第10話 犠牲

あれから、二週間がたち、体育祭まで残り一ヶ月をきった。


 ある日の放課後、部室へ行く途中に夏彦に呼び止められた俺は、花宮を先に部活に行かせ、旧館の二階の廊下で夏彦と話した。


「君の、そのやり方で内田が助かるのは、君にとってはいいことなんだろうが、周りのことをよく考えてみるべきだよ」と急に夏彦が言った。


「なんでだよ。何か、変なとこ、おかしな点はあるのか?これをやって内田が振られず、俺が嫌われるかもってだけだろ、ほかに何か問題があるか?」と悠希が言った。


「それだよ、君がどう思ってても、ほかの人からすると君のことを大切に思っている人はいるんだ。そろそろ気づけよ、悠希。きみが嫌われるのを悲しく思ったり、嫌がるやつがいることに」


「は?何言ってんだ?ぼっちだからそんな奴はいないに決まってるだろ。友達がいるならまだわかる。そんなことを思ってくれる奴がいたら俺はとっくにぼっち卒業してるよ。よく考えろよ、お前は、一人になったことがないからわかんねぇだろうな。そもそもお前が逃げたせいで、こうなってんだよ」と俺は思ってもないことを言った。これは嘘だ。俺は嘘をつくのが大嫌いだ。だから、俺は、初めて自分のことを大嫌いになりそうにだった。


「そうか、じゃ俺が内田を止めるよ」


「お前、それを選ぶと嫌われるかもしれないけどいいのか?」


「あぁ、俺は構わない」


「そうか、お前は自分を犠牲にするのはだめだ。いや、お前はそれをしてはいけない。ボッチである俺の役目だ。そもそもお前には、できないだろ」


「君ならそう言うと思ったよ。でも、君はこれをやろうとしてるんだ。もう少し考えた方がいい。それと、君は誰かのために、このやり方でやるんだろ?その誰かは俺や内田、琥御山さんではなく、花宮さんだろ?君は花宮さんのためにやろうとしている。それと君自身のために。あと君はボッチではないよ」


「ちげぇよ、すべてはお前のためだよ。それと俺は嫌われてもいいんだよ、俺には誰もいないから」


「俺は、本当のことを言うと君と友達になりたいと思ってた。ただ、今じゃ君と友達なんて無理だ。君はすごいからなぁ、俺じゃ手も足も出ないほど、本当にすごいよ君は」


「全然すごくねぇよ。お前に誘われなくてよかったぜ、あんなグループには、いたくねぇからなぁ。じゃあ、俺もう行くわ」そう言って話を終わらせた。


「がんばれよ、部活」


「お前もな」そう言って部室に向かって歩き出した。ただ、夏彦は下を向いてその場で立ち尽くしていた。少なくとも、夏彦の姿が見えるまでは。

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