第7話 出場直前
翌日――
オープン戦に出場する為に、お昼で学校を早退する事を教卓に立つ先生に報告すると、クラスのみんなが声援を送ってくれた。
「水亀君、頑張って!」
「ミズキ、ガンバレョミズキ!」
「マジかよ雄磨! 応援してるぞ!」
「祝勝会の準備して待ってるでー!」
「最後を悟ったら潔く死ねよー!」
普段クラスではあまり目立つ存在ではなかった俺だが、この時だけは一躍時の人へと様変わり。
殆ど会話なんてした事がなかった女子達も応援してくれた。
霧姉に強制参加させられたゾンビハンター部。
言葉では表現しにくくて何だか凄く変な感じだが、人に応援して貰えるというのは……まぁこれはこれで悪くはねぇな。
ほんの少しだけやる気が出たよ。
死なない程度に頑張るかな。
『終点堀切スタジアム前、堀切スタジアム前です』
到着を告げるアナウンスが、モノレールの車内に流れる。
駅のホームへと降り立ったその真正面には、ガラスを多用した近代的な外観の巨大なスタジアムが聳え立っていた。
世界で唯一ゾンビハントが観戦出来る場所、堀切スタジアムだ。
「じゃあ早速オープン戦の参加受付に移動しよう。ウシシ、雄ちゃん迷子になるなよ?」
「ならねぇよ、馬鹿」
確かにこう人が多いと、子供なら迷子になるかもしれねぇが、俺はもう十五だぞ?
そんなガキじゃねぇっての。
琵琶湖湖岸に建てられたスタジアムの周囲には、高さが十メートル以上はある、巨大なパネル写真が数枚飾られている。
ライフル銃っぽい武器を構えていたり、両手に拳銃を装備していたりと、様々なポーズを取った五人のハンター達。
俺には分からねぇが、看板選手なのだろうか?
女性も一人だけ居るのだが、五人共外国人だ。
日本人のハンターってあまり人気がないのか? ……それとも実は弱いのか?
選手の写真をバックに、記念撮影を行っている人達も沢山居る。
俺が知らないだけで、やっぱりゾンビハントって人気があるんだな。
「コラー雄ちゃん! 余所見してないで早くこっち来い!」
「ああ、ワリィ! すぐ行く!」
っとと、キョロキョロしていたら、本当に迷子になりそうだ。
その後霧姉達とは一度別れて、別々の更衣室で着替えを済ませてから、オープン戦参加者控え室という場所で待ち合わせをする事になった。
俺達は樫高ゾンビハンター部としてオープン戦に参加するので、昨日のミーティングで霧姉からユニホームとしてTシャツを渡されていた。
渡されていたのだが――
~~~~
「聞いてくれ雄ちゃん。私達は明日のオープン戦で、ゾンビハンター史上類を見ない大活躍をする事になる」
何それ、もう決まった出来事なのか?
初出場なのに、何故そんなにも自信満々なんだよ。
「そこで、だ。コレを見てくれ。じゃじゃーん!」
効果音付きで霧姉が両手で広げたのは、黒地のTシャツ。
前面背面共に『
オヤジが経営する工場の名前だ。
「折角目立つのだから、CMしないと勿体ないじゃないか! 私の少ないお小遣いをはたいてユニホームを作っておいたのだ。ハイ、コレ雄ちゃんの分」
ハイって渡されてもなぁ。……ダ、ダサい。
「ぁあ? 何か言ったか?」
「い、言ってねぇ。何も言ってねぇって!」
し、視線だけで殺されるかと思った。
その様子を見た泉さんも瑠城さんも、無言のままTシャツを受け取っている。
……やっぱり幼馴染でも、霧姉の我が儘には何も言えないんだな。
「そしてコレだ! コレをTシャツの裾に着けてくれ」
霧姉から各自に手渡されたのは缶バッジ。
ウチの工場で作っているヤツで、気持ち悪いゾンビをちょっと可愛らしいデザインで描いてあるヤツだ。
誰が買うんだよ、こんなの。
……まぁ売れていないから経営が傾いていて、霧姉がこうやって大量に持って来られるんだけどよ。
「この缶バッジを身に付けていれば、ゾンビに襲われないのだ! ゾンビハントから生還出来るのだ!」
「……そんなの聞いた事ないぞ? スゲーじゃん!」
「何言ってんだ。ホントにそんな効果があるわけないだろ? でも私達は『この缶バッジを身に付けていれば、ゾンビに襲われないぞ』と宣伝し続けて売りまくる。いいな?」
「それ詐欺じゃねぇか!」
「詐欺じゃないぞ。ジンクスみたいなもんだよ。実際に私達がゾンビに襲われて死ななければいいんだし」
いや、まぁそうなんだけどよ。
「それにこの辺りに個人の感想です、ってテロップを入れておけば大丈夫だ」
霧姉は体の前にテロップを出しているみたいで、両手の人差し指と親指で四角く囲っている。
……大丈夫なわけあるか!
~~~~
霧姉なりに考えた、工場経営の立て直し案なのだろうけど、ただでさえ出場するのも憂鬱なのに、こんなダサいTシャツを着て出場しないといけないのか……はぁ。
Tシャツを受け取る時、泉さんも瑠城さんも少し顔が引き攣っていたぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます