第9話開けゴマ
「これどうやってやるの?」
少し歩き門の前まで到着したのは良いものの、カードを差す場所が無ければ翳す場所も無い。
門番なども立っておらず、手詰まりに陥ってしまった。
「さぁな。待っていれば何か起こるかもしれんぞ」
「まっさかぁ~」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら俺の脇腹を小突くアスカ。
確かに確証はないが、あり得ない話ではない。
未だ小突き続けるアスカの頭を軽くペシリと叩いたところで、頭上から声が響く。
「よおおおおおこそおおおおおおお!!!!ネレウス学園へえええええ!!」
余りにも唐突に、凄まじいテンションの声が森中に響き渡る。
もっとも間近に俺ら二人の耳は、声を拾うのではなく突然の大音量にキーンと嫌な音が鳴り響く。
「な、なんなの!? 殺す気なの!!」
「まだ耳が遠いぞ」
感情は驚きを通り越して苛立ちに変わり、声の下頭上に視線を移す。
「待ってたよおおおおういっ!! 編入生の二人組いいいいい!! 今日からよろしくちゃあああああんっ!!」
「煩いの」
「右に同じく」
なんと、声を出していたのは“門”だった。
門の中心部に描かれた忠実な竜の絵。それが突如動き出し、声を放っていたのだ。
しかしここでもまた驚きは薄く、唯々余りのウザさに真顔を隠せなかった。
「冷たいよおおおお!! まだ冬には早いぜええええ!! 夏は終わったがなあああああ!!」
「アベル、この門壊していいの?」
「あぁ、やれ。だが魔法は使うな、一瞬で終わる。腕力で徹底的に痛めつけてやれ」
「ごめんなちゃああああああい!!」
両手の関節をバキバキと鳴らすアスカが徐々に近づくにつれ、木の癖に真っ青になっていく門。
しまいには降伏だと腹を見せて許しを乞うてくる。
「なら早く開けるの。今すぐなの」
「い、今やるからちょい待ち!! ほれ! おまいらのカードを俺に見せえええええい!!」
この際うざいのはいい。早くこの場から去りたい。
その思いはアスカも同じようで、言われるがままにカードを門に見せつける。
「……っしゃあああ!! 登録完了ぅぅぅぅ!! 開くぜえええええええ!!」
データを認識したのか、一度赤く門の目が光る、と地鳴りと共に扉が開いて行く。
太陽の光なのか、人工的なものなのかは定かではないが、徐々に開いていく門の隙間から漏れ出す凄まじい光量の光が中を見せてくれない。
手で目を守りつつその時を待つ。
「オオオオオオオプンッ!! 入っちゃいな!」
『おぉ!!』
開かれ、光が消えうせた扉の先に広がる光景に、思わず揃って驚嘆の声が漏れる。
立ち並んだ住宅、武具屋。其処ら中を飛び回る浮遊型バイクの数々。町を徘徊するあらゆる世代の学生達。建物、人、建物、人。
そしてその先に見えるは、更に広大な敷地を持つであろう学校らしき巨大な建物。
目を輝かせるアスカを見て、漸く腰を据えられるとしみじみ思ってしまう。
俺達は漸く辿り着いたようだ。全ての最先端が集うここ、ネレウスに!
