第12話
「説明聞いてもまだ納得しきれてないんだけど。嫌がるこの子のスカートを、悠人が無理矢理捲らせてパンツを見てたわけじゃないと」
本日二度目の女の子からの折檻を受けた後、少し落ち着きを取り戻した涼子を宥め、おれたち三人はリビングのソファに腰掛けていた。
涼子の目がセルフィに向けられる。
「うん」
「ほんとに? 泣いてたじゃん。悠人に違うって言えって脅されてるんでしょ?」
「脅してねえよ!」
「じゃああんたたちは一体どういう関係だっていうの?」
「さっき道で出会ったばかりで、今わたし家に帰れない事情があって、それで今晩ここに泊めてもらうことになって」
「さっき会ったばっかの女の子を泊めようとしてたの!? 泊めてあげる代わりにエッチなことさせろって言われたのね! あんたって奴は!」「それも違う!」
「じゃあどういうわけよ!」
おれたちは涼子に詳しく事情を説明した。
「セルフィが異世界の住人で、ワープ魔法を使うための魔力がないから帰れない? その魔力を溜めるために悠人にパンツを見てもらってた? オタクの悠人と、悠人が今日行ったコスプレイベントで知り合ったコスプレイヤーの女の子が中二病なこと言ってるよ」
涼子が頭を抱える。
「おれはオタクだけど中二病じゃないし、おれたちが会ったのは、おれが今日行ってきたコスプレイベントでもないんだって! ああもう、どうしたら信じてくれるんだよ。あ、そうだ。セルフィ、魔法を使って見せてやってくれ」
「わかったわ」
セルフィがブレイブウォッチの横についてるボタンを押した瞬間、なにもないところから杖が出現する。
「わ! 凄い! 手品?」
「手品じゃないわ。魔法よ」
セルフィが杖を振るう。するとテーブルの上に置いてあったテレビのリモコンが中に浮き上がり、涼子の顔の前で浮遊する。
「凄い! でもこういう手品、テレビで見たことあるしなあ」
セルフィが更に杖を振るう。すると隣のダイニングから皿やスプーンやフォークが大量に飛んできた。それらがおれたちの頭上で踊るような動きを見せる。
「凄い凄い! ほんとに魔法使いなの!?」
「正確には魔導士タイプの勇者見習いよ」
とどめとばかりに、セルフィは杖の先端から小さな火の玉をいくつも出して見せた。
「今ので完全に信じたわけじゃないけど。うん。わたしセルフィの言ってること信じるよ」
「ありがとう」
二人は笑顔を向け合った。
「じゃ、わたしも今日はここに泊まるから」
「え? なんでだよ」
涼子が立ち上がって、腰に両手を当てる。
「あったりまえでしょ! あんたとセルフィ二人だけにしたら、あんたがセルフィになにしでかすかわかったもんじゃないから、わたしも泊まるって言ってんの」
「だからさっきのあれは誤解だって言ってんだろ? お前も納得してくれたんじゃなかったのかよ」
「セルフィの言ってることは信じるけど、ベッドの下に大量のエッチな本とかビデオとかゲームを隠し持ってる悠人のことはちょっと信用できないもん」
ていうかおれの部屋は涼子に掃除させてないはずなのに、なんでバレてんだよ!
