第21話:もしかして、ご兄妹ですか?


「別荘に行く前にお昼ご飯にしましょうか?」


 目的地に到着して、淡雪は猛にそう尋ねた。

 

「いいね。あのお店とかどうかな?」


 ちょうど昼食の時間帯でもあり、目についたのはカフェだった。

 雰囲気の良いオシャレな外装。

 店内に入ると、明るい声の女性店員が出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。二名様ですか? お好きな席にどうぞ」


 窓際の席に座り、淡雪達はメニュー表を眺めながら、


「ケーキセットだって。うわぁ、美味しそう」


 どうやら、手作りケーキが人気のお店のようだ。

 思わず悩んでしまう。


「ランチセットにする? ケーキセットにする?」

「ケーキセットかな。私はガトーショコラに決めました。猛クンは?」

「こっちのやつにしようかな。ランチセット。カルボナーラだってさ」

「猛クンはコーヒーでいいよね。私は紅茶にしておこうかな」


 すぐに店員を呼び、注文を終えると、マジマジと二人を見つめてくる。

 

「どうかしました?」

「いえ、よく似てらっしゃいますね。もしかして、ご兄妹ですか?」


 そんな言葉を告げられて、淡雪は微笑してしまう。


「え? あ、はい。そうなんです。ねぇ、お兄ちゃん?」


 否定しなかった淡雪に一瞬驚いた顔をする猛。

 だが、話を合わせるように、


「はい、そうです。兄妹なんです」

「やっぱり。お二人ともよく似ていますよ」


 彼女の言葉に淡雪は猛に甘えるようなしぐさと共に、


「そう言ってもらえると嬉しいです。仲のいい兄妹なんですよ」

「くすっ、美形のご兄妹なんて素敵ですね」

「ありがとうございます」

「ご兄妹で旅行ですか。楽しい旅行になるといいですね」

「はい。たくさん、楽しむ予定です。ねー、お兄ちゃん?」

 

 にこやかに微笑みながら対応する。

 彼女が去った後、思わぬ言葉に淡雪は笑いを押さえられなくて。

 

「ふふっ、あははっ」


 つい笑みがこぼれてしまった。

 正面の猛は少し困った顔をする。


「はぁ。淡雪さん、笑いすぎ」

「兄妹だって? 猛クン、どうしましょう」

「……どうコメントしていいのやら」

「私達、兄妹に見えるんだって。そっかぁ」


 時々、二人は似ていると言われることがある。


――持っている雰囲気が似てると言われるのはあるけども。


 容姿も似ていると、言われて兄妹扱いされるとは思わなかった。


――初対面の人から見れば、よく似てる兄妹に見えるのかしら?


 淡雪は彼の顔に視線を向ける。

 自分ではそれほど容姿が似てるとは思わない。


「よく雰囲気が似てるとは言われるけど、兄妹に見られるなんて。そんなに似ているかなぁ? どうしよう、お兄ちゃん?」

「お兄ちゃんはやめれ」

「……ふふっ。でもね、恋人に見られなかったのは残念だわ」


 その点には悔しそうに淡雪は「ホントに残念」と嘆く。

 

――こういう時は普通、恋人関係だって思われるものなのに。


 なのに兄妹に思われるのは、ちょっと意外なものだった。

 淡雪は猛にわざとらしい口調で、


「私達は恋人よりも兄妹に見えるみたいよ」

「淡雪さんは恋人に見られたかった、と?」

「猛クンとならそれもありかしら」

 

 素直に認めると、どこか照れくさくなる。

 それは彼も同じようで、微笑で誤魔化す。


「……兄妹に見える、か」


 何気にその言葉は淡雪の胸に残った。

 何の事情も知らない人からそんな風に言われるなんて。

 

――異性同士、普通なら恋人関係だと思うのに。兄妹扱いかぁ。

 

 少なからず、淡雪と猛には兄妹めいたものを感じ取られたということ。


「猛クン。今日からお兄ちゃんと呼んでもいいかしら」

「……淡雪さんみたいな完璧な妹がいたら兄の立つ瀬がないんだってば」

「いいじゃない。私は案外、お兄ちゃんの前では素直に甘えたがりかもよ?」


 わざとらしく淡雪は「お兄ちゃん」と連呼して、彼を困らせたり。

 ケーキセットが来るまでの間、淡雪はひとしきり彼をからかって遊んでいた。

 ふたりの穏やかな時間が過ぎていく――。

 

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