第15話 鬱の始まり
高速バスが駅に到着するのは早朝だったのですが、私の住んでる所から駅まで車で2時間かかりますので、まだ夜も明けてない時間に出かけ駅で待っていました。
携帯で互いに写真を交換していたので、すぐに見つける事が出来ました。
初めて彼女を見た時、当たり前の事ですが写真で見るよりも愛らしく背も小さかったです。
容姿に関する事や詳細は割愛しますが、彼女の初めての彼氏が私であるとの事でした。ですので初めての事が辛い事になってはいけないと思い、精一杯誠実に過ごしました。
そして初めて過ごす夜も、はやる気持ちを抑えて何もせず居ると、彼女の方から何もしないのかと誘われ、絶対に痛くしないようにと必死に抑えながら初夜を過ごしました。
女性には優しくするようにと父から強く教育を受けて来た私は、誰に何を言われるでもなく勝手にそう考えてしまうようになっていましたが、それも高じて彼女からも信頼されるようになりました。
そして彼女から、大学の相談や友人の事を打ち明けてもらえるようになりましたが、私はどうしても自分の今の状況を伝える事が出来ず、家庭の事は全て隠して接してきました。
そして彼女と数日間過ごした後、彼女を送り届けました。
それからと言うもの、暇さえあれば仕事中でもメールのやり取りをするようになり、唯一の心の拠り所になってくれました。
もちろん順風満帆に事は進まず、喧嘩もして別れる事もありましたが、互いに距離を措いて考えたら自分が悪かったと謝罪し、戻ると言う事も繰り返していました。
本当に、どこにでもある普通の遠距離カップルと言う感じでした。
そして私の生活ですが、これまで通り返済に追われる生活でしたが、彼女が出来た事で携帯電話の通話料がかさむようになり、プランを変更して無料通話料の多いプランに変更しました。その為、携帯代が5千円から1万5千円に上がる事になりました。
さらに彼女と出掛ける事や、彼女の所に行くまでのガソリン代や高速料金、食事代等も必要になり、返済額が一気に遅くなってしまいました。
ガソリン代は1万円増え、高速料金は4千円、食事代は5千円、その他必要になる料金を考えて小遣い5千円。合計で2万4千円は必要になりました。
細かい金額になりますが、千円の違いだけでも返済の予定が違ってくるのです。
そして、彼女と出会う事にお金の心配をし続けないといけないのは彼女に申し訳ない気持ちになる…だからと言って大学生である彼女に負担をかけるのはもっと嫌だったので、彼女にはどうしても家の借金の事は言えずにいました。
そして仕事も安定はしてきているのですが、上司と仲良くしている事が先輩方の気に触れているのか、仕事の不手際の大半が私のせいと言う事にされて叱られる事が多くなってきました。
ですがそんな事は何でもないのですが、心のどこからでやはり負担が重なっていたのかもしれません。
ある日、顔面麻痺と顔面神経痛に陥り、顔がこわばり、その表情がまた気に障ったのか、会話もなくなって行きました。
葬祭の仕事の流れは、ある程度決まった流れではあるので会話が無くてもそれほど大きな事では無いのですが、最悪お客さんに被害が出る場合があるので、なるべく笑顔で過ごすようにしていました。
葬祭の仕事は、厳粛な表情で望むのが好ましいですが、普段の接客の際は笑顔とまでは言いませんが、眉間にしわを寄せず、穏やかな顔立ちで接して上げると言うのが私なりのやり方です。
ですが顔面麻痺に陥り、左半分の表情がこわばっていると、お客さんからクレームを貰っていると上司に報告を上げられ、その都度説教をされました。
ですが、お客さんからクレームは上がってないと思います。
なぜなら、私はそのクレームが上がってる時間帯、お客さんの前に出ていないのです。裏方で和室の清掃や出棺準備、倉庫の掃除などをしていたので、お客さんの目に留まる事はよほど見られていない限りないありえないのです。
それも上司はわかているのですが、特別扱いをしていると他の職員に示しもつかないと言う事で、形式上は説教をしていると言う状況でした。
その事実は退社後、上司から電話があり、事実確認を私にもしてきた事で上司自身もわかっていると思います。
そして、顔面麻痺に神経痛から、自傷行為も知らず知らず行っていました。
口内を噛む、自分の髪を千切る、痒くないのに腕を掻く、奥歯を何度も強く噛む、気付いたら爪の後が残る程手を握っている。
そう言った事を繰り返しているうちに、先輩方も気が引けてきたのか、私を無視する事は少なくなってきました。
そして葬祭の仕事に就いて2年と少しが過ぎて来た頃、私は鬱を発症しました。
つづく
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