まあ、そういうわけで、涼子も今日は家に泊まることになった。
夕飯は涼子が作った料理を三人で食べた。
おれは自分の部屋で寝て、涼子にパジャマを借りたセルフィと涼子には、父さんの寝室で寝てもらうことになった。
今日は色々あり過ぎて疲れていた。だからだろう、おれは布団の中に潜りこむと、すぐに夢の中へと旅立った。
おれが気持ちよく眠っていると、おでこに激痛が走った。
「いでっ!」
「ほら、いつまで寝てんの! もう朝よ!」
おでこを押さえながら目を開くと、そこには既に制服に着替えた涼子が、腰に手を当てて立っていた。
おれは非難の声を出す。
「起こすんならもっと他の方法で起こせって言ってるだろ」
「これぐらいしないと、いっつも起きないからでしょ。朝ごはんもうできてるから。さっさと顔洗って食べないと遅刻するよ」
うるっせえな。言われなくてもわかってることをいちいち言うなよな。
顔を洗ったおれとセルフィがほぼ同時にダイニングに向かう。
テーブルの上には涼子が作った朝ごはんが綺麗に並べられていた。
それを見てセルフィが驚く。
「起こしてくれれば手伝ったのに。もしかして、いつも涼子が悠人の朝ご飯を作ってるの?」
「そうだよ。夕ご飯は毎日じゃないけどね。さあ座って座って」
おれたちは三人揃って着席した。
「「「いただきます」」」
涼子の朝ごはんを食べたセルフィが頬を蕩けさせる。
「昨日の夕飯もおいしかったけど、この朝ごはんも凄くおいしいわ! 涼子は料理上手なのね!」
褒められた涼子が破顔する。
「ありがと。悠人はどう?」
「いつも通り、まあまあだな」
「あっそ」
いつも通り、まあまあというのは、いつも通りうまいという意味だ。涼子の料理はいつもうまい。
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わった瞬間、涼子がおれに言う。
「ほら食べ終わったんなら歯磨いて、それから制服に着替えなよ」
子供扱いされてるみたいでイラッとした。さっきは心の中で思ったことを、今度は口に出す。
「いちいち言わなくてもわかってるって。うるせえな」
「ほんとかなあ? パジャマのまま学校行こうとしたことあったじゃん」
「一回だけだろ。それいつまで言うんだよ」
「わたしがいないとなんにもできないくせに。だから世話焼いてあげてるんじゃん」
「お前が勝手に世話焼いてくるんだろ」
「おじさんに頼まれてんのよ。わたしがいなかったら、この家今頃ゴミ屋敷になってるところよ」
「おれは頼んでねえっつうの。ていうかお前が自分からやるって言い出したんだろうが。せっかく悠々自適の一人暮らしができると思ってたのに、毎日毎日まるでおれの母親にでもなった気になって小言言いやがって。お前のせいで息が詰まるんだよ!」
数瞬、沈黙が降りる。
「なによ。そんな風に思ってたの。あっそう! 悠人なんかもう知らない!」
涼子が荒々しい足取りでダイニングを出て行く。玄関の扉が開く音に続き、閉まる音が響いた。
成り行きをずっと静観していたセルフィが腕を組む。
「あんた最低ね。死ねばいいわ」
「なんでお前まで怒ってるんだよ」
「涼子美人じゃない。まあ、わたしほどじゃないけど。涼子はあんたみたいなブサイクには勿体無いぐらいの美人よ。あんたみたいなブ男があんな可愛い子に毎朝起こしてもらって、おいしいご飯作ってもらって、掃除もしてもらっておいて、あんな言い草ってないわ。身の程を知りなさいよ!」
「お前に言われなくても、あいつには感謝してるんだ。でも毎日の小言がしつこすぎて、イライラしてついあんなこと言っちゃったんだよ」
「なによ。わかってるんならさっさと謝ってきなさいよ」
「あいつには謝らなくても大丈夫なんだよ」
「はあ!? なんでよ」
「おれと涼子が何年の付き合いだと思ってんだよ。幼稚園に通う前から一緒なんだぜ? だからいちいちそんなことで謝らなくても、おれの本当の気持ちをあいつならわかってくれてるんだよ」
「あんたバッカじゃないの! その様子じゃ、世話焼いてもらってることのお礼を一度も言ったことないんでしょ」
「だからそんなこといちいち言わなくても、おれが感謝してること伝わってるんだって」
「呆れた。あんたなんにもわかってないわ」
「なにがだよ」
「女っていうのはね。言葉が欲しい生き物なのよ。だからお礼言ったらきっと涼子は喜ぶはずよ」
「ふうん。そうなのか?」
首肯するセルフィ。
「それから、どんなに付き合いが長くても、言わなきゃ誤解が生まれることはあるわ。あんたこのまま涼子が自分のせいで、あんたの息が詰まってたって誤解したままでも良いわけ? 大体、どんなに親しい間柄でも礼儀は必要だわ。謝るべきよ」
お前が言うなよ! お前も礼儀を覚えるべきだろ! お前に礼儀について言われたくねえわ! って思ったけど口にはしない。今はこいつの言ってることが正しいからな。
「わかったよ。次涼子に会った時に謝る。それから礼も言うよ」
「わかればよろしい」
セルフィは大きく頷いた。
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