第27話:私は朝陽が好きなだけよ。ねー?
満開になった小川沿いの桜並木の下。
本日は日曜日、朝陽達はお花見をすることになった。
「緋色、約束通りに皆でお花見だよ」
「……お嬢がホントに約束を実現するとはな。ちょっと驚きだ」
「大変だったけど頑張りました……ホントに大変だったのです」
昔の友達を集めて、お花見会をする。
それが朝陽の望みだった。
――ただし、その約束に欠かせない沙羅ちゃんが参加するまでが大変でした。
仲直りしても、今さら皆の前に合わせる顔がないと、ぐずられてしまった。
散々、説得しても嫌だと困らせられて。
彼女を説得するのに数日間の時間がかかってしまったのだ。
「お嬢はやる時にはやる女だと少しは見直してやろう」
「見直してください。もっと褒めて、褒めてー」
「はいはい」
適当に犬を撫でるような仕草で朝陽を褒める。
「えへへっ」
緋色は目の前のもう一人の少女、沙羅に視線を向けた。
「で、沙羅。お前が俺達の前に姿を現すのは久しぶりだな」
「そうね。でもその前にまず、アンタの手を離しなさい」
「はい?」
「朝陽を撫でていいのは私だけなのよ」
すぐさま見せつけるように朝陽の真横で腕を組んでくる。
――最近はこういうスキンシップも激しい彼女です。
仲良くなれたのはいいが、あんまり女子にベタベタされるのも困る。
「私、緋色に褒められるのが好きだよ」
「こんなダメ男に?」
「おい」
「朝陽。この程度の男に引っかかっちゃダメよ」
緋色の方を向くなり、軽く牽制する仕草を見せて、
「私としてはすんなりと貴方達が仲良くなってる事に違和感があるわ」
「放っておけ。別に仲良くなってるわけじゃねぇよ」
「えー、私達、仲良いじゃない。昔はキ……むぐっ」
「お嬢。お前、今何を口走ろうとしやがった」
口をふさがれてしまい、朝陽は大人しく「黙ってます」と沈黙を示す。
そんな朝陽達に彼女は杖を片手にジト目で睨む。
「怪しい。まさか緋色……私の朝陽に何か人に言えない真似を」
「するか。あと、いつからお前のモノになったんだよ」
「ふんっ。何があったか知らないけど、私と朝陽の関係には敵わないでしょうけどね。親友としての関係を深め合ってるのだから」
「……そうかい。知らない間にラブな意味で関係が進展してるようで」
「してないよ!? 私はノーマルですっ」
緋色にまで誤解されるとすごく悲しい。
――私は普通に緋色が好きなノーマル女子です。
膨れっ面をしていると、
「お待たせ~」
そこに弥子がお弁当箱を持って、ようやく合流してくる。
「お花見と言えばお弁当。ちゃんと作ってきたよ」
「唯一の既婚者が、料理できるアピールしながらやってきた」
「むっ。口の減らないお兄さんは食事はいらない、と?」
「そうは言ってないさ」
弥子は沙羅を見るなり優しい笑顔を見せる。
「沙羅だ。おかえり」
「ただいま? って、私はどこかに行ってきたわけじゃないのだけど」
「こーして、また私達の所に帰ってきてくれたじゃん」
「……ありがと」
「どういたしまして。ふふっ。アサちゃんのおかげだねぇ」
優しく笑いかけて弥子は温かく迎えてくれる。
かつては仲の良かった彼らの関係は年齢を重ねて。
いろんなことを経験して。
離ればなれになってしまっていた。
その関係を少しでも縮められたらいい。
「そうね。今の朝陽があるのは朝陽のおかげであることは確かよ」
「また皆で笑いあえたら私はそれでいいの」
「ったく、このお嬢が村にやってきて、俺達はずいぶんとかき回された気分だぜ」
「言い方がひどくない?」
「実際そうだろう」
皮肉屋の緋色が悪態をつくのもいつもの事。
朝陽はすっかりと慣れてしまい、微笑を浮かべる。
「緋色だけは昔のままだよねぇ」
「どういう意味だよ」
「口が悪くて意地悪さんって意味です」
「好き放題に言ってくれるじゃないか、お嬢。お子様のくせに」
「あら、性格は可愛いままだけど、ここは成長してるわよ」
ぽにゅん。
平然と沙羅が朝陽のおっぱいを皆の前で揉む。
「にゃ、にゃー!? だから、私の胸を揉まないで!?」
「ふふっ。朝陽の反応が可愛くてつい」
「やべぇ。沙羅が本気で百合属性を身に着けやがった」
「誰が百合ですか。私は朝陽が好きなだけよ。ねー?」
「ひ、ひっつかないでぇ」
「まぁ、被害者はお嬢だけだから放っておいても害はないからいいか」
「そこは放置しないで助けようよ!?」
緋色にまで見放されたら朝陽を助けてくれる人がいなくなります。
――沙羅ちゃんと仲良くなれたのはいいけど、セクハラされるんだもん。
警戒する朝陽である。
あいにくと、女子におっぱいを揉まれて喜ぶ趣味だけはない。
「それじゃ、お花見しましょうか。アサちゃん、手伝って」
大きめのレジャーシートを敷いて準備を始める。
心地よい風と穏やかな気候が抜群に良いお花見日和。
「お花見っていいよねぇ。満開の桜を眺めながら食事なんて最高」
「都会だと人が多くて大変だと聞くけども?」
「あー、そう言う人気スポットに行くと場所争いからして嫌になるの」
こうしてのんびりとお花見は都会じゃできないこと。
桜が視界の一面に広がり、ピンク色の幻想的な景色に包まれる。
満開の桜を見上げながら、朝陽達は弥子の作ってくれたお弁当箱を開く。
中は美味しそうな具だくさんのサンドイッチだった。
「いただきます。うわぁ、どれも美味しそう」
「この辺とかお勧めだよ」
「これはなに?」
「エビとアボカドのサンドイッチ。こっちは生ハム。普段作らないけど、テレビで見て作りたくなって挑戦してみたの」
料理上手な弥子だけあってサンドイッチもすごく美味しい。
朝陽もちょっとずつ奈保に教わって、料理の基礎を習ってるところだ。
――まずは包丁の持ち方からなので先はまだまだ長いのです。
ちゃんとした料理を作れるのは当分先のようだ。
それでも確実に進歩している。
「んー、まぁまぁじゃないか」
「緋色君の答えは聞いてません。寂しく一人で食べてれば?」
「弥子。お前、俺にだけは厳しいよな」
「……皮肉屋で悪口ばかり言う幼馴染に対して普通の反応だと思うの」
「緋色はみんなに意地悪してるから自業自得だね。んにゃー!?」
余計な一言が原因で緋色からお仕置きされるのも毎度の事だった。
「ひどいのです。あれですか、好きな子いじめってやつですか」
「ちげぇよ」
「……緋色が素直じゃなくてつまらないです」
素直になればなったできっと戸惑うだろう。
――男心って難しい。でも、優しくされたい。
すっかりと緋色に恋心を抱く朝陽だった――。
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