肌着とステテコ
「芸をしろと申されましても、ここには芸に使えるような道具はございません」
いよいよ昔話めいた展開になってきたぞ、と思いながら、私は顔面蒼白でそういった。多分に演技症を患っている私。そこには大いなる作為も含まれていたが、そうはいっても恐ろしい気持ちはあった。
「「おいおいこれは」」
双子の鬼が嗤った。
ここで鬼の人数とその序列を一度詳らかにしておこう。鬼は4人。最大の赤鬼が首領で眼帯をした青鬼がその補佐。そのまた子分が緑と黄の双子の鬼である。双子の鬼は栄養状態が悪いのか腹がポッコリ出ている。がっちりと引き締まった赤と青とは大違いだ。とはいえ、正に獣人といった様相の赤鬼と青鬼が節制を心得ているというのもそれはそれでおかしいが。
「「いいか。鬼の前に人間に無理の二文字はないのだ。何かできるといわないとお前の目玉がとられるだけだ。」」
青鬼の眼帯を奪い取って目に覆い被せたくなった。
「そ、それでは道具を使ったものよりは落ちますが、私の芸をご覧に入れましょう。」
私は身に着けていたモッズコートとチョッキ、その下のシャツを脱ぎ、上半身裸になった。そのうえチノパンとブリーフも脱いで、ついにはほとんど裸になった。
「それでは、人体の皮がむけるところをご覧に入れましょう」
そういって私は鎖骨のあたりから縦にずるりと肌着を割いた。さらに下半身に装着していたステテコも力のままに引き裂いた。素材が固いので、ストッキングほどうまくは破れないが、それでもゆっくりとステテコは割けて行き、その下の肌を露わにしていく。
「おお。面白い面白い」
双子の鬼が声に出してキャキャキャと笑った。赤鬼青鬼もニンマリとほほを緩めている。
手ごたえあり。相手は鬼。
私は割き終えた肌着とステテコを手に誇らしさと達成感に身を震わせていた。こぶとりじいさんの世界は温度がないのだろう。不思議と寒くはなかった。
「おい、もう一度」
赤鬼が酒を猪口に注ぎつつ私に顎をしゃくった。
私が困り果てたのは言うまでもない。もう肌着もステテコもないのだ。薄皮ならば、めくることができるだろうか。それで鬼たちは納得してくれるのか。
冷や汗をぬぐいつつ、とにかく指のささくれを摘まんでみる。
ええい、血は出てくれるなよ――とそのとき、白光が天より注いだ。
緒にも私も目を奪われた。白熱電球を思わせる強い光でありながら、目に痛い感じは全くなく感じられた。
そこから手が出た。釈迦の手だ、と私は思った。その手にはタモが握られている。こんどは柄の方でなく網の方を獲物(つまり私とピラルクー)に向けて。
それは私とピラルクーの骨をたちまちに拾い上げ、黄泉へと続くような光の中へ、連れ込んだのであった。
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