第5話いざギルドへ


「あっちが受付で、その階段が簡易宿舎のある二階に繋がってるの」


 俺の後、呆れた表情の二人と笑いっぱなしのアスカが直ぐに入って来た。

 流石に中へと入ると笑うのを止め、簡単に中の説明をしてくれる。

 


 玄関口正面には受付があり、現在は十人の役員が依頼の受注や何かしらの説明などに追われている。

 アスカの指差す受付左側には階段があり、説明の通りだ。

 右手には重要依頼掲示板が設置されており、其処にも何人かの冒険者が集まっている。

 反対は酒場になっており、依頼を終えた者や唯々飲みに来た一般人など喧騒が渦巻いており、全体的に賑やかな印象だ。


「一先ず受付で転移魔方陣の使用許可を貰いに行くの。二人は其れで大丈夫?」


「あぁ、早い気もするが向こうでの仕事もあるからな」


「そうね、大丈夫よ」


 了解、と可愛らしく敬礼を決めるアスカは二人を連れて受付へと進んで行く。

 しかし、俺は余りの可愛さに雷が脳天に落ちてしまい動けない。あれは犯罪だ。

 脳裏に焼き付いて離れない。だが、記憶というものは劣化する!! 今巷で噂になっている風景を鮮明に模写する魔道具を何故持っていないのか。何故だっっ!!




「な、何してるの?」


「――はっ!!」


 気が付くと頭の上から声がし、見上げるとアスカの顔が。

 短時間ででかくなったものだ・・・・・・と思ったのも束の間、俺がしゃがみ込んでしまっていただけの様だ。


 何事も無かったかのように立ち上がり、アスカを見つめる。

 いったい、何分程こうしていたのだろうか。


「また居なくなったと思ったらこんなところで。二人はもう帰ったの。アベルにお別れできないーって寂しそうにしてたの!」


 なんとっ!! もうそんなに進んでいたのか! 

 俺の記憶では前に五人ほど並んでいたような気がしたのだが。


 アスカは如何にも、私怒ってるよ! と言いた気に頬を膨らませ腰に手を当てている。

 俺にはそれが逆効果だといつ気が付くのであろうか。あざとい奴め。


「もう離れちゃダメなの! もしもの事を考えて!」


「この俺にもしもの事? ハハッ! 笑わせるな、誰だと思っている!」


「はいはい、分かったの。もういいから、受付で冒険者の登録をするの」


 呆れ顔もまた可愛い。しかし、俺の嫁になるからにはもう少し俺を理解してもらわねばいかんな。

 

 どういう風に自分という魔族を教えてやろうかと考えていると、右手が引かれて身体が持っていかれる。

 アスカが手を引いてくれているようだ。

 こいつ・・・・・・もしや手を繋ぐのが好きなのか! 良い情報を手に入れてしまった!


 少し力を入れるだけで壊れてしまいそうな程、可憐で美しいアスカの手を優しく握り返し、流れに任せて進んで行く。

 コラそこの御仁、俺を見てキモイなんて言うんじゃない。好きな人に手を握られて嬉しくない奴があるか。


 受付に到着し、直ぐに通される。

 たまたま空いている窓口が有った為、すんなりと通して貰えたようだ。


「カレンさん、おひさなの! アスカ只今ご帰還なの!」


「あっ、久しぶり~! 意外と早かったね! もう三年くらいかかるかと思ってたよ」


「えっへん! なの!」


 今アスカと会話している人はカレン・ラセン。

 聞いての通りギルドマスターのアカシとは血縁者であり、更に言うと姉である。

 深緑の髪を首元で切り揃えた眼鏡美人である。


 この人自身、アカシに引けを取らない実力を秘めているものの、個人的な趣味から受付嬢として働いているらしい。

 二年前からアスカを妹の様に可愛がってくれている人で、仮の姿時代の俺やヴォイドとも面識があり仲良くしてくれていた一人である。


 しかし現在はありのままの姿だ。向こうは初対面だと思っているはずなので慎重にいかねばな。


「久しいなカレン。元気だったか」


「・・・・・・誰?」


「・・・・・・」


「ん? 何々? 知り合いだったの?」


 ――しまったあああああ!! 

 思わず普段の感覚で話しかけてしまった!! 先程気を付けねばと考えていたというのに!!


 流れ出る大量の冷や汗を拭う事すら忘れて思考停止してしまう。

 未だにカレンは訝し気に此方を見ており、その視線は“まさかストーカー?”と語りかけてきている。 

 

 こういう時はあれだな!


「私アベルと申しますが、冒険者登録の手続きは此方で良かったでしょうか?」


 必殺無かったことに。これで万事休すか!


「は? ・・・・・・まぁ、仕事だからいいけど」


「あれ? 違ったの? って言うかアベルの喋り方キモいの!」


 仕事熱心な人で助かった。一先ずはこれで問題無さそうだな。


 渡された紙には名前と属性、保有魔力について記入する欄があり、その下に“依頼中、又は当ギルドが関係する命に係わる事には一切の責任を負いません”という注意書きが書かれている。


 はて、俺の魔力数値は幾つだったか・・・・・・。


 二年前、ここで同じように登録に来た際、俺とヴォイド二人とも同じような事が起こった。

 あの時は素直に分からないと口を揃えて伝え、別室に連れていかれ検査することになったのだが。

 たまたまその場に居合わせたアカシに目をつけられ喧嘩を売られたのだ。何でも「見ただけで分かんだよ! お前ら二人は只者じゃねぇってな!」との事。


 戦闘狂との闘いは心底面倒臭かったが、見事俺らは勝利してしまい特例でレベル六まで飛び級させられてしまったのだ。

 その時にテンションの上がったアカシにより検査はうやむやにされ、アカシの独断で俺ら二人の魔力値を勝手に決められてしまった。

 それから一年後に不正が発覚してしまい、ギルド協会のトップにこってり叱られてしまったそうだが、再検査の手続きより早く俺達の死亡報告が届いてしまい、結局そのままになったようである。


 その為、最後に計ったのは数百年前になり、流石にもう覚えていない。

今更検査も面倒なので適当に書いとけばいいか。


 属性に関しては闇と氷結にしておくか。実際は全属性使用可能だが、流石にここで書き記すのがまずいことくらいは理解できる。


 因みに、現在世界で公表されている属性は火・水・風・土・雷の五大属性と光・闇の特殊属性だけだ。

 俺の氷結属性は水属性の派生に当たり、その他にも火炎・嵐・森・紫電と五大属性の上位互換が存在する。


 最後に注意事項に了承の拇印を押してカレンに渡す。


「はいはいー、名前はアベルで属性は二つ持ちね。魔力はっと――――」


 そこでカレンが動きを止めた。

 勢いよく見開かれた目に半開きの口は、いくら美人であろうと全てを台無しにしかねない威力がある。


 俺は頭に疑問符が浮かびながらもそれを注意しようとするが、


「はあ!? 君、魔力が五ってどういう事!! 前代未聞だけど!?」


「アベル・・・・・・よく考えて書くの」


「いや、冒険家以外はそんなものではなかったか?」


 記憶が正しければ二、三百年前出会った農夫がそれくらいだったはずだ。

 もしや時代の流れと共に平均値も上がってしまったのか!!


 俺は内心驚きつつも平然を装い腕を組む。


「嘘言っちゃ駄目だよ! 去年の世界平均が千五百なんだよ! それくらい知ってるでしょ」


「あ、あぁ。冗談だ。勿論知っているとも。だが俺の魔力は其れが正しい数値だ。魔法が苦手でね」


「だとしてもねぇ~。宝の持ち腐れというか、何というか」


 カレンは額に手をやり、めんどくさそうに手続きを再開する。

 しかし、平均値が其処まで上がっていたとは。

 まさかだが、俺が見た農夫は極端に魔力が少なかったのか? あり得ない話ではない。

 もう少し身近な奴の魔力でも見ていればよかった。


 色々考えを巡らせ、今後何かと悪目立ちするかもしれないと思ったところで、突如足の爪先に激痛が走る。


「む。アスカ、何している」


「見て分からないの? 足を踏んでるの」


「いや、それはわかってるのだが。その理由を聞いても?」


「そんなことも分からない馬鹿アベルなんてもう知らないの」


 痛い痛い痛いっ! 更にぐりぐりするのはやめろ!


 無理やり退かそうにしても、あまりの強さに足が動かない。

 このままでは俺の足が使い物にならなくなってしまう!


「わかった、俺が悪かった。だから足を退けてくれ。そろそろ痛いぞ」


「さっきから私をおちょくっていた仕返しも兼ねてるの。我慢するのー」


 成程、愛の裏返しという事か。可愛い奴だな。 

 しかし、そんな狂気地味た愛情表現を俺はまだ受け止められるほどの器を持っていない。

 もっと可愛らしいものにしてもらえれば有難いのだが。


 同じようなやり取りを繰り返している内に作業が終了したようだ。


 カレンが机下からカードと取り出し、俺に渡してくる。


「これで完了だよ。このカードはギルドカードといって身分証になるから無くさないようにしてね。再発行には千ルピ掛かるから注意してよ」


「魔力五しかなくてもレベル一からスタート出来るんだ。初知りなの!」


 アスカよ、小馬鹿にするのを止めてくれ。それか、するのなら足を退けてくれ。

 これ絶対青痰が出来てるぞ。


 手渡されたブロンズカラーのカードに目を通す。

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