第114話:愛を確かめさせてください
これまで超えてはいけない一線があった。
それを超える時がきている。
「……撫子」
「私の胸に触れてみます?」
「触れちゃダメだから。あー、撫子。やめませんか」
「嫌です。あんまりじらさないでください」
彼女自身も、恥ずかしさに耐えている。
普段は誘惑的な行為を平然とするが、羞恥心はある。
「私もこう見えてかなり緊張してますよ。心臓なんてバクバクです」
「ホントに?」
「触ってみてください。ドキドキを感じてます」
「……確認できないっての」
「していいんですよ?」
猛は生唾を飲み込みながら、額に汗を浮かべる。
彼だって男の子だ。
撫子をどうこうしたい気持ちは当然のようにある。
――せっかく、理性が頑張り続けてくれてきたのに。
その理性が今、失われようとしている。
――いいのか、俺。ここでやっちゃっていいのか。
手を伸ばせば簡単に届く距離に恋人がいる。
あとは彼の気持ち次第だ。
「いいのか?」
「返事は既にしてますよ。貴方の愛を確かめさせてください」
「……それは」
「兄さんに必要なのはたった一つの覚悟です」
そっと彼女は指先を彼の唇に触れさせる。
「私を抱いて、私を貴方のものにする。その覚悟をしてくれたら、私たちは本当の意味で恋人になれます。さぁ、どうします?」
猛に身を委ねる撫子。
お互いに息遣いが聞こえる距離だ。
――決断するのは俺だ。
互いに見つめ合えば、緊張も増していく。
「……私からリードしてもいいですけど、やっぱり私も女子ですから。男の人にリードされる方がいいですね。兄さんになら何をされてもかまいません」
「恥ずかしいからおしゃべり禁止だ」
「んっ……こういうの好きですよ」
彼女の唇を封じながら猛は撫子に手を出す覚悟を決める。
いつかはこの一線を越える時がくる、それが今だ。
「撫子……」
「ふふっ。兄と妹の恋愛っていうのは、今や、ありきたりなシチュですが、実際に想いを通じさせる兄妹はどれだけいるんでしょうね?」
「さぁな」
深呼吸をひとつして、うっとりと恥ずかしそうに顔を赤らめる撫子を抱きしめる。
ずっと好きだった女の子。
「好きだよ、撫子」
「私もですよ、兄さん。愛しています」
彼女を愛することができることが猛の幸せなのだから。
もう迷いはなかった。
猛が撫子の胸のふくらみに手をかけようとした瞬間。
「――猛、ちょっといいかしら。大事な話があるんだけど?」
迂闊にも扉を閉め忘れていた。
部屋に入ってきた雅が見たのは、今にも妹に襲い掛かろうとする弟の構図。
――さ、最悪だぁ!?
思わぬ展開に猛は完全硬直してしまう。
最悪のタイミングで家族バレした瞬間だった。
――撫子となら一線を越えてもいいと思えたのに。
大事な女の子を愛するなら、当然のことだ。
――こんなはずではなかったのに。
ただ、その行為を家族に見られた時ほど恥ずかしいものはない。
彼女を押し倒した猛に姉ちゃんは冷静な声で、
「あー、ごめん、ごめん。お邪魔なタイミングで来ちゃった」
「ホントにそうだよ」
「妹と弟がくんずほぐれつするシーンをリアルで目にするなんて」
「今日は誤解じゃないから否定できない」
ものすごい羞恥心とがっかり感。
メンタルダメージは計り知れなく。
――消えてしまいたい。
彼のMPはガリガリとかき氷のように削られた。
不機嫌な撫子は大人しく猛のされるがままにされたまま、
「もうっ。姉さん、私の邪魔をしないでください」
「うーん。私もしたくなかったわ。だけどさぁ、普通はこういうのって『今日、誰も家族がいないんだけど』というシチュが前提じゃない?」
「そうですね」
「私も一緒に暮らしているのを忘れて、行為に及んだ二人が悪い」
「はい、その通りです」
「大体さぁ、勢いでしちゃったと言う事は準備もしてないんじゃないの?」
真面目に追及されると悲しさ倍増だ。
「大事なことがあるでしょ。その辺もちゃんと考えてる? ダメよ、将来のことも考えないと後悔することになるんだから」
何故か姉に真面目な説教をされる。
「そろそろこの公開処刑は勘弁してもらえませんでしょうか」
「面白いからスマホで撮っておこうかしら」
「やめれ。カメラを向けないで」
「大丈夫、写真じゃなくて動画よ。お母さんに見せてあげようかな」
「余計に悪いわ!?」
撫子を押し倒す猛の姿なんて写真に残さないでもらいたい。
母に怒られるだけではすまなくなる。
「えー。いいじゃん。素敵な嵐が吹くわよ」
「これ以上、嵐はいらない」
「ちぇっ。面白くなりそうなのに」
「悪ノリが過ぎるぜ」
ホントに追い込まれたらどうしてくれる。
「……ところで、猛」
「何でしょうか。まだ何か?」
「その情けなく、撫子の胸を揉もうとして固まったままの手を何とかしたらどうかしら? お姉ちゃん、今から10秒だけ後ろを向いてあげる。妹の胸をワンタッチするくらいなら許してあげるから」
「そんな優しさなんていらないよ。ぐすっ」
「兄さん。してもいいですよ」
「もう許してください。すみませんでした」
行き場のなくなった想いと衝動を堪えるのに必死だ。
泣く泣く手を引っ込めるところがヘタレな猛だった。
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