第28話 堕ち続ける奈落まで

 彼女と別れ、連絡も取れなくなってから私は抜け殻の様な生活を送りました。

 それでも頭の隅で、きっとまた連絡してくれるはずだと言う淡い期待を持ち続けていましたが、もちろん連絡などあるはずもありませんでした。

 家族の為、姪の為、そして何とり自分の為、彼女とのこれからの為に頑張ってきていましたが、一番は彼女であったはずなのに、一番大事にしたい無かった事に気付けなかったのでした。

 味覚障害は再び出始め、精神病院への通院を辞めても眠れていたはずの睡眠も彼女から連絡があった時にすぐ反応出来るようにと眠る事を控えるようになりました。

 そうこうするうついに、また眠れない日々が戻ってきて、私は2ちゃんねるに入り浸るようになりました。

 そこでは様々な悩みを抱えた人や、誰これ構わず煽り攻撃する人、かまってちゃんや専門家と多種多様な人間が集まっており、気を紛らわせるにはちょうどいい空間になっていました。

 コテハンやトリップも使って人と話す様になり、現実の生活では知りえない事も知ることが出来ましたし、人の悩みを聞いてわかる範囲の回答をしたり、励ましたり、些細な事でしかなかったですが、私を必要としてくれる人がちゃんと居るんだと錯覚する事で生きてる理由を無理やり作っていました。


 借金の返済はそんな中でも順調に進めることが出来ており、彼女と別れて一年もしないうちに残るは三井住友銀行のみに収束させる事が出来ました。

 ですがこの返済を終わらせて、いったい何が残るの考えて見ましたが、その先には何もありませんでした。



 大事なものはもうこの手に残っていない。

 残り1社の返済で全て済むのに、もうどうでもよくなってきていました。



 ですが、そんな中、家業の運送会社は変わり始めていました。

 これまで日陰で頑張り続けていた姿を見てくれていた運送会社から声をかけていただき、共に仕事をしていく事になった事で経営も安定化、これまでの赤字を解消していくほどの黒字を出すまでになりました。

 そしてさらに、兄が出先の会社で出会った人と交際、子供を授かり、男の子が生まれる報告が届きました。

 さらに葬祭の立ち位置も不思議と上の方に上がっており、相談を受ける事も多くなってきました。

 私を置いて、周りは少しずつ好転していっていました。

 それがさらに私の気持ちを沈める要因にもなっており、全ての好意が煩わしくなり、他者との会話が苦痛に変わっていき、2ちゃんねるに行く事も苦痛になっていました。


 返済も残り50万を切った頃、何が火種だったのか忘れてしまいましたが、私は仕事場で暴れてしまいました。

 調子よくころころ変わる周囲の軽い評価、理解しようとしない環境、今の自分自身の精神状態、なにより一番の原因は、坑うつ剤を何年も飲まずに暮らしてきている事が原因だったと思います。

 些細な事や茶化し、冗談が全て私を蔑む言葉に感じられ、信じられるものが何もなくなっていく感覚、これまで自分がしてきた事評価されているのに、それがまるで別の誰かの評価の様で、私の望んだ事はこんな小さな事では無くて、本当はもっと大事にしてあげなきゃいけない事があった様で、人の気遣いが気持ち悪くて、良い人を演じてる雰囲気が気持ち悪くて、上司に媚びへつらう誰かの言葉に虫唾が走り、生きてる事が馬鹿らしくなってきて、このまま生きて幸せになれるはずないと考える様になり、私は食事を取る事を極端に嫌いになりました。


 これまでは満腹になるまで食べたかった晩御飯も、僅かに口に運んでいた昼食も、好きだったコーヒーも、間食も喉にひっかかる感覚を覚えるようになり、さらには吐き気を覚える様になりました。

 仕事が順調に進むようになり、我が家の食卓は潤いをみせていましたが、私は仕事場で食べて来たと偽りながら何日も食事を取らない生活を送っていました。

 空腹感も2日が過ぎると特に感じなくなり、水やコンビニのから揚げ一個で満足できるぐらいになっていました。


 細身で体重も55キロ程しか無かった私の体重は、40キロを切っていました。


 ある日、私はお風呂上がりに洗面台で鏡に目を止め、自分の身体を見ると、割れてた腹筋はへこんでおり、膨らみもあった胸筋はあばら骨が浮くようになり、腕も足も関節の方が大きい程にやせ細っておりました。

 それでも、やはり食欲が湧いてくる事もありませんでした。


 喉にひっかかる感覚は何週間も消える事がなく、風邪気味ではないかと考え、私はまた風邪薬をのみ続ける日々を送っていました。

 ただそれでも喉の違和感は収まる事もなく、次第に口の中には口内炎がいくつも出来るようになって水を飲む事も苦痛になっていました。

 そんなある日、仕事場の年に一回に健康診断の日になり、検査を受けている私は最後の問診の際に、医者から今すぐ病院に行ってくださいと言われました。

 その医者は、医療センターかr来ているらしく、連絡を入れて置くから今すぐ行って下さいと指示を受け、その日の夕方になりましたが医療センターに到着しました。

 おそらく拒食症か痩せすぎで医療機関にかからないといけないのだろうと考えていたら、耳鼻咽喉科に案内され、問診に血液検査、尿検査にレントゲンに、最後にマイクロスコープによる食道の検査をされました。

 映しだされた映像をぼんやり見ていたら、喉の奥や食道にも口内炎の様なものが多数出来てましたが、ある部分で医者がカメラを止めて言いました。

「中海さん、これわかりますか?検査してみないとわかりませんが、癌である可能性があります」


 つづく

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