨の辺りまで伸びている。

 ペタンコのバックパックを背負っていて、服装は上下共にカマキリみたいな緑色のジャージ姿。

 恐らく何処ぞの学校指定のジャージなのだろうが、今の俺達の服装よりもダサいぞ! 


 お面ウーマンはトコトコと歩いて来て、控え室の隅のベンチにちょこんと腰掛けた。


 「……」

 「「「「……」」」」


 おかしな奴が入って来たからなのか、控え室は沈黙に包まれている。

 ま、まさかこの少女もオープン戦に参加するというのか?


 しかし静まり返っていたのも束の間、すぐに海外の選手達がガヤガヤと騒めき始めた。

 何を言っているのか言葉はさっぱり理解出来ないが、口々に発せられる、とある一つの単語だけがやたらと耳に付く。


 『ニトウランブ』 


 何なんだ、一体。

 霧姉達も三人で何かコソコソと話し合っているし。


 控え室全体に妙な緊張感が漂い始めた、丁度その時――


 「それでは只今より、皆様には会場に移動して頂きます!」


 係の人が控え室にやって来た。

 遂にオープン戦が始まるみたいだ。 

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