「この道を……真っ直ぐだな」
「もう私歩き疲れたの~。 足が棒なの~」
「もう少しだから我慢してくれ」
ネレウスに到着し早二時間。
日も少しずつ傾いてきており、夕焼けに染まるのも時間の問題だろう。
そんな中、俺達は未だに学生寮敷地内で彷徨っていた。
「ていうか、なんで初めに行くとこが学生寮なの。普通学校じゃないの?」
「俺にはその普通とやらが分からん。どっちが先でも違いはないだろ」
事前に貰っていた寮内敷地の地図をぐるぐると回してみるも、現在地が分かっていない為に向かう方向も分からない。
同じ形式、同じ外壁、同じ大きさの棟が何棟も建っている為、全く目印が無い。
せめて外壁などに数字を打っていて欲しかったものだ。
陽気モードから一変し、溶け掛けのスライムモードに移行しつつあるアスカを横目にひたすら道を突き進んでいく。
「んー。恐らくだが、この先を右に曲がったところに寮長の部屋があるはずなんだが」
「もうわかんないよ~。全部同じなの」
そう言いたくなる気持ちも分からんでもないが、流石の俺も疲れが出てきた。
何としてでも早急に見つけてしまいたいのだが……。
そう文句を垂れながらも歩き続けていたところ、ふと人の気配を感じ立ち止まる。
「どうしたの?」
「いや、近くに人が居るような気がしてな」
疑問符を浮かべて覗き込んでくるアスカに苦笑いを浮かべ返答をしたとき、不意に後方から声を掛けられた。
「もしもし? 其処の人達! 何かお困りのようだね!」
はきはきとしたその声にゆっくりと後ろに振り返る。
「おっ! 見ない顔だね! もしかして噂の編入生かな?」
風に揺らめく紅色の髪が印象的だった。
夕日に成りつつある太陽を背に、腰に手を当てニヒヒとはにかむその笑顔は太陽の様にも思え、スタイルの良い身体をこれでもかと見せつける様にピッタリとしたシャツに身を包んでいる。
此処の学生だろうか?
恐らくアスカと同じ年の瀬と思われるその人に口を開く。
「誰なの?」
「その編入生で間違いない。寮長室を探し彷徨っていたところだ」
俺達の返事を満足げに聞き、頻りに首を縦に振ってはまたも少年のような笑みを浮かべる。
組んでいた腕を解き、両腕を宙に放り出して口を開く。
「ベストタイミング! 私が寮長のミナト・ローゼンベルグその人だよ!」
夕日に染まりつつある現在、俺達二人は運のよい事に寮長室よりも先に寮長に出会ってしまったようだ。
それから他愛も無い話を続けつつ、直ぐそこにあった寮長室へと案内され、自分たちの部屋の鍵をもらい受けて外に出る。
ミナトさん曰く、この地図は数年前のやつで、ここ最近棟数を増やしてしまった為に当てにならないとの事。
やってくれたものだ。
新しく貰い受けた地図を宛てに又も建物の森へと足を運んでゆく。
「この地図は見やすくていいの」
「あぁ、未だに何故古い地図が送られてきたのかは謎だがな」
寮長室を出て十分程経った現在、漸く辿り着いたようだ。
実は寮棟にはそれぞれの区画があるらしく、縦横六列からなる正方形型の並びに四つの区画があると。
上空から見た時、上から右が山区、その下が海区。山区の隣が丘区で下が川区となっているらしい。
その判別は区と区の境に描かれる絵で判断するようだ。
とまぁ、俺達二人は山区のようで更には同じ棟内での生活になるようだ。
「じゃあ俺は五階だから」
「わかったの! また明日!」
今日最後の挨拶を交わして別れる。
俺の部屋は五階の六号室になり、アスカは三階の二号室だという。
丁度入れ替わるようにして退学者が出てしまったらしく、この様な配置になったのだと。
因みに其々階数が十階までであり、横並びだと十五部屋存在する。
ここの寮区画は高等学校に通う十五から十八までの学生が収容されているようで、その他にも大学寮と教授たちの住まう教授寮があるようだ。
俺は部屋の扉を開き、中へと侵入していく。
魔王城での自室は巨大だった為、ここまで小さい部屋は初めて使用する。
六畳一間のキッチン付き。その他には何も置いていない寂しい内装だが、一人で暮らす分には丁度良い広さだろう。
早速ボックスから事前に買っておいた家具などを出していき、夕暮れの模様替えと洒落込むとするか、と気合のビンタを一つお見舞いする。
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