第34話:お、俺の人生、詰んじゃった
減点されたら即結婚のデンジャラス恋人ごっこは後半戦へ。
すっかりと日も暮れ始めて、夕食の時間帯になりはじめていた。
「デートする時間もあまりありませんし、お腹がすいたので夕食にしましょう。素敵なディナーに連れていってください」
「選択肢はファミレス、牛丼屋、ラーメン屋の3種類から撫子の好きなものをどうぞ」
「それを本当のデートで提案するなら、貴方のデートセンスを疑います」
「……マジで?」
「モテるわりにはあんまりそう言う事に慣れていないせいで、疎いですよね」
「そ、そんなことはないぞ?」
「いえ、私もそのことにはがっかりですよ」
「――!?」
猛の心がばっさりと切り捨てられた。
――うぐっ、女の子からそう言われたら自信をなくす。
今日の撫子は遠慮容赦がなくて、とても悲しい。
「え、えー。いつも、夕食はそう言う系の店に行ってるじゃないか。撫子も文句言わずに牛丼屋についてきてくれたのに」
「今日は兄妹で過ごす夕食ではありません」
「違いますね」
「恋人としてのデートですよ。気遣いが足りないので3点減点です!」
残り点数が2点になって、人生大ピンチ!
いっきに5点減らされなかったのは撫子のせめてもの情けか。
――俺を活かすも殺すも撫子次第。くっ、なんてことだ。
まさに掌の上で転がされている。
「これ以上の減点はマジで人生詰みかけ寸前なので勘弁してください」
「デートでラーメン屋とか一番最悪パターンですよ」
「マジで? デートで麺をちゅるちゅるNGですか」
「初デートでそんな所に連れていくような彼氏とは付き合いたくありません」
「ラーメン好きな女の子なら?」
「それならば悪くはないかもしれませんが、大抵の女の子なら減点です」
「そうなの? ラーメンはダメ?」
「兄さんはデートでの食事の重要性がまるで分かっていないようですね」
やれやれと言ったジェスチャーと共に撫子に呆れられてしまう。
ボロボロに言われてしまってる。
猛の立場は、兄としても、男としてもないに等しい。
「食事の重要性とは何でしょう?」
逆にレクチャーを願いたくて、彼は尋ね返した。
「普通のデートでもそうですが、大切なのは相手と話をするということです。デートでお互いに黙り続けて遊んでも楽しくないでしょ?」
「確かに」
「お話をして、相手を知ったり、会話を楽しんでこそのデートです」
「なんとなく分ります」
「ですが、普通の場合はそれでも緊張するんですよ。好きな相手とのデートはいえ、会話に困ることや会話が途切れてしまう事も多々あるでしょ。そういう時こそ食事が重要になってくるんです」
食事をしていれば、必然的に話題が見つかる。
その料理の味や素材、話の幅を広げることもできるだろう。
話をしなければ、人は親しくはなれない。
相手を理解し合えるきっかけ、それを食事に求めるのだ。
「話をするための食事ってことか?」
「話題選びに困らないという意味では最適な機会でしょう」
「うん。食事の時はゆっくりと話もできる」
「そうです。食事をしながら、お話をするということは、会話も自然とはずみ、お互いに気持ちのいい時間を過ごすことができると言うことです」
「店選びの重要性もそこにあるわけか」
「そこで味が美味しくないお店とかチョイスしたら最悪でしょう。一言で『まずい』と会話終了になって、同時にデート終了です。おそらく二度目はありません」
それはやってはいけない事は分かる。
たった一つの選択ミスが命とりなんてのはよくあることだ。
「さらに、ゆっくりと会話をするために、食事を楽しみながらお話できるくらいの時間が必要になります」
「だんだんと分かってきたぞ」
「ラーメンとか牛丼屋で兄さんは1時間も過ごせますか?」
「ごめんなさい。そこまでとは思わず、俺の考えが甘すぎでした」
反省しながら、猛はため息をつく。
これは自分の考えが浅かったと認めざるを得ない。
――デートって意外と難しいものなんだな。
いかに自分が何も考えずに流されてきたか。
そういう意味ではデート経験くらいは重ねておくべきだった。
「須藤先輩とも何度もデートをしていたのでしょう。どういう所へ行きました?」
「彼女とのデートの時の食事は駅前のオシャレなパスタ店とか、オムライス専門店とかに行った。選ぶのに苦労したかな」
「な、なんで、そんな所に連れて行ってるんです」
「はい?」
「私とのデートじゃ、せいぜい、庶民派イタリアンレストランとか、ファーストフード店じゃないですかっ。不公平すぎますっ」
「そんなことはないだろ? たまにはちゃんとしたお店に行くぞ」
「須藤先輩の時は毎回、ちゃんとしたお店を選んでるのが許せませんっ!」
