第36話:お二人とも相も変わらず、険悪デス
朝陽達は緋色の父の話を地元のいろんな人から聞いてみた。
彼はこの村で人望もあり、多くの人に慕われていたことを知る。
「んー、すごいね。緋色のお父さんって。村の人から愛されてたんだ」
「普通の田舎町って閉鎖的だからな。よそのモノ扱いされるのが常だろうに」
「あっちでも、こっちでも好印象って感じだったね」
「すっかりと溶け込んでいたんだなってのが改めて思わされた」
息子である緋色も知らない、父の生きた軌跡。
この小さな村に移住しての十数年。
亡くなってからも、思い出話として楽しそうに語ってもらえる。
彼は地元の人々と触れ合い、良いコミュニティを築いていた証拠だ。
「聞けば、親父の前職が都会のエリートサラリーマンってのは驚いたな」
「一流企業に勤めてたんだよね。すごーい」
「……そんな地位も、立場も捨ててこの村に来た理由がまだ分からない」
それを知っているのはもう奈保くらいじゃないだろうか。
ある程度、話を聞き終えると、真実に近づくのも行き詰ってくる。
「奈保さんの方の視点から攻めてみるというのは?」
「母さんの? となると、思いつくのはあの人か」
「どなた?」
「沙羅の母親さ。うちの母さんと幼馴染であり、昔勤めていた旅館がアイツの実家なんだよ。……だけど、沙羅に会うのは面倒くさいからな」
緋色と沙羅の仲の悪さはかなりのものである。
また、朝陽と彼が付き合い始めた事でさらに悪化してる。
顔を合わすたびに大げんかだ。
「でも、真実を知るにはそれしかない。行ってみようよ」
「気が重いぜ」
彼女たちは沙羅の実家である温泉旅館に向かうことにした。
旅館に着くとすぐに沙羅が出迎えてくれた。
「朝陽ー、私に会いに来てくれたのねぇ」
「沙羅ちゃん~」
お互いに仲良くハグしあいながら、
「会いたかったわ。なんなら今から一緒に温泉にでも入る?」
「え、遠慮させてもらいます」
そこでは一歩引いてしまう朝陽でした。
――沙羅ちゃんは私のおっぱいを狙うので困ります。
親友の過剰なスキンシップに戸惑うのだった。
「おい、百合女。お前に会いに来たわけじゃない」
「緋色? 貴方、私の旅館に踏み入ることを禁じるわ。不愉快なの、出ていけ」
「……相変わらず口の悪い女だな。東堂も苦労してるぜ」
「け、慧斗のことはどうでもいいでしょ。貴方に関係ないし」
東堂は沙羅の元恋人であり、今も親しい間柄。
今は復縁間近の微妙な関係である。
「最近、ようやく関係が戻りつつあるんだよね? この前もデートしたとか」
「朝陽!? 余計なことを言わないでくれない?」
照れくさそうに顔を赤らめる。
元通りに戻るために、時間をかけながら二人は距離感を縮めているのだ。
「私はそれを応援している立場なのです」
「……なんだ、本格的に東堂とヨリを戻したのか?」
「アンタに関係ないでしょ」
「まぁ、お前みたいな奴に付き合えるのは東堂くらいだろうけどな」
「うるさいっ。人のことは放っておいて。それでふたりで来るなんて何用なの?」
「お前に用はないさ。お前の母さん、桔梗さんを呼んでくれ」
桔梗は沙羅と心春の母親であり、奈保の幼馴染である。
彼女も何度か会ったことがあるが、すごく凛々しい女将さんである。
「お母さんに? お母さんなら今、心春を指導しているわ」
沙羅は緋色と一緒にいたくないので、ついてはこなかった。
――お二人とも相も変わらず、険悪デス。
どうにも仲良くはなれないようだ。
沙羅に言われた通り、座敷の奥で何やら教えられている彼女を見つける。
「こんにちは、心春ちゃん」
「朝陽さん。どうもです。緋色さんも……おふたりともどうしたんですか?」
「桔梗さんに用があってな」
指導しながら、部屋の前で掃除をする桔梗に声をかける。
「どうも、桔梗さん。お久しぶりです」
「あらぁ、緋色くんじゃない。かなり久しぶり。男前になっちゃって。朝陽さんもこんにちは。またあの子に会いに来てくれたのかしら?」
着物姿の和服美人。
容姿はどちらかと言えば、心春の方ががよく似ている。
「今日は沙羅ちゃんじゃなくて桔梗さんに聞きたい事があってきたんです」
彼女にそう告げると「私に?」と不思議そうな顔をする。
「お時間は良いですか?」
「えぇ。心春、休憩にしましょう。お茶でも淹れましょうか」
旅館の奥にある応接室に案内された。
「どうぞ、熱いので気を付けてくださいね」
「ありがと、心春ちゃん」
心春が淹れてくれたお茶を飲みながら朝陽達は本題を切り出す。
「実は緋色のお父さんについて色々と調べているんです」
「道宏さんのこと?」
「まぁ、母さんに聞けば早いんでしょうけど、ああいう人ですから。周囲の人からいろいろと聞いてから、直接聞こうと思って……桔梗さんはうちの母さんとは幼馴染ですし、いろいろと知ってるんじゃないかと思いまして」
「親友だもの。よく知っているわ。今の沙羅と朝陽さんのような関係だった」
過去の話を聞きだすために、朝陽は奈保の昔を尋ねた。
「奈保さんってこの旅館で働いていたんですよね?」
「そうよ。私が誘ったの。卒業後、就職のために村を出ていくって言うからそれが嫌で、うちを紹介してね。でも、すぐに道宏さんと知り合って結婚したけども」
「奈保さんの話を聞かせてもらいませんか?」
「もちろん、いいわよ」
奈保の視点から話を聞く事で、見えてくるものがあるかもしれない。
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