第9話 そこどけ

「君の名前は」


「…」


「さっきみたいに喋ってはくれないの」


「すごいなお前、また来たのか!」



 カタカタと小さな揺れのようなものがして、ガラガラした声が聞こえ出す。とある民家の家の中、さっきは割愛していたが、騒々しいことになっている。



「あ、また来た!ロボット」


「君すごいね、何なのこれ!」


「自分で光れる」


「動ける!!」



 家電たちがざわざわしている。驚いて固まる男の胸ポケットに入っていたペンが笑い出す。



「あはははは!こりゃいいや」



 ペンの声量にまた驚く。



「ね、ねえもしかしてこれ君がやってる?魔法使い?」


「ただのロボット、俺の奇跡が時々こうして他にうつる」



 男はまたびっくりして、ロボットから手を離しそうになる。もう一度体を持ち直してロボットに質問する。



「ぼ、僕はロボットを作ってるんだ、君みたいなロボットはどうやったら作れる?」


「作るな」


「どうしてさ、すごいよこれは」


「すごくない。俺はすごくないんだ」


「なあお前俺を回すのやめろよな」



 胸ポケットのペンだ。



「こうして会話できれば気をつけられるじゃないか」


「でもものだろ?人にはなれっこない」


「人になりたいの?」


「そうじゃない、ものと人は違う。ものは人の気持ちになれないし、人もものの気持ちにはなれっこない」


「君はどうして喋れるの?」


「知らん!俺を作った人間は俺に喋ってほしかったらしい」


「成功したんだ」


「失敗だと言われた。中には奇跡だと呼ぶ人も魔法や呪いだと言う人もいた」


「勝手だね」


「ああ」



 男はロボットから手を離した。ロボットは男から離れる。



「君らはどうやってここまで来たの?」


「車を運転してきた」


「運転方法は?」


「レディが教えてくれた、車が」


「すごいな!なるほど」



 ちらっと振り返るロボット。



「なにもしないのか実験とか」


「しないよ、できない」


「俺みたいなのを作ってどうしたいんだ?人間は」



 ロボットは今のなし、とすぐ取り消したが男は少し驚いてそして笑った。



「友だちになりたいんだよ」



 ロボットはビクッとして男の顔を見る。



「お前には友だちがいないのか」


「いるよ。あまり多い方ではないけどね」


「ふーん。俺も、俺にも友だちがいる」


「さっきのラジオと車?」


「そうだ、旅をしている」



 男はロボットが早く出たがっていることを知っている。窓の前に立つだけで通れないだろう、そう思っている。



「どんな旅?」


「電池とガソリンを探す旅」


「僕らでいうお金?いや食事かな。でもどこまで行くの?」


「安心して暮らせる眺めの綺麗な場所を探す旅」


「人がいないところ?」


「できることならな」


「できないんだ」


「お前は話が長いな、他の人間と違う」


「君と話したい」


「俺は話したくない」



 男に向かってジャンプする。その勢いに怯む。



「そこどけ!!」「うわあ」



 情けない声を出した男の頭に登って、またすぐに窓へジャンプする。



「え、ぼっさん!?」


「帰ろう!」


「うん!」



 ララをかついで外へとジャンプするぼっさん。足腰が丈夫だ。男が窓から身を乗り出すが間に合わない。去り際男のペンが大声で言った。



「また来いよ!」


「そいつはどうだろうな!?」



 ぼっさんは振り返らずちょっと笑いながら走っていく。またまたペンの声量に驚く男。



「なんだよ、びっくりするだろ」


「だってお前が何も言わないから」


「そうだけど、走れば間に合うかな?」


「足早そうだったけどな」


「そう?」



 すぐに林に見えなくなったロボットの後ろ姿。窓に立ち尽くしたまま男はペンに話しかける。



「ありゃ走っても間に合わなかったな」


「・・・」


「おーい、どうした?」



 一言も返してはくれない。ただの胸ポケットのペンだ。代わりに大声で思いを伝えてなんてしてくれない。



「もういったのか」



 男は一人呟いた。

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