猛に対して不満爆発する撫子。
普段の冷静さがそこにはない。
自分との明らかな差別にお怒りの様子。
「だって、サイゼ●ヤのドリアとか、モ●バーガーのトマトチーズバーガーとか、撫子も好きだし、いつも喜んで食べてるからその辺で満足してくれてるじゃん」
「好きですけど、他の女の子とのデートとの扱いにがっかりです」
「そんなつもりはないよ」
「兄さん、私の扱いが低すぎませんか?」
「誤解だってば。それはない」
撫子の好みに合わせてきたという自負はある。
ただ、淡雪とのデートには毎回、いろいろと考えていたが。
――計画性があるのとないのと。その違いかもしれません。
傍にいることに慣れすぎたというのも考え物である。
「こんなにも兄さんに尽くしているのに、ひどすぎます。裏切りですよ」
「……まるで俺が悪い奴みたいな言い方だ」
「兄さん、今のは10点減点です。減点オーバー。これにて終了です」
「は、はひ?」
「約束通り、私と結婚して下さい。幸せな家庭を作りましょう♪」
「逆プロポーズされた!?」
人生終了のゴングが鳴る。
――お、俺の人生、詰んじゃった。
ゲームオーバー。
しかも、結果は減点17点と大幅すぎる超過だった。
撫子は猛を追い込むように、
「すでに子供の名前も決めています。女の子なら清純そうな明日香|(あすか)。男の子なら明日夢|(あすむ)とすでに考えています」
「なんで?」
「どちらも名前の『明日』がついてるのは常に明日を見つめて、前向きに生きて欲しい母としての私の願いが込められています」
「子供の名前の意味まで決まってる!?」
――しかも、既にお母さんの気持ちになってるのが怖い。
そこに撫子の本気度が分かる。
「私は今時のネタ系に走る名前を好みませんから。子供は3人くらいで少子化対策に貢献しましょう。一人目は可愛い女の子がいいですけど、兄さんはどうですか?」
「家族計画がリアルな上に真剣すぎて怖いよ、撫子さん」
子供の名前を考える所まで話が飛んでるのをまずどうにかしよう。
「ま、待ってくれよ。俺が悪かったので素直に謝ります」
「もう私だけ差別したりしませんか?」
「はい、ごめんなさい。許して下さい」
「では、ラストチャンスです。今日の夕食はどこにつれていってくれます?」
撫子から与えられた最後のチャンス。
猛は必死に考えた結果、あるお店をチョイスする。
「パンケーキの美味いお店がここから少し歩いた所にある。撫子が好きそうなお店だ」
「そこはファミレスやファーストフードのようなお店とは違いますか?」
「……うん。値段が少し高いけども、おしゃれなカフェ風のお店だってさ」
ちなみにそのお店は淡雪の行きつけの店で、よく行くらしい。
話だけには聞いていたのだ。
そのことを彼女に正直に告げるとまた機嫌を損なうので言わない。
嘘はつかない。
だから、余計なことを言わないと勉強した猛である。
「そこでご満足してもらえないでしょうか?」
「兄さんが私とようやくデートらしいお店を選んでくれたのでご機嫌アップです。いいでしょう、兄さんを許します」
「ありがとう、俺の可愛い撫子さん」
「うふふ。さぁ、私をデートらしくエスコートしてください」
お店に入ると想像していたよりも素敵なお店だった。
女子のお客がほとんどで、かなり賑わいを見せている。
撫子が注文したのは甘そうなイチゴがたっぷりのストロベリーパンケーキ。
大量のフルーツと生クリームに埋もれるパンケーキを前に彼女は、
「ん~。超絶に甘くて美味しいですっ。こんなにふわふわで、口の中で溶けるような柔らかいパンケーキは初めて食べます」
「そうか。満足してくれたらよかった」
「ハニーシロップと生クリームとの相性も抜群です♪」
「これは家じゃ作れないよなぁ」
「ですね。こんなに美味しいなんて思っていませんでした」
満面の笑みで幸せそうに撫子は食事を続ける。
溜まっていた不満もすっかりと解消してしまったようだ。
それにしても、女の子はそんなに甘いのをよく食べられると感心する。
「私に今日のデートを楽しませてください」
「十分してると思うけど」
「食事と一緒にお話をするのも大事だと言ったはずですよ?」
その笑顔を見てたら、これからはもう少し色々と考えてあげたいと思ったんだ。
「そうだね。それじゃ……」
会話を弾ませながら、楽しいデートを過ごした。
ただし、パンケーキひとつで1400円とか学生のお財布に優しくないお店だった。
女の子を満足させるのはお金と気力が必要なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます