第6話いざギルドへ2


 “アベル レベル1 闇 氷結”


 懐かしいものだ。まだ魔王城を探せば以前使用していたギルドカードが出てくるだろう。

 俺はカード表面そサッと親指で撫で、懐に仕舞う振りをしてボックスへと収納する。


 此処で簡単にレベルについて説明だが、冒険者を始めたばかりは一律レベル一から始まり、その後の貢献度や高難易度の依頼達成等で一づつ上がっていく。

 最上位がレベル十となっており、其処に到達しているのは世界でも七名しかいない。

 大体常人ではレベル六が関の山だと言われていて、実際にレベル七以降は百人にも満たないらしい。

 予備知識だが、魔物の討伐ランクも同じように十段階で表記されている。


 此処でやることも終えた為、次に何処へ向かうのかアスカに聞こうとすると、カレンが忘れてたと口を開く。


「アスカ。そういえば、帰ってきたら一度顔を出せってマスターが言ってたよ」

「えぇ~。面倒臭いの~」

「いいからいいから! 今奥のマスター室で仕事に明け暮れてるから、少し顔を出してきなさい! アベル君も一緒にね!」

「了解した」


 入って、とカウンター内へ通され、アスカに先導してもらいながら奥へと進んで行く。

 二年前も思ったのだが、やはりここの仕事は多忙のようだな。

 利用者から見えない位置で何名かが眠っていたり、亡霊かと言いたくなるような表情で仕事をしているのが大半を占めている。

 可哀そうに。


 そのまま事務所を出、廊下を道なり進んで行った一番奥の部屋がマスター室となっている。

 時折アカシが「何で俺の部屋だけあんなに遠いんだよ」と嘆いていたのが懐かしい。


 到着した部屋の扉には金色の札に「ギルドマスター」と黒字で彫ってあり、それ以外の装飾は見られない一般的なものである。


「なのなのなのー。勝手に失礼するのー」


 アスカは意味の分からない挨拶と共にノックもせずに扉を勢いよく開く。


 最初は俺も唖然としたが、昔からこうなのだ。

 なんでも「お前の喋り方は特殊だから、もう語尾だけでわかっちゃうぜ」と言ったアカシへの仕返しらしいが。


 俺もそれに続き簡単に挨拶をして入室する。


「ん? その変な喋り方にちんちくりんそうな声はアスカか?」

「煩いの。さっさと黙って仕事するの」


 室内は書類で溢れており、床にも客人用の机やソファーにも書類が山の様に積まれている。

 それは机案の上も同様であり、そのせいでアカシの姿は見えない。


 アスカは床に散らばる書類を避けつつ空いている空間へと歩いて行き、苛立ちを隠そうともせずに腰に手を当てる。


「あの髭もじゃの言う通り魔王を倒して帰って来たの。顔見せは済んだからもう帰るの。さよならなの」

「だあああ!! ちょっと待てい! いくら何でも早すぎ! 久々の再開超冷てぇじゃん!」

「私はギルマスの顔なんか見たくないの。アベル、帰るのー」

「待てええええ!!」


 アカシの声と共に机案に積まれていた書類が音が崩れ落ち、其処から顔を出す。

 大きく見開かれた目は充血しており、仕事に追われているのが一目で分かる。

 真っ赤な髪の毛も今はボサボサになっており、髭も伸びている。


 もう昔の勇ましい姿は消え去ったのだな・・・・・・。


 感慨深く思いつつ、事の成り行きを静かに見つめる。


「ちょっと待てアスカ! お前にはもう一つ王様から命が下りてるんだよ!」


 うちの嫁は引っ張りだこなのだな。

 

 それを聞いたアスカは動きを止め、心底面倒臭そうな表情で振り返る。


「今度は何を討伐するの? ギルマス? それとも髭もじゃ? 両方なの?」

「い、いや次は討伐依頼じゃなくてだな。何というか・・・・・・」

「口籠ってないでさっさと言うの。愚図は嫌いなの」

「アスカ、俺は俊敏だぞ」

「アベルは黙ってるの」


 ア、アスカが怖い。これは茶々を入れない方が良さそうだな。


 俺は再度風景と同化し直し、一歩引き気味で二人を交互に見る。

 因みにだが、アスカが何故アカシに此処まで強く当たるのかは俺も詳しくは知らない。

 俺よりも早い段階で面識があったそうで、その時にいざこざがあったとか。暇があったら詳しく聞いておきたいところだ。


「落ち着けって。順を追って説明するからよ、取り敢えず、その後ろで棒立ちになってるお友達を紹介してくれ」

「仕方ないの。この人はアベル、魔界手前の村に寄ったときに仲間になった人なの。魔力は少ないけど腕は立つの」

「アベルだ、よろしく」


 空気化するよりも早く反応してくれたようだ。助かった。

 俺は軽くお辞儀し、挨拶を済ませる。


 アカシは意外だったようで、驚いた顔で、


「お前、大和の出か?」

「違うぞ。以前少しだけ滞在していた事があっただけだ」

「そうか」


 疑う素振りは一切見せずに笑顔を見せるアカシ。

 久々に故郷の文化に出くわして嬉しくなったのだろうか。


 アカシはヴィスタリアの出身では無く、大和大国という島国から出てきたのだ。

 お辞儀はそこの文化の一つであり、礼儀作法の基本となっている。


 以前大和に行ったのは嘘ではないが、其処でお辞儀を教えてくれたのはアカシ本人だ。

 恐らく本人は記憶が無いだろうが、アカシがまだ三歳頃の時に面識がある。

 その時はありのままの姿で相手をしていたのだがな。


 笑顔のアカシは、一息つくと再度アスカに視線を戻し口を開く。


「見た感じ、アベルもアスカと同い年だろう。ついでにお前も同伴してもらうか。腕もアスカの折り紙付きみたいだからな。王様には俺から言っておく」

「? アベルが一緒ってことは、やっぱり討伐系じゃないの?」


 首を傾げるアスカを見て不敵に笑みを浮かべるアカシ。

 俺も同伴する依頼か・・・・・・討伐系じゃないのならば探索系か?


「アスカ、お前は今幾つだ?」

「今年で十七なの」

「アベルは?」

「俺も同じく」

「ならば丁度いい。お前らくらいの年なら普通はそうあるべきなんだ」


 頻りに肯くアカシ。

 何となくだが話が見えてきたぞ。


 だが、どんなことであれ王直々の命例である。なのにも関わらず、初対面の俺を無理やり組み込むのは如何なものか。

 いくら魔王討伐に参加していたとしても、そんな事では今後のヴィスタリアが心配になってしまうぞ。

 もし俺が勇者であるアスカに取り入って、国家機密を調査しに来たスパイであったらどうするつもりなんだ。

 考えすぎかもしれないが、こういう事はそれくらい注意していていいとも思うのだが。


 表では驚愕の表情を浮かべつつ、内心あれやこれやと思考を巡らせる。


 アスカも大体察してしまったようで、徐々に表情が引きつっていく。


 アカシは俺とアスカを交互に見て一息つくと、悪戯が成功した子供の様に無邪気な笑顔で息を吸い込む。



「王直属の依頼だ! お前ら二人には海上学園都市ネレウスに行ってもらう!」



 なんてこった。


 

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