第4話 スペシャリスト
「雄ちゃんに話しておくよ。実は泉も彩芽も大きな野望を抱いていて、私達と一緒に全国高校ゾンビハンター選手権で優勝する事を目標に掲げている。雄ちゃんが高校生になった時の為にと、三人で樫野高校に進学したのだ」
「へー。……俺が樫野高校に入学するかどうかも分からないのに?」
「フフフ、大丈夫だ。その時はどんな手を使ってでも、雄ちゃんを樫高に入学させるつもりだったから」
霧姉は自身の長くて艶やかな黒髪をクリクリと指先に絡ませつつ、何か良からぬ事を考えていそうな笑みを浮かべている。
霧姉の場合、本当にどんな手でも使いそうだから怖い。
色々な人に迷惑を掛けてしまいそうだから、最初から樫野高校に入学しておいてホント良かったよ。
「泉と彩芽は、とある分野ではスペシャリストなのだ」
「アタシの得意分野はコレだよ」
粟生さんはゆっくりと近付いて来ると、背中とスカートの間に差し込んでいた何かを取り出し、俺の掌にそっと乗せた。
「……警察呼んでいいか?」
俺の掌に乗せられているのは、ズシリと重みがあって独特な光沢を放っている大昔のハンドガン。
正気なのかこの人? 頭おかしいんじゃないのか?
「「「あははー」」」
俺の反応を見て、3人は腹を抱えて笑っている。
「いい! 雄ちゃん凄くナイスな反応だ!」
「笑い事じゃねぇだろコレ!」
「まぁまぁ落ち着きなって。その銃、本物じゃないよ? ウォーターウェポン、つまり水鉄砲だ」
「……ホ、ホントに?」
う、嘘だろ? 何処からどう見ても本物にしか見えない。
いや、当然本物も見た事ねぇが、質感とか細部の造り込みようとか、物凄くリアルだぞ!
「いやー雄磨が良いリアクションしてくれて、アタシも凄く嬉しいよ。実はそのベレッタM92、アタシが作った物なの」
「こんなのが自分で作れるなんて……粟生さんって凄いな!」
「あー、アタシの事は泉って呼んでくれていいよ。アタシね、将来自分のウォーターウェポンブランドを立ち上げたいんだ。だから選手権に出場して、アタシが作ったウォーターウェポンの実力を世間にアピールしたいのよ。優勝したらその賞金を元手にしてショップを立ち上げる。コレがアタシの小さい頃からの夢なんだ!」
粟生さん……泉さんは瞳をキラキラと輝かせている。
表情には自信が漲っていて、嘘や偽りなんて微塵も感じられない。
如何やらこの人は本気でやるつもりみたいだ。
「泉は武器の知識や取り扱いもお手の物だけど、射撃の腕前も一流だぞ」
「いやー、射撃の方はまだまだだよ。雄磨の事は霧ちゃんから聞いているよ。一緒に頑張って優勝を目指そうな」
俺みたいな素人を頼りにされても困るんだけどな。
どうしろっていうんだよ……。
「突然だけど雄ちゃん、瑠城博士って知ってるか?」
「えーっと、あまり知らねぇけど、確か色々な賞を沢山受賞した昔の人だよな? ゾンビの弱点を発見したとかで――」
「その瑠城博士は私の曽祖父にあたります」
目の前に居る瑠城さんが、胸に手を当てながら紹介してくれた。
あー成程、瑠城って珍しい苗字だけど、何処かで聞いた記憶があると思ったらそういう事か。
「曽祖父も当時、世界一のゾンビマニアを自負していましたが、私も曽祖父以上のゾンビマニアだと自負しています。選手権では私が培ってきた知識と経験を活かして、みんなをサポートしたいと思います。そして世界一のゾンビマニアとして、今一度瑠城の名前を世に知らしめたいのです! 雄磨君、一緒に頑張りましょう!」
瑠城さんは握り拳を作って、瞳に闘志を燃やしている。
彼女も本気みたいなんだけど……ただのマニアなんだよな?
すぐに死んじゃいそうだけど、大丈夫なのか?
「因みに彩芽はゾンビハント経験者だぞ」
「エエ―! 絶対嘘だろ!」
「もう、雄磨君。その反応はちょっと失礼じゃない?」
瑠城さん小さな頬っぺたをぷっくりと膨らませている。
だって瑠城さん、どっちかって言ったら運動とか苦手そうだし。
ただのマニアなんて、アニメや映画だったら真っ先に死んじゃうキャラだし……。
「まぁなんだ。彩芽はゾンビの事になるとキャラが変わるからな」
あー、そういうタイプの人か。
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