第24話 終わりからの始まり

 父の自殺未遂の日の夜、その日もいつも通りに一日が終わりました。

 母に自殺しようとしていた事がわかると、手術後の母がショックを受け、後追い自殺をするかもしれない。だから父は私に口止めをお願いしてきました。

 私もこれ以上の混乱を与えては本当に家族がバラバラになってしまうと思い、今回の事は胸に秘める事にしました。

 ですので、母を含め、家族のだれもこの事を知りません。

 ですが、首に残った締め後は簡単には消えないので、父は夏場で暑いからという理由をつけて、数日間ずっと首にタオルを巻いていました。


 父の自殺未遂から数週間が過ぎた頃、仕事から帰って来た父が母と喧嘩しました。

 喧嘩と言っても、ほぼ一方的に母が父を責め立てる形になっていました。

 昔は父も言い合いになっていましたが、歳月を重ねるうち受け流して母が落ち着くまで辛抱強く聞く事に徹していました。そうする事で母が満足するなら良いと言う考えだったのかもしれません。

 ですが、すでに限界を迎えていた父に、それはあまりにも大きなものでした。

 突然父がテーブルを力いっぱい殴りつけ、

「わしだって一生懸命やりゆうがや!!ああああああー!!!」

 顔を真っ赤にし、頭を抱え込んで座り込んだのです。

 今までにない父の豹変ぶりに、母も、お父さんごめん!!そこまで責めるつもりじゃなかったの!!と、父に抱きつきなだめていました。



 もう、この生活に終わりをつけるべきだと思いました。






 兄と弟が出稼ぎの期間を終え、家に帰ってきました。

 その晩、家族会議が開かれ、会社を辞める事にした、今までみんなに苦労掛けてすまなかった、借金は弁護士に相談して、自己破産して、一からやり直す事にした。と家族に告げました。

 誰もそれを否定する事は出来ませんでした。

 みんなもう限界だと、ここが潮どきなんだと考えていたようでした。

 会社を始めて4年間、救いのない環境で、よく頑張ったと思います。

 家族全員が静かに父の話を聞き終えた後、私は口を開きました。



 もう一度、頑張ってみないか。



 自己破産すると言う事は、父の持ち家である事務所兼家であるここも差し押さえの対象になるし、そうなったら兄の子、姪二人の将来もある。

 弁護士に依頼するのも弁護士費用が必要だし、今ならなんとか弁護士費用も捻出できる瀬戸際なのもわかる、経済的に状況的に、確かに自己破産するなら今がいいかもしれない。でも、父の長年の夢である会社の設立、何より、家族の幸せを願って始めたわけですから、誰も父を責めたりはしない。

 自己破産するって事は、全てを失う事になる、そのすべてを失うのは、今ではないのではないか。

 債務整理で、今ある家の負債を、元本から返済させてもらえないか全ての銀行に相談してみてはどうか。仕事も、今は一旦休業と言う形を取り、各々別の運送会社に手伝いとして入り、そこで人脈を繋げて一緒に仕事をしてくれる会社を探して見えてはどうか。

 過払い金の請求をして、今まで借りてたところの中から少しでも戻せる所はないか探してもらい、可能であればそれを司法書士や弁護士に依頼してみよう。

 死んだつもりになって、もう一度頑張ってみよう。

 そう告げると、押し黙っていた兄と弟も、やれるだけやってみようと言う事になり、母は泣きながら、自分たちの子育てに間違いはなかったんだと口にしてくれました。

 その日は、家族みんなで少ないビールと日本酒を飲みきり、翌日から再出発を目指し、仕事を探して方々へ出向いて行きました。

 母は銀行に掛け合い、なんとか元本のみの支払いにしてもらえる事になりました。

 そして弁護士にも依頼し、催促の電話を止めてもらえるようになりました。

 弁護士費用は、私が立て替えました。

 会社として借りていた銀行と、個人で借りてた銀行も含めて10社程あったので、10数万円程必要でしたが、家族が助かるためならそれぐらい惜しくも何ともありませんでした。


 そして、この選択が、これからの会社の運命を変える瞬間でもありました。


 つづく

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