第2話 仕事へのやりがい

 退職届を撤回し、仕事を続けていくにあたり、大きな原動力になっていたのは当時付き合っていた彼女も支えとなっていた。


 彼女とは、後輩の紹介で付き合う事になった。

 正直、本当に美人な子でした。

 例えるとモデルの『蛯原 友里』似で、スリムで明るく面白い子でした。


 ですが、私の仕事が彼女との関係に大きな亀裂を入れることにもなりました。

 葬祭業のイメージは、当時本当に閉鎖的で、死体を触る、腐乱死体や焼死体、水死体ももちろん取り扱、その処置や着せ替え、孤独死や縊死(いし)※首つり死体、そう言った遺体を触ることになるので、周囲からは気持ち悪いイメージが強いという言葉を吐かれた事もありました。

 そんな世間のイメージがある中でも、友人はもちろん彼女も、理解を示してくれたし。人の嫌がる仕事を懸命に頑張るあなたはカッコいいと言ってくれた。


 素直に嬉しかった。


 この子は、昼間は専門学生、夜は学費や自分の小遣いを稼ぐために、夜は飲み屋で働いていた。顔立ちも美人なので、指名客も多く、当時の私より稼いでいたと思う。

 この子との生活を続けていくためにはお金がいる。

 少ない給料の中でも、彼女に不自由や切り詰める生活はしてほしくはなかったので、葬祭の仕事を辞めて、別の働き口を探さないと思っていました。

 そして何より、彼女との時間を大事にしたかった。


 先に記したとおり、夜中でも酒を飲んでいても呼び出されていたので、彼女にも寂しい思いをさせているとわかっていました。

 ですが私が仕事を続けることを彼女に告げると、あっさりと彼女は別れを切り出してきた。


 お金じゃなく、私を想う気持ちを知りたかった。


 彼女と過ごしている時でも、彼女の家にいる時でも、ドライブしてる時でも、セックスしている最中でも、電話が鳴ったら仕事に走っていた私に、ほとほと愛想が尽きていたのです。

 その中でも、一時期無職になる時期があっても、彼女を優先していれば、別れることもなかったと思います。


 それでも仕