第3話 倒産で終わりでは無い
会社に持ちこんでいた私物等は全て持って帰り、明日には会社を閉めるとなった。
この就職氷河期に倒産、再就職のあてもない、どうしようかと考えるのが当たり前だと思いますが、むしろその心配をするだけで終わればよかった…
ただこの時、社長の計らいで、従業員には2カ月分の給料が用意されていました。
本来なら給料の支払いもしなくても良い状況であったのに、最後の最後まで残ってくれた従業員のこれからの不安を少しでも軽くしたく、社長は弁護士に相談しながら、それらの経費を捻出してくれたのである。
そして全ての従業員に直接給料は手渡しで、そして一人ひとりにこれまでの仕事のねぎらいもかけながら渡していった。
封筒も銀行や郵便局とちぐはぐな封筒ばかりで、そのすべてに従業員の名前がマジックで書かれた、正直みすぼらしい封筒だったが、今まで銀行振り込みで貰ってる給料とは違い、お金の重みと言うものを強く感じました。
そしてその日から、恐怖の日が始まりました。
まず、私と直属の上司、また専務にその奥さんは、一度家に戻り、数日分の着替えと洗面道具、食料と水を持ちより、葬祭会館に入りました。
その日の晩は、静かなもので、みんなお酒を飲みながら、これまでの事や思っていたことを言いあい、床につきました。
そして翌日の朝から、ガラの悪いヤクザが事務所のドアを何時間も叩いて開けろと騒いでいたのです。
そうです、取り立てです。
通常、会社が倒産した場合は競売にかけられ、不動産か市町村の役場がそれを買い取り、更地にするか貸店舗として取り扱うかを決めるそうです。
ですが、競売にかけられるまでの数日、その敷地内は持ち主不在となり、金目のものがあればそれを持ちだすなんて事もあります。
中古販売店に、衣類やせっけん、封筒やコピー用紙が並んでいるのは、正規ルートで売りに出された品物だけなく、こういった持ち主不在の会社に無断で侵入し、金品を売りに出す者もいます。
この辺りは法律の事になるので私自身は詳しくありません。
認識を誤っている場合があったらすいません。
電話機、延長コード、電球、窓ガラス、事務机、パソコン、椅子、エアコン、テレビ、コーヒーメーカー、コップ、皿、冷蔵庫、電子レンジ、湯沸かし器、バケツ、オアシス、さらには葬儀に用いる一切合財の道具は会社に保管しています。
それらも大なり小なり、価値のある物ばかりなので、競売で手が出せなくなる前に持ちだそうとしていたのです。
ですが、人が居ては相手も不法侵入出来ないので、私と上司、専務と奥さんが居座り、破産手続きが終了するまで手出しが出来ないようにしていました。
昼夜ドアを叩かれ、罵声も浴びせられ、近隣住民のみなさんにも迷惑をかけました。
そして何より、葬儀が終わった後の相談の電話もあるため、電話線を外すことも出来ず、鳴りやまない電話に頭が痛くなりながらも、耐えるしか出来ませんでした。
その間も、毎日怒声を危機、ヤクザが居なくなったのを見計らい、裏口からスーパーに走り、自腹で全員分の弁当やインスタントラーメン、水を買って戻ることを続けていました。
そして10日過ぎた頃、弁護士から連絡が入り、破産手続きが完了したので、もう誰も手は出せませんと連絡が入り、やっと私たちは解放されました。
こうして10日間、ヤクザにおびえる生活を終える事が出来ました。
そして家に戻り、安心して入れなかったお風呂の温かさと、暖かいご飯の味をかみしめ、静かな眠りを得ることが出来ました。
つづく
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