第4話:出会いと暗躍

「えっ、あっ」

あまりにも突然の事で、対応が出来なかった。

「アハハ、いい景色って言ったって街の人と建物しか見えないよね。」


可憐というよりかは凛々しい顔立ちをしたその少女は少し意地悪そうな笑みを見せた。

初めて見た陽だまりの様な笑顔を思い出して心臓の鼓動が早まっていく。

細く締まった華奢な体を少し前に屈ませ、こちらの様子を伺う仕草にすら目を奪われていることにヒナタは気づいた。

まずい。とにかく落ち着いて話をしなくては…。


「そ、そうだね…。」

「あー…っと…困ってたみたいだから声かけちゃったけど、迷惑だったかな…?」


今まで見たこともない美しい少女を前にヒナタは経験値の少なさを露呈させていた。


「そうじゃないんだ!!えっと…この世界に来たばかりだから戸惑っていて…その…何か仕事を紹介してくれる場所を探してるんだけど…。」

「迷惑かけたわけじゃないんだね、よかった。」


今度は優しく微笑みを携えていた。一体この子はどれだけの笑顔を持っているんだろう。


「仕事なら、僕と一緒にギルドに行ってみない?仕事を斡旋してくれる場所なんだ!モンスターの討伐とかが主な仕事だからちょっと危険だけど…。」


アランから聞いた情報と合わせても、よく聞くファンタジーの世界で存在するギルドと同じ認識でいいだろう。戦闘能力の乏しいヒナタではモンスターの討伐等は不可能だと諦めていたが、思わぬ助っ人の登場で状況は好転したと言える。少女が助っ人というのは少し頼りないが、元からギルドで仕事をやっていて仕事仲間を探していたような口ぶりから全く頼れないことはないだろう。

となれば答えは一つしかない。明日の食い扶持の為、汗水垂らして働くのみだ。


「行くだけ行ってみようかな…。」

「今、僕の事頼りないとか思ったでしょ~」


図星であった。顔に出ていたのか。しまった…。


「良く勘違いされてなめられるから言っておくけどね、僕は男だよ。」

「…?!」

「アハハ、いい反応だ!君やっぱり面白いよ!声かけて良かった~!」


淡く咲いた恋心のようなものは雲散霧消。水泡と帰した。

アナザーに来て十数時間。初の恋心を抱いた少女は少年で、その想いは儚げに消え去ったのだった。

呆然。その二文字がヒナタの現在の振舞いの全てを表している。


「あー、名前言ってなかったね。僕はエスカ。エスカ・ベルセフォネ。祝福持ちだ。よろしくね。」

「…俺も祝福持ちだ。朝ヶ谷ヒナタ。ヒナタでいいよ。よろしく。」


お互い握手を交わすとエスカは意地の悪い笑みを浮かべた。

さっきまでは輝いていた意地の悪い笑みは、ほんの少しの邪悪さを孕んでいるような気さえした。



――――――


「…準備はどうなってる。数は十分集まりそうなのか?」


その部屋は仄暗かった。日は高く昇っているが最悪と言える日照角度と勢いの弱くなったアルコールランプが日中にしては怪しい雰囲気を醸し出している。

部屋の中央には木製の円卓が据えられていて、その上にはアナザーの地図と思しき紙切れ。

何かの作戦立案所であろうか。


「数よりも問題は祝福と魔法が反発せず上手く作用してくれるかどうかだ。あとは膨大な魔力源の確保も急ぎたいのだが…ええ?将軍。そのあたり、君こそどうなっているんだ?」


将軍と呼ばれた男は大きく舌打ちをした。彼は不満げな顔を隠すことなく声を静かに荒げた。


「口の減らん男だな、貴様は。安心しろ。準備は既に終えた。あとはそうさな…兵がいる。それも膨大な数のな。」

「その点は抜かりないさ。あと一か月もすれば君の思うままだ。頼んだよ、しょ、う、ぐ、ん、さ、ま。」


アルコールランプは二人を静かに照らし、影を円卓の上に映し出していた。

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