第8話 重いんだよ

「よいしょ」


「ロボットでも言うんだね」


「ララくん持ちながらだと重いんだよ」


「言葉の暴力だ!」


「俺ら、喋れるってのも面倒だね」


「ひどい」


「レディと一緒に待ってたら良かったじゃない」


「そしたら僕らずっとだんまりだよ?」


「ああそうか。おしゃべり好きだもんね」



 とある民家の窓際にラジオをかついだロボットがよじ登っていた。一軒家の窓だ。人がいなそうな家を選んでいる。窓の鍵は開いていた。



「今日は何を盗むの?」


「電池」


「たくさんいるね」


「君はそこにいてね、誰か来そうになったら何か騒がしい音でも流してくれ」


「らじゃー」



 身軽になったロボットは床に降り立つと、棚の引き出しを見る。またはお菓子の空き缶を見る。捨てられた電池も探しているようだ。家具の後ろやゴミ箱の近くも念入りに確認し、三個ほど回収した。速やかに元の窓際に戻ってくる。



「おかえり、早いねぼっさん」


「ただいま、じゃあね」


「え!?」


「だって両手ふさがってるもの」


「必ず戻ってきてよ」


「はいはい」



 ロボットはそのまま林をまっすぐかけていき、青い車が見えてくると少し速度を落とした。ドアがひとりでに開く。



「おかえりロボ」


「ただいま、はいよレディ」


「私は使わないけどね」


「じゃ、ララくんのところ行ってくるね」


「行ってらしゃらい」



 同じ道をロボットはかけていく。窓際のラジオが目に入るが、赤い車が家の前に止まっていた。どうやら住人が帰ってきたようだ。ラジオに気づかなかったのだろうか。そうっとロボットは近づき、家のそばの木から窓の様子を見る。ララくんと呼ばれたラジオはめいいっぱい、アンテナを伸ばすがこちらまでは届かない。そうっと距離を詰めてアンテナをつかもうとする。下手をすればアンテナが折れて終わりだが。



「あ!」



 窓を開けたのは男。大人とも子どもともつかない。



「君はロボット?」


「あ、」


「喋れるの?」


「ザーザーザー、ガガ!動くな!!」



 ぼっさんと呼ばれたロボットは完全に動きを停止する。ララはぼっさんにそう指示した。怪しまれないよう、そのままララはラジオドラマを流し続ける。



「ガガガ、ガガなんでこんなことをした!」


「なんでこんなとこにラジオがあるんだ?」


「ガガ、ダメだ自分の命を大事にするんだ!生きて罪をつぐな」


「君たちどこから来たの?」



 男はラジオとロボットに語りかける。そうっとララに触ろうとする。



「「「触るな!!」」」



 ララの声だ。といってもララは様々な声色に変えられるから、ラジオから出た声は全部ララの声だ。



「君も喋れるの?」


「走って逃げろ!!」



 ララはぼっさんに伸ばしていたアンテナを今度は男に向ける。



「うわ」


「今だ!!」


「嫌だ!!!」



 ぼっさんはララの言葉を無視して窓へ向かう。またアンテナをぼっさんに戻し、こっちに来るなとばかりにつつく。



「なんで足があるのに!」


「なんでつっつくんだ!一緒にいこう」


「どこに行くの?」



 窓に立ったロボットの体は男の手によって宙に浮いた。そのまま家の中へ連れて行く。



「やめろ!!!!」


「ぼっさん!嫌だ!行くな、待って、いや、嫌だ!」


「離せ!!」


「どういう仕組みで喋ってるの?」



 窓は閉まった。




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