第6話 舞い戻って来た葬祭業
まさかわざわざ会いに来てくれると思ってなかった私は、満面の笑みで挨拶を交わした。
上司は今、別の葬儀社のセンター長をされており、仕事も順調で忙しい日々を送っているとの事でした。
久しぶりに会った事だし、食事に誘われた私は身支度を整え、上司とともに食事に出かけました。
ひとまずビールを注文し、お互いの近況を話し合いました。
上司は失業後、職業安定所より同じ職種の葬祭業の会社を紹介され、すぐに就職、研修期間もそこそこに、今までの実務経験と年齢もあり、すぐにセンター長の座につけたそうです。
そして話もそこそこに、私と一緒に来てくれないかと引き抜きの話をされました。
私は、以前の仕事の記憶があるのですぐに断りましたが、今の仕事は以前のように夜中に呼び出されることもないし、残業手当も通夜手当、その他福利厚生もしっかりしてるし、基本給自体も悪くはない。
それに私なら、すぐに仕事を覚えて昇給も十分考えられる、家業を継いで頑張ってる事はいいことだが、どうしても私と一緒に働きたいと強く申し出られましたが、それでもお断り続けていました。
食事も終わり、タクシーを呼んで帰る時もついて来て、はたまた家にまでついてこられ、両親にまでお願いしますと頼み込み、根負けして私は再び、葬儀社に戻ることになりました。
両親も兄弟も、正直快く思ってはいませんでしたが、この出会いと決断も、のちに大きな力になったことは間違いないと思います。
短い2ヶ月の家業でしたが、上司の紹介と言う事で、すぐにでも面接に来てほしいと半ば強引に会社に呼ばれ、成人式の時に来ていたスーツを着て出社しました。
そこでは、他の事業所の上司や幹部の方々が、小さな会議室に10数名いらっしゃり、無駄な圧迫感を感じながら面接が始まりました。
面接と言っても、どこまで仕事ができるのか、どんな経験をしてきたのか、続けられそうかとかそんな無いようでした。
ネットで見かける、圧迫面接が来ると心構えをしていただけに、呆気なく面接が終わって拍子抜けしてしまいました。
ですが最後に、
「じゃあそのまま現場に入って仕事を始めて」
待ってほしい。
私が今着ているスーツは、婚礼に切るような濃いグリーンのスーツで、決して厳粛な葬祭の職員にふさわしい色合いではないのだが…そのまま現場に入って欲しい?
それはいくらなんでも軽すぎるのではないか?
そう思い、ひとまずスーツを買いに行かせてほしいと言いましたが、大丈夫、裏方から始めてもらっていいからと言われ、一緒について来てくれてた上司にも半ば強引に連れて行かれ、そのまま現場入り。
ブランクがあることもはなにもかけず、すぐに湯灌、経帷子への着せ替え、納棺、幕張、祭壇組みとさせられました。
なにがなにやらわからず、一通りの作業を終え、会社に戻ることになった私は、上司にいくらなんでも急過ぎるとつめ寄りましたが、その場ですぐに他の職員への挨拶が始まり、いつの間にか自己紹介、明日の8時には出社するようにと言われ、意味もわからぬまま初日が終えた。
つづく
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