第19話 いざ精神病院へ
紹介状をもらい、一度会社に戻ると、病院から会社に連絡があったらしく、仕事はいいからまず病院に行ってきなさい、と告げられ、荷物をまとめて早退し病院へ向かいました。
紹介された病院は車で1時間半程かかる距離でしたが、むしろ気分転換になると思っていたので、むしろ心地よいものでした。
精神病院に着き、自動ドアを通るのにしばらく時間がかかりました。
一歩入ったら、頭のおかしい人と同類に扱われる、精神障害者の手続きもあったけどそれで獲られる給付金って生活保護と変わらない、むしろ少ないはず、そうなったらやはり自己破産して借金を帳消しにするしかないのか、いや支払い能力のある親類に請求が回るだけだから親や兄弟に負担が行く、そうなったら今でさえ苦しい生活がより一層締め付けられる、やはりここは病院に行ったと言う体で帰って働き続けた方がいい、むしろそれで過労死して死んだ方が生命保険や労災が入って家族も助かる、やはりここに来るべきではないのではないか…そんな事を考えていると、受付の事務員が自動ドアを開け、私に問いかけました。
「お電話いただいていた、中海様(仮名)ですか?」
そんな声が聞こえ、力なく「はい」と答えると、微笑むでもなく、表情も変えずに静かに自動ドアの中へ入るように促され、私はやっと病院に入りました。
受付で保険証を渡し、検温に血圧を測ると、診察室に案内された。
中には高齢で女性の先生が待っていました。
そして今どんな気持ちなのか、落ち込んでるだけなのか、仕事で悩んでいるのか、家庭の事で悩んでいるのか、交友関係で悩んでいるのか、質問されました。
私は正直に、思い思いの言葉を吐き出しました。
仕事の事、家族の事、家業の事、借金の事、友人の事、恋人の事、これからの事、ただそれらは、順を追ってではなく、時系列もバラバラ、思いついた事をただ静かに、ぽつぽつと呟く様に言葉にするだけでした。
診察室に時計はありませんでした。
長時間話をしてしまった事に申し訳なくなり、いま何時ですかと聞くと、先生は気にする事はありませんよと告げ、もっと話を聞かせて下さいと言ってくれました。
時計を置いてないのは、時間に縛られたり、時間を気にして吐き出したい言葉を我慢する患者さんが出さない為、あえて置いてないのだそうです。
そして私の話を、先生はカルテに記していきました。
話終えた私に、先生は、
「双極性障害、つまり躁鬱病と言う心の病気がありますが、あなたはそれにあたります。浮き沈みが激しいとか、興味ない事は興味ない、好きな事はとことん好きなら落ち込みがちになってるだけと診断できますが、好きだったものが嫌いになった。やりたくないものなのに気持ちが高ぶって励んでしまう。常に終わりを考えてしまう。自己犠牲が強まり、無理を続けてしまう。そして味覚障害、睡眠障害も考えると、自律神経失調症もあるでしょう。」
そんな感じの事を言われたと思います。この時浮遊感と耳鳴りもあったので、明瞭に記憶はしていませんでしたが、思い返せばこの様な言葉でした。
また、躁鬱と自律神経の簡単なチェック用紙でも同じ結果が出ました。
まず睡眠を取る事、そして食べれる物を何でもいいから食べる事。
ご飯を無理に食べようとしなくてもいいから、お菓子でもジュースでも何でもいい、とにかく何かを口に運んで少しでも栄養を身体に与えてあげる事から始めましょう。
味覚障害は薬の副作用や栄養不足、ストレスが起因で起きますが、私の場合はストレスと薬、栄養不足と全て当てはまっていました。
睡眠薬の代わりに風邪薬、一品のみのおかず、職場と家庭のストレスが溜まり溜まって起きたそうです。
睡眠障害も、ストレスが大きく関係しており、常に心配事や不安、たび重なる風邪薬の服用でそれがさらに悪化、風邪薬の入眠作用に依存した結果だそうです。
そして躁鬱病と自律神経失調症。
過度なストレスと不安で自律神経が乱れ、栄養不足によりセロトニンが不足、それにより睡眠も行えなかったために成長ホルモンの分泌もされず脳に強いストレスがかかり発症したと考えられるとの事でした。
なかなかオンパレードな自分の精神状態に、半ば笑いが込み上げました。
ですが、自分は病気なんだと落ち込むよりも、これは病気のせいだったんだと確証を獲られて、安心を与えてもらえたと思いました。
そして先生から、坑うつ剤と睡眠導入剤、胃腸薬が処方されました。
通常の病院なら、病院と薬局は別の建物である事が多いですが、精神病院や心療内科の場合、病院内に薬局があります。
話を聞いてもらった後、僅かに軽くなった心と薬を獲て、私は帰路につきました。
つづく
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