第27話 別れ

 友人の借金を肩代わりする事になり、また食費を抑える生活が始まりました。

 ですが、その次の月にはボーナスが出たので、一気に返済する事も出来ました。

 一気にと言っても、私の会社のボーナスは本当に少なく、年2.2しかありませんでした。

 ですので、夏のボーナスは1.1で、金額にしたら15万程でしたが、それでもアコムは1年で返せる計算でした。

 完済までの年月が3年から4年になっただけと考えるようにしました。

 そしてその瞬間から、これまで通っていた精神科への通院を辞めました。

 僅かな金額ではありましたが、その分を返済に回したり出来ないかと考えたからです。

 そこからは特に大きな出来事があるわけでもなく、順調に月日が流れていき、1年経たず、10カ月程でアコムの返済が終わりました。

 こうして残りは210万に戻り、そこからも順調に返済は進んでいました。


 そして彼女が就職してから1年が過ぎた頃、彼女と電話をしている時に、結婚の話が浮上しました。

 彼女には、友人からの借金を背負った事は伏せていましたので、予定では来年には完済できそうですかと言う話も出て、それから1年か半年ほどしたら結婚して小さくてもいいから部屋を借りて、一緒に住みませんかという申し出でした。

 女性にその言葉を言わせてしまった事に気恥かしさを覚えましたが、その時私はつい口を滑らせ、貯金するぐらいなら私は借金返済に回したいからまだ結婚は無理だよ、と言ってしまいました。

 その時、彼女の落胆した声は今でも覚えています。普段感情を強く前に出す事のなかった彼女が、明らかに不信感を抱いた声を出したのでした。

 その事を当時の私は勘付く事が出来ませんでした。


 それから数カ月が過ぎた頃、彼女と久方ぶりに会い、私は帰路につき、いつもの流れである、無事に帰って来た報告をメールで送りました。

 そしてその日の晩、電話で話をしている時、また結婚の話が出ました。

 前にも話した通り、私はまだ結婚できるだけの資産を持っていないと告げると、わかっています、だから、今日でお別れにしましょう、と告げられました。

 私は理解が追いつかず、彼女をなだめようとしましたが、原因はどれだけではありませんでした。

 借金の事、家の事も理解していたつもりでしたが、性欲も減退し、私からの愛を感じられなくなってきている事、そしてその相談を大学時代の友人に話したところ、その同級生の男性とセックスをしてしまった事、それにより私を裏切ったと自分の中に自責の念が生まれてしまった事、もうあなたを好きで愛していられる自信がない事、様々な理由をつきつけられ、私は全てを否定することが出来ませんでした。

 私は後ろめたさを感じていた為、躁鬱になった事も薬の副作用で性欲が湧いてこない事も隠していました。

 さらに借金の返済も今の実際の金額より少なく伝えていた為、彼女の中の計算と合わず不信感をずっと抱いていた事も気付きませんでした。

 ずっと彼女も不安で、その中でもちゃんと本当の事を全部教えて欲しくて、結婚の事も実際に今すぐしたいのではなく、彼女なりに本当の事を言うチャンスを与えてくれていたのです。

 病気の事ももと早く伝えていれば、彼女が他の男に流される事も無かったのかもしれません。と言うのも、彼女は男性恐怖症で、男の人と一緒の空間にいる事がとことん怖がる性格でした。大学の軽音部に所属していた時も、一緒に部活をしている女友達と居る事が多く、男性と話をした事も少なかったそうです。

 ですが私と交際し、少しずつ男友達と話をするぐらいにまで落ち着いていましたが、異性として好きなる事はありえないと豪語もしていました。

 それは気持ちの問題であり、男女の間柄ですから絶対と言う事はありえないし、もし彼女がそれで幸せなら私は身を引くつもりでいました。

 ですがこんな誤解をされたまま別れるのは嫌だったので、なんとか話を聞いてもらえないかと食い下がりましたが、彼女は電話を切った後、着信拒否をし、メールを送っても返事が来ず、本当の意味で、連絡が取れなくなってしまいました。


 そして、私は彼女に会いにいったばかりの為、手元に先立つものが無く、彼女の元に駆けつける事を躊躇してしまい、それ以降、彼女に連絡を取る事が無く、あまりに呆気なく、最愛の人と別れる事になってしまいました。


 つづく

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