第6話 オープン戦の全容


 「競技としてのゾンビハントには、他にもランキング戦と、私達が優勝を目指す全国高校ゾンビハンター選手権という二つのカテゴリーがあります。ランキング戦は人工島にて競技が行われていまして、今ではオープン戦とこの全国高校ゾンビハンター選手権のみ、伝統ある沖ノノ島で競技が行われています。選手権は五人一組のチーム戦で戦いますが、オープン戦と選手権ではルールが全く異なりますので、違いを把握し易くする為に、明日のオープン戦を終えてから選手権のルールを説明しましょう。そしてこちらがざっくりとしたオープン戦のルールとなります」


 瑠城さんがホワイトボードの前に立ち、箇条書きでルールを書き始めた。


 ・参加者は三十名

 ・配布武器『セイバー』

 ・琵琶湖の水は使用禁止

 ・競技中のリタイアは認められない



 「ルールと言っても重要なのはこのくらいです。その他にも細かなルールがありますが、その辺りは実際に現場に到着してからお話しする事にしましょう。一回の競技が二時間だというのは既にお話しした通りです。参加者全員で一隻の船に乗り、スタジアムから出発して沖ノノ島に向かいます。船が到着する港には配布武器『ウォーターセイバー』が大量に用意してあります。この武器は霧状の水を刀身に纏わせて斬り付ける近接武器になりますが、好んで使用する参加者は少ないのです」


 そりゃー、ゾンビに近付かないと攻撃出来ない武器だと、危険が伴うからな。

 銃タイプの方が距離を保って攻撃出来るから安全だろうし。

 島内には他のウォーターウェポンが配備されているって言っていたし、そっちを先に探すという事なのだろう。


 「ゾンビ達には弱点というものが存在していて、基本頭にはどんな攻撃を加えても大丈夫なのですが、ウォーターウェポン以外を使用して弱点以外の場所を攻撃してしまった場合、ゾンビ達は傷口を再生させるか、別の個体へと変異してしまう恐れがあります。雄磨君の場合は攻撃する機会も少ないと思いますが、もし攻撃するのであれば、必ず頭を狙うかウォーターウェポンでの攻撃を心掛けて下さい」

 「……こ、心得た」


 べ、別の個体ってなんだよ!

 そんなの聞いてねぇぞ! ゾンビじゃなくなるってのか?

 ゾンビハントなのに詐欺じゃねぇか!


 「そして最も重要なのがコレです!」


 瑠城さんは『琵琶湖の水は使用禁止』の部分を、赤ペンでグルグルと囲った。


 「ウォーターウェポンという名の通り、セイバータイプでもガンタイプでも、タンク内の水がなくなってしまえば、給水しないと武器として使用出来ません。給水方法は各家庭の蛇口が今尚使用出来ますので、そちらで行って下さい。が、しかし!!」


 興奮して来たのか、今度はホワイトボードをバンバンと叩き始めた。


 「琵琶湖の水をそのままウォーターウェポンに使用すれば即失格。また、ゾンビに追われたからといって、琵琶湖に飛び込んで危機を回避するのも失格です。こういった方々には卑怯者、掟破りのレッテルが貼られ、ゾンビハント界から永久追放されてしまいます。島を出た後も普通に生活する事は叶いませんし、実際謎の失踪を遂げる人もいます」

 「な、謎の失踪? それってつまり――」

 「はい。業界によって、文字通り消されるのです。残された家族や友人も世間から大バッシングを受けて大変迷惑します。琵琶湖に飛び込むくらいなら、ゾンビの群れに飛び込んで下さい。ウフフ、いいですね?」

 「……こ、心得ました」


 赤い眼鏡の奥、瑠城さんの目は笑っていない。

 本気で言っているんだ。

 ウフフじゃねぇよ! 

 ゾンビハント怖ぇー! 瑠城さん怖ぇー!


 「そして最後になりますが、リタイアは出来ません。生きて沖ノノ島から出るには、二時間後に到着する船に乗って脱出するしか方法はありません。帰りの船に乗り込むまでがゾンビハントなのです」

 「家に帰るまでが遠足です、みたいに言わないで下さい」


 初めてゾンビハントの全容を聞いたけど、とんでもねぇなこりゃ。



 ミーティングが続く中、部室棟の外では運動部員達の大きな声出しが、絶え間なく響いている。


 「明日のオープン戦での作戦なのだが、雄ちゃんは特に何もしなくていい。ゾンビが苦手というのも知っているし、その事は彩芽達にも伝えてある」


 今まで上手く隠して来たつもりだったのだが、どうやら俺のゾンビ嫌いは霧姉に知られていたみたいだ。


 「私達の背後に隠れつつ、お宝とウォーターウェポンの在り処と、ゾンビの居場所を教えてくれればいい。そのくらいなら出来るな?」

 「……分かったよ」

 「雄ちゃんの事は必ず守ってやるから私達に任せな。その変わり自分の役割だけはしっかりと果たしてくれ。雄ちゃんが居るのと居ないのとでは、難易度が格段に変わってしまうからさ」


 俺が死にたくないというのは勿論そうだが、当然霧姉達にも死んで欲しくはない。

 俺の能力ちからでみんなが生きて戻れるというのなら……どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。


 「……ところで霧姉、他の部員達は?」


 朝のミーティングという事で霧姉に連れて来られた訳だが、他の部員達が一向に現れない。

 今後命を預ける事になるのだから、どんな人達なのか知っておきたいのだが――


 「何言ってんだ雄ちゃん。他も何も樫高ゾンビハンター部はここに居る四人で全員だ。昨日まで休部状態だったのを、私が部長として復活させたのだぞ? 他の部員なんて居るわけないじゃないか」

 「……選手権って確か五人で一つのチーム、だったよな?」 

 「その事なら大丈夫だ。明日のオープン戦で私達は大活躍するし、その雄姿に感化されて新たな部員達が殺到するに違いないからな」


 ホントかよ……。

 そんな簡単に人が集まるとは思えないぞ?

 まぁでも確かに、樫高ゾンビハンター部が強いんだって事が分かれば、今まで入部を躊躇っていた人が集まって来てくれるかもしれない。


 ただし、部長である霧姉の我が儘に着いて行けず、みんなすぐに辞めちまいそうだが。


 「フフフ、まぁ最悪誰も来なかった場合、すぐに死にそうな生徒を縛り上げて連れて行けばいい」

 「……霧奈さん、それは流石にマズイですよ」

 「そうなのか? 死んでくれれば報酬も四人で分けられるし、良い考えだと思ったんだけどなー」


 我が姉ながら、考え方が鬼畜過ぎるぞ。


 「縛るのが駄目なら、腹パンで気絶させて――」

 「「「そういう問題じゃなーい!」」」


 このまま霧姉が部長で、樫高ゾンビハンター部は大丈夫なのだろうか?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る