第十八話 『解除』

 

 天音は眼前の光景に一瞬怯んだ後、瞬時に思考を切り替えた。

 天理に仕掛けられた罠。即ち、爆弾を取り除く術を知り得る人物はこの場にいないと判断する。


(やられた。確実に嵐道ランドウの仕業だ。どうしたら良いの……)

 どうしようもなく焦る。無表情のポーカーフェイスは崩れ、意識せずに汗が頬を伝った。


 見る限り複雑な仕掛けは施されていない。だが、それこそが不気味であり、天音の警戒心を引き上げた。


「私は屋敷の特等席で、貴女の慌てふためく様子を見物させて貰いますね」

「…………」

 ソッと耳元に告げられた双火の一言に、天音は苛立ちを覚えた。それでも罵倒や反論を返す事なく集中力を高め続ける。

 双火は先程撃たれた足を引き摺りながら、口元を歪めつつ屋敷へと戻っていった。


(考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。この状況を打開するには何が必要なの?)

 その瞬間、天音は無意識の内に目を見開いて細部まで観察を続けていると、ある事に気づく。


(何これ? 文字だわ……)

 円を描いて天理の肉体に巻き付く球体には、ミリサイズで普通の人間には視認出来ない程、極小の文字が一文字ずつ貼り付けられていた。


「く、三、んは、ば、し、無い。駄目だ。意味が解らないわ」

 天音は一文字ずつ読み上げていくが、順番はランダムになっておりそのまま読み上げても無駄だと悟る。そして、このヒントとも呼べない伝言が一体誰の手によるものかは明白だった。


(そっか。嵐道がこの爆弾を仕掛けたのなら、思考を逆転させよう。あいつは絶対に天理を殺す事を許しはしない。私に解除の方法を必ず気付かせ、そして死ぬ方向へ導こうとする筈だ)

 敵の意図を推測した時、天音は初めてバラバラだったピースがハマっていく気がした。


『爆弾はその中に三つ。天ちゃんの身体を下から解く様にお前の身体に巻き付けろ。そうすれば爆発はしない。最後に面白いショーを見せよう』

 拘束と脅し。両方を含めた指示を受けて、天音は軽い溜息を吐き出す。


(圧倒的な物量で押し潰せば良いものを。手の込んだ真似が好きな坊やね……)

 ーーボンッ!!

「〜〜〜〜ッ⁉︎」

 指示には従った。だが、天音が爆弾の一番端の球を掴んだ瞬間に爆ぜたのだ。大した威力では無かったが右の掌は灼け爛れ、親指と人差し指は真逆の方向へと折れた。

 叫び声一つ上げはしないが、この爆発の意図を理解せざるを得ない。


「余計な真似はするな……か」

 諦めていなかったのだ。天音は従うフリをしながら、何とかこの状況を打破出来ないか考え続けていた。薬物か肉体的苦痛で眠りに落ちたままの天理の顔を見上げると、勢い良く爆弾を身体に巻き付け始める。


(絶対に死んでたまるか。最後まで抗ってやるんだから!)

「どこだ?」

 半分程巻き終えた時、不意に天理の意識が目覚める。瞼を閉じたまま呟かれた一言を聞いて、天音は思わず泣きそうになった。


「良かった無事なのね? 待ってて。私が絶対に助けてあげるからね」

「ーー誰?」

 続いて発せられた言葉に思わず天音は固まる。


「えっ?」

 困惑と絶望が襲った瞬間、何処からか双火と嵐道の高笑いが聞こえた気がした。

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