第25話
「あ、あのぅ、どうしておれっちの衣装が、女の子の服なんですか?」
ルオーネ謹製のコスプレ衣装に身を包んだキロードは、自分が女装していることが恥ずかしくてもじもじした。
「このイベントでは、自分の好きな作品の好きなシーンを、自分たちで演じて再現する、名シーン再現シアターという催し物がありますの」
名シーン再現シアター専用のステージが会場内に設置され、そのステージの上で、再現劇をやってみたいコスプレイヤーたちが、自由参加で即興の寸劇を演じるのだ。毎年行われているこのT‐SPOOKでは、名シーン再現シアターが行われることは通例となっていた。
「それにセルフィを誘って、劇のどさくさに紛れて殺すというのが、わたくしが考えた作戦なのでしてよ。あの女がコスプレするのに選んだマンガの中で、あの女を殺すのに最適なシーンに必要なキャラが、わたくしが扮するキャラ以外にもう一人出てきますの。それが女性キャラですので、あなたにはその女性キャラに扮していただく必要があるのですわ。それに恥ずかしかったらその分、ブレイブエナジーが溜まるのですから我慢してくださいまし。それにしても女装している今のあなた、醜いですわね」
キロードの姿を改めて見たルオーネが顔を顰めた。
自分でもわかっているが、口に出されると傷つくキロードだった。
キロードがコスプレしているのは『ルクス×クロス』に出てくるガナメダという女性キャラクターだ。
髪型は茶髪のポニーテールで、ピンクを基調とした、近未来ファンタジーチックなデザインの鎧を着ている。その鎧に肌が隠されて、見えているのは肘から肩の下までの腕と、膝下から太ももの真ん中くらいまでだ。ガナメダの武器は、トロルイーターという名の大剣だ。ピンク色の刃を持つトロルイーターは、これまた近未来ファンタジーチックなデザインをしていた。
キロードの体型に合わせて作られたガナメダの鎧は、とても不恰好だった。それだけは実寸大で作ったトロルイーターは、背の低いキロードの身の丈よりも大きかった。
ルオーネがコスプレしているのは『ルクス×クロス』に出てくるレッテという女性キャラだ。
ルオーネは紫色の髪のロングツインテールのキャラウィッグを被り、一見メイド服のように見えるけれど、その大部分が金属製という、白と黒を基調とした金属鎧に身を包んでいた。レッテの武器はグランチェレイターという名の、穂先が白い槍で、これも近未来ファンタジーチックなデザインをしている。
ルオーネはセルフィとヴァニアスに、キロードは更に悠人と涼子にも顔を知られているため、二人は夏祭りで買ってきたお面を被っていた。そのお面のせいで、二人はシュールな出で立ちになっていた。
トロルイーターとグランチェレイターは、コスプレ衣装のアイテムだが、セルフィを殺すために、ルオーネはこれらを本物の武器として作製していた。
グランチェレイターの鋭く尖った穂先を見つめながら、ルオーネが殺意を滾らせる。
「わたくしがこの槍で串刺しにして、あの女の命を今日で終わりにしてやりますわ!」
「ルオーネ先輩、おれっちトイレに行ってきます」
キロードはルオーネに断りを入れ、トイレに向かった。
コスプレイベントの会場だけあって、周囲にはコスプレイヤーたちがたくさんいた。その中で、キロードの目を奪うコスプレイヤーがいた。
キロードがマンガ喫茶で最新刊まで読破した『モンスター娘だって恋がしたい!』に出てくるヒロインたちのコスプレをしている三人組の姿が視界に入る。
三人とも衣装の完成度がかなり高く、そしてその中でもキロードのお気に入りのキャラである、ラウネのコスプレをしているコスプレイヤーは、かなりの美少女だった。
キロードが見惚れていると、三人がキロードの近くまで歩いてきた。それはまるでラウネたちがマンガから飛び出してきたかのような光景だった。
キロードは思わず声をかけていた。
「それってモン恋のラウネだよね」
ユウカリンこと優香と、梨乃と芽衣が、話しかけられたことに反応してキロードに顔を向ける。そしてキロードの姿を見た瞬間、三人が笑う。
「あはははは! ルククロのガナメダ!? 男なのに女の子キャラのコスプレしてるの? ごめん。思わず笑っちゃった」
キロードは羞恥でお面の下の顔を赤くする。
「う、うん。わけあって女装コスプレしてるんだ。恥ずかしいからお面つけてないと人前に出れないんだけどね」
キロードは、お面をつけている理由は適当に嘘を吐いた。
「おれっち本当はモン恋のファレルのコスプレがやりたかったんだけどね」
優香がパッと破顔する。
「わたしもファレル好きだよ。ファレルって格好良いよね!」
「うん。ヒロインたちのために頑張るところが格好良いんだよね。まあ、見た目はあんまり格好良くないけど」
「見た目なんてどうでもいいんだよ。わたしはイケメンよりも、ファレルみたいに自分のために一生懸命になってくれる男の子の方が好きよ」
「優香、そろそろ行かないと」
ピピに扮している村上梨乃が、携帯電話の画面に表示されている時計を見て促す。
「あ、わたしたちもう行かなきゃ。それじゃ」
優香たちは立ち去って行った。
容姿が良くなくても、自分のために奔走してくれる男子が好き。そんな考え方の女の子がいるんだ。キロードは歩き去っていく優香の後ろ姿を見つめながら、カルチャーショックを受けていた。
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