顛末を話す

「おい、鬼はどんな形をしていた?」


そう尋ねるのは巨大な女だ。着物を着て、白粉をつけていて、高島田に結われた頭髪に、真珠のついたかんざしがまぶしい。なんて重そうな球がついているのだろう。私の頭ほどもある。


「どんなって、市井の絵本作家が描く通りですよ。青・赤・緑・黄と景気の良い色味の体にごつごつした筋肉。まあ、餓鬼のようなものもいたけど、おおむね絵本が正しいです」


「ぃやい、嘘はついてないだろうな」

「天地神明に誓ってついていないですよ。つく必要もないですしね」


タモに引き上げられた私とピラルクー(の骨)は、非常に無機質でがらんどうな空間に落とされた。想像力と絵心のない人間が絵にした「科学研究室」のような景色。そこでへたり込んでいると、部屋に1つだけあるドアーから大女とゴブリン少年が入ってきたのだ。そして私を詰問している。


「うちのゴブちゃんがお前を現世とこよへやったんだ。しっかり思い出さないとただでは置かない」


「母さん、もっと詳しく話してくれたら、絵にできるかもしれないです」


過保護な母親と猫かぶりの息子。気が滅入る組み合わせだ。


「だからさっき言った以上に細かく話すことはできないんですって。大体あなた方が」


「話す必要はないさ」

そういって猫目少年が母親に手渡したのはペンライトである。もっとも見た目がペンライトというだけで、大きさは私の腕ほどもあるが。


その首の部分をひねって、後光を思わせるまばゆい光が照射される。私は思わず目をつぶって、顔をそむけようとする。が、母親の左の腕に止められた。


「瞬きを――するなよ」

母親は息もつかせずその光を私の顔面に照射した。


頭が文字通り真っ白になる感覚。ただただ純粋な感覚。その時私はなにかを考えることを封じられていた。あと5秒照射されたら気が狂う、というところで私は解放されたのだ。なにか言ってやりたいが、衝撃でうう、としか声を発せない。


そんな私には目もくれず、母親はペンを自分の口内に差し入れ、先ほどとは逆のほうこうにペンライトの首をひねった。光が伸びて、母親の喉奥に吸い込まれていく。のどにブラックホールが搭載されているのか、光は少しも漏れることなく流れおち、戻ってくることはない。


「なるほどなるほど」

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