第10話 合体

 ここは繁華街の裏路地。丸いライトの青い車が停まっている。中に人はいないが、ロボットとラジオとマンガ本があった。ドリンクホルダーにはなぜかペンライトが立てられていて、マンガ本の表紙には大きくロボットが描かれている。きっとこの車の持ち主はロボットが好きなんだろう。

 しばらくするとゆっくりと車は発進し繁華街を離れていく。車だけの大通りに出ると急に猛スピードで通り過ぎた。国の門の前で停まる。門番が出国の手続きに来るが、この車は無人だ。手続きできる人がいない。門番がその事実に驚いた瞬間、空から大きな声が降ってくる。



「面白いなあ、僕ひとりでに門を開けられるようになったよ?」



 ギギギギギ、重たい音を立てながら門は開いていく。門番は慌てて車を止めようとするが急発進する。



「俺が通る時だけな」


「バイバーイ」


「ちょっとヒヤヒヤしたわね」


「手動のところがあったらどうする?ぼっさん?」


「その時はその時だよ」



 車の中で様々な声がする。どうやらロボットにペンライト、ラジオ、そしてこの青い車自体が話している様子だ。運転しているのはロボット。



 しばらく舗装された綺麗な道路を走っていく。運転しながらロボットがみんなに話しかける。



「しばらく電池もガソリンも持ちそうだね」


「ぼっさんがたくさん盗みを働いたからね」



 少年の声はラジオから聞こえる、ラジオはロボットをぼっさんと呼ぶ。ロボットはわざとらしく、



「じゃララくんの電池は抜いちゃおう」


「うわーやめてよ、はいはいいつもありがとうね!ヒカリちゃん、もしぼっさんが僕の電池取りそうになったら止めてね」


「うん、もちろん!ピカピカしてあげる」


「そしたらヒカリちゃんの電池も取る」


「やだー!」



 ドリンクホルダーのペンライト、ヒカリちゃんは嫌そうにカチカチとライトを点滅させる。



「ふふ、ロボを怒らせたら怖いのよ。小さいけどいろんなことができるからね」


「レディに比べたらだいぶ小さいしね。君にはかなわないよ」


「あら、口喧嘩になったら運転も荒くなるじゃない」


「たしかに」


「事故になってみんなでガラクタになるのだけは嫌よ、安全運転してね」


「悪かったよごめん、みんなも」



 レディは青い車のようだ。しだいにあたりは暗くなり、車の丸いライトがつく。ラジオは音楽を流していたが、ニュースへ変えた。



「おほん、夜の8時になりました『ニュースです。不審車が〇〇国の国境を無断で越えました。現在国内で罪人が逃げたという情報や被害等は報告されていません。「ありゃ盗まれたのに気づいてないね」門が勝手に開いたということで機械への不正アクセスが疑われ、捜査されています』だって」



 ラジオはニュースの女性の声と入れ替わりながら話す。不正アクセスかあ、ロボット話し出す。



「アクセスしてたのかな?」


「ぼっさんにもわからないのに、僕が分かるわけないでしょ。そういや盗んできたマンガ本さんは喋らないね」


「うん、本や紙の類は話してくれない。絵本なんかが中身を話してくれたら寝かしつけるの楽だろうに」


「それはもう本じゃないよー」


「そうね」



 ペンライトが反論し、突然ピカッと光る。



「でも車はすごいよね、走れるし、速いしビカーッと光るし。たくさん乗れる」


「でもあなたみたいにスマートじゃないわ」


「大きくて立派だよ」


「狭いところには入れない、ポケットにもいられない」


「足がない、持ってもらわなくちゃ」


「ふふ、それは同じ。運転してくれるヒトがいなくちゃ」



 ふたりのやり取りを見ていたラジオが、アンテナを伸ばして揺らしてみせる。



「自分の自慢はしないのかい?可愛い2人は。僕はほらダンスができるよ」



 アンテナを回したり揺らしたり、伸ばしたり縮めたり。電波が少し悪くなったのか声に少しノイズがはしる。



「すごーい!」


「それに声が変わる、七色のララと覚えてくれ!!」



 少年の声からおじいちゃんにソプラノ歌手のような高音まで自在だ。ロボットはその声に笑い出す。



「楽しいな」


「あたりまえさ〜僕ひとりでもハーモニー!みんながそろえばミュージカル!!」


「そうだ!さっきのマンガのロボットの合体シーンがかっこよくてさ」


「ふむふむ」


「こう、俺たち合体できないかな?」


「はあ?」



 ロボットは立ち上がりマンガの合体ページを指差す。



「レディを派手に運転して一緒に登場。右手の甲にヒカリちゃんを巻きつけてさ、ララくんがいろんな声で騒いでもらって、どうかなって」


「いつもとたいしてやること変わってないよ?」


「…たしかに」


「ロボもそのままでいいのよ。派手に登場なんてされたら、絶対どっかに擦るでしょ。傷なんてつけたらゆるさない」


「すいません」



 アクセルを緩め、トロトロ運転になる。もちろんロボットが運転している。喋る車は運転できない。


 ラジオのララが女性の歌を歌う。伸びやかな声の綺麗な曲だ。なんとなくみんな鼻歌ではなく歌う。



「いいね!ほらぼっさん合唱してるよ!これはもはや合体だよ!」


「ラララ〜あ、ララくん歌止めないでよ!」


「あ、ごめん」

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