第3話始まり2
「なななっ!! 何しやがるんですか!!」
まるで魔法でも解けたかのように動き出し、俺から距離を取るアスカ。
酷いものだ、最初に徒手空拳を教えてやったのが誰だか忘れてしまったのか?
その他にも魔法基礎学に地理、ここでの常識まで教えたというのに。
「言っただろ? 俺はお前が好きだ。是非とも結婚してもらいたい」
「へ!? いや、はっ!?」
まるで百面相だな。
驚きに目を見開いたり、疑った表情に変わったと思ったら照れたりと、目まぐるしく変わっていくアスカの顔に、抑えきれなかった笑みを溢しつつ距離を詰めアスカを抱きしめる。
抱き心地の良さは抜群だ。程よく肉が付き、その内にはしっかりと筋肉が発達している。
余りの心地よさに腕の中でフニフニと遊ぶ。
「だああああ!! いい加減にするの! 私は縫いぐるみじゃない!」
流石は勇者、俺の拘束に自力だけで抜け出すとは。
無理やり解かれた腕が宙に放り出されたのを寂しく見つめる。
片や恥ずかしかったのか暑かったのか、息を切らしながら赤く染めている表情アスカ。
その何かをそそるような顔つきに、思わず同じ過ちを繰り返しそうになるのをグッと堪える。
そんな俺達のやり取りにアスナの仲間は口を開きっぱなしだ。
「いいじゃないか、減るものではない」
「減ります! 減少の一途を辿った結果私が無くなってしまいますっ!」
「それはいかん。自重することにしよう」
「だからあああ!! 私勇者! 貴方魔王! 分かってるんですか?!」
分かり切っていることを今更。
やはり阿保で馬鹿なのは変わってないのだな。可愛い。
常識的な事を声を荒げて話すアスカに思わず失笑してしまう。
其処に先程からポカンとした勇者の仲間が、俺達の痴話喧嘩に嫉妬したのか口を挟んでくる。
「お、おい。説明しろよ。アスカさんと魔王は知り合いなのか・・・・・・?」
「知り合いではない。夫婦だ」
「違あああう! どっちも違う! 宿敵同士なの!」
「夫婦だ」
「なああああ!!」
騒がしいやつだ。
逐一叫び出すアスカをポカン二号の女が宥めているが、それに乗じて胸を触るという狂気地味た行動に出る。流石にそれは・・・・・・。
気持ちの悪い笑みを浮かべているのを見るに、所謂同姓愛者ということなのか?
他の面子が「あぁ、またか」という顔をしているのを見るに、日常茶飯事なのか!?
唖然とする俺を無視し、獣と化したアスカが胸を揉まれるのもお構い無しに口を開く。
「私と貴方は敵なの! 人間族と魔族! どう足掻いても交わることは不可能なの!」
「? 人間族と魔族が子を成した前例はあるが?」
「そういうことじゃない!」
なら何なのだ。もう少しわかりやすく説明してくれなければ理解出来んぞ。
俺は眉間に皺を寄せ、早く説明せよと無言で圧力をかける。
「だから・・・・・・仮に貴方と結婚しても何処で生活したらいいの!! 子供なんか絶対虐められるの!」
「ア、アスカ? そうじゃないだろ?」
「そうよ! そもそも相手はあの殺戮の天使ゼルファなのよ」
「おい待て、そいつは誰だ。俺はアスベルだぞ」
「だってしょうがないでしょ! ファーストキスだったのに!」
その瞬間空気が死んだ。
誰も口を開くことなく、身体を動かそうともせずに唯々時が流れていく。
先程まで入り口から入っていた風は、空気を読んだかのようにピタリと止まっている。
恐らく皆が思っている事だろう。そんなに可愛いのにまだしたことが無かったの!? と!!
俺はその死んでしまった空気をぶち破るべく、身を乗り出して声を上げた。
「まだしたことが無かったのか!!」
「そんな理由かい!!」
「違うでしょ!!」
「風が俺を呼んでいる」
な、何!? 三者三様な答えだと!!
そして最後の奴、既に風は死んでいる。呼ばれることは万が一にも無い。
待っていました、と言わんばかりにその場に居る全員から声が上がり、アスカは更に顔を赤く染める。
このままでは収集が付かなくなりそうな気がする。
仕方がない。ここは俺が締めてやろう。
危険を察知し、一つ柏手を鳴らし皆の注目を集める。
「種族の違いが理由ならばこれでどうだ? 人間族との違いは無いはずだ。表面上」
俺は魔法で角を消し、ドヤ顔でアスカ達を見る。
角に引っ掛けていた王冠が落ちてしまったが、それは床に開いたボックスにて回収済みだ。
基本魔族やその他の亜人族と人間族との違いは一つだ。
代表的な種族で言うのならエルフは耳、ドワーフは背丈等々。
そして魔族は角が代表的だ。稀に角と尻尾や翼を生やしている者も見かけることがある。
最初は何が何だか分からない様子だったが、徐々に何処が変化したかを理解したようでアスカの仲間達の顔色が悪くなっていく。
阿保の化身足るアスカだ。仲間達はどういう答えを出すのか理解してしまったのだろう。
俺の勝ちだ!!
自信満々の笑みを浮かべ、これでもかとアスカ以外の面子に向ける。
しかし、あまり反応しないな。何故だ?
「し、仕方ないの。そこまで言うのなら取りあえず王国まで連れて行ってあげる!」
『やっぱりかー!!』
「成程、挙式の準備なのだな」
「違うの! ま、まずは友達から始めるの」
ファイヤーボールの様に赤く染まった顔を隠すように短い髪をクルクルと弄び始めるアスカ。
しかし、ロングならまだしもショートがやっても無駄だ。全く隠せていないぞ!
可愛らしく照れた表情に驚嘆の息を漏らしつつ肯く。
「了解した。ならばさっそくヴィスタリアに向かおうか」
「はいなの!」
こうして俺は唖然とする勇者一行とアスナを連れてヴィスタリアへと転移魔方陣を展開した。
魔王城の玉座には「結婚してくる」と書いた手紙を残して。
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