第3話:祝福と魔法

アナザー。地球と別次元同座標同時間軸上に存在する平行世界。

形状や地表の天候、四季の移り変わりや温度分布等は地球と差はないものの、築いてきた文化や生態系がことごとく違う。

空に輝く2つの月、銀色の花が一面に咲き誇る花園、竜が住まうとされる渓谷、天を穿つ用途建築時期など一切不明の大塔…

地球でいうところのファンタジーな世界観と言って差支えがないだろう。


アナザーには文化や生態系、地形の他に地球と決定的な相違点が存在した。


祝福ギフト」と「魔法」の存在である。


これら2つの説明をするには神と精霊の存在を語らなければならないだろう。

神も精霊も人類を救い助けるという本質は何も変わらないのだが"在り方"が違う。神は人に依り、精霊は自然へと依る。それだけの違いである。


神が人に与えたもうた、人為的には決して起こせぬ現象を引き起こす才能・・、それが「祝福ギフト」。


精霊と契約し自然の力や時には精霊の力を借りて人為的、もしくは自然に起こる現象を自らの意思で発現させる技術・・、それが「魔法」というものだ。


魔法と祝福についてのこの世界の一般的な認識としては2つ。

1つ、人一人に対して魔法と祝福は両立しない。魔法の才覚があれば祝福は得られず、祝福を与えられていれば魔法を使えない。

また、魔法を極めんとする者の結社「学院」と祝福を得た者たちが運営する宗教団体「教会」、この2つの組織はアナザーで度々衝突を起こす。


2つ、祝福と魔法を両立させるものは歴史の分岐点と言われる人物に成り得るという伝承が各地に伝わっている。過去の為政者が多く該当し、世を裁定するものという意味をこめてその者たちは「裁定者」と呼ばれていた。


――――


日が真中に上る少し前。

街は深夜とは打って変わって喧騒を取り戻し、市場や井戸の近くでは人々が賑わいを見せている。

ヒナタは高台へ続く石畳の階段の少し上の方へ座り、行き交う人々を見ながら出来事を整理していた。


アランからある程度のアナザーの情報を手に入れ、宿まで貸してもらったヒナタには考える時間が必要だった。彼曰く、自分の命を救ったあの出来事は祝福によるもので間違いないらしい。が、危機に陥ると自動で瞬間移動する効果の祝福など見たことも聞いたこともないそうだ。


昨日のアランとの出会いでアナザーで生活をする覚悟はできたが現実問題として、

「金がねぇ…」

思わず口をついて出てしまう程深刻な問題だ。

まずはすでに食うに困っている。定住する場所がないなら日ごとの宿代も必要だ。服も帰宅途中だったからスーツだし、何着か服も欲しい。

日本でもアナザーこっちでもお金がなければ人並みの生活は望めないようだ。なんとも世知辛い。


「日銭を稼ぐにもどこに行ったら良いんだろうなぁ…ハロワとかあるのかな…」


できれば事務職に就きたいところではあるが、やはり経歴も経験もこの世界では皆無の初心者では無理があるだろうか。あれ、でも事務職だと向こうに帰る方法って死ぬまで見つけられない気しかしないぞ…。

せっかく祝福が使えるのなら仕事で活かしたいが、如何せん能力の内容も把握できていない。

ヒナタは手詰まりの感を覚え始めていた。


「さっきからそこで座っているみたいだけど、何かいい景色でも見えるのかい?」


背後から聞こえた美しく響くような声に反応して振り向くと、そこには陽だまりのような人懐っこい笑顔を浮かべる少女が手を後ろに組みこちらの反応を伺っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る