第7話
翌日、授業と授業の間の休み時間。
一人で廊下を歩いていたセルフィの前に、キロードがやってきた。
「君、ヴァニアス先輩の彼女のセルフィさんだよね?」
「そうだけど」
「おれっちヴァニアス先輩に、君のことを呼んできて欲しいって頼まれたんだ」
「そうなの? わざわざ呼びに来てくれてありがとう。それで、ヴァニアス先輩はどこにいるの?」
「案内するよ。ついてきて」
キロードがセルフィを案内した場所は、周囲に人気がない、空き教室の前だった。
「ここって空き教室? こんなところにヴァニアス先輩がいるの?」
セルフィが怪訝そうな表情になる。
「うん。ヴァニアス先輩はこの中で君のことを待ってるよ」
訝しみながらも、セルフィは空き教室の扉を開けた。
「え、なにこれ?」
扉を開けたところに、白い光を放つ壁が存在していた。
「これってまさか……」
光の壁の前で立ち尽くすセルフィ。その背後に、セルフィに気づかれないように、キロードは静かに移動していた。そしてキロードが光の壁に向かってセルフィを突き飛ばす。
「きゃああああ!」
セルフィの体は光の中へと吸い込まれ、あっという間に見えなくなった。
「オーホホホホ! 成功しましたわね!」
廊下の曲がり角に隠れて様子を窺っていたルオーネが姿を現し、光の壁の前までやってきた。
「あとはあなたがセルフィの後を追って、異世界で殺してしまえば作戦完了でしてよ」
「はい! おまかせくださいルオーネ先輩!」
キロードは拳で胸をドンッと叩いてみせた。
「セルフィ! セルフィ!」
大声でセルフィの名を呼びながら、廊下の先から現れたのはヴァニアスだった。
「ヴァニアス様!? どうしてこんなところに!?」
ルオーネがいることに気づくと、ヴァニアスはバツが悪そうな顔になった。ルオーネから視線を外しながら答える。
「さっき、セルフィがこちらに向かって歩いていく姿が見えたから、追いかけてきたんだ。こんな人気のないところになんの用かと思ってね。君たち見かけなかったかい?」
「い、いえ、見てませんことよ」
ルオーネとキロードは揃って顔をぶるぶると横に振り、すっとぼけた。
「そうか。でも君はさっきセルフィと一緒に歩いてなかったかい?」
ヴァニアスに視線を向けられたキロードが狼狽する。
「きき、気のせいですよ! おれっちルオーネ先輩とずっと一緒にいましたから!」
「そうかい。ぼくの勘違いだったか。すまない。……ん? なんだいこれは。なにかの魔法のようだが」
空き教室の扉を開けたところに出現している、白い光の壁にヴァニアスが気づいた。
「さ、さあ? なんなのでしょう? ねえ?」
「お、おれっちたちがここに来た時には既に光ってましたよ」
「これはもしかして、転移魔法ビッキーでは。まさか、セルフィはこの中に入ったんじゃ」
「いえいえ、わたくしたちずっとここにおりましたけれど、セルフィさんのことは見てませんし、それはないと思いますわよ。オ、オホホホホ……」
『ヴァニアス様! そこにいらっしゃるんですか!? 助けてください!』
光の壁、転移魔法ビッキーの中から、くぐもったセルフィの声が飛んできた。
「セルフィの声だ! セルフィ! そこにいるのかい!?」
『はい! わたしはここです! ヴァニアス様!』
「待っていろセルフィ! 今ぼくが助けに行くぞ!」
「ヴァニアス様、お待ちを!」
ルオーネの静止の声を振り切り、ヴァニアスは白い光の壁の中へと飛び込んで行った。
ルオーネは手を額に当てた。
「ああ。なんてこと! 想定外の事態ですわ!」
ルオーネはすぐに頭を切り替え、キロードに指示を出す。
「キロード、少し作戦変更ですわ。わたくしは今からセルフィとヴァニアス様の転移位置をずらします。絶対に二人を合流させてはなりませんわよ。合流されたらあなたではヴァニアス様に太刀打ちできませんからね。ヴァニアス様がセルフィと合流する前に、異世界に着いたら、早急にセルフィを殺しなさい! それから、念のために言っておきますが、殺すのはあくまでセルフィだけであって、決してヴァニアス様は殺してはいけませんことよ」
「え、それってやっぱり、ルオーネ様はまだヴァニアス様に未練があるってことなんじゃないんですか? おれっちがセルフィを殺した後に、ヴァニアス様とまた恋人になろうとお考えなのでは……」
「ちち、違いますわ。忘れているようですが、わたくしの目的は、恋人を失って悲しむヴァニアス様の無様な顔を拝見することでしてよ。それにあなたも殺す必要のない人間を余計に殺してしまっては、寝覚めが悪くなるでしょう? 殺すのは必要最低限でよろしいのですわ」
「なるほど、わかりました。では行ってきます!」
返事をすると、キロードもまた白い光の中へと飛び込んでいった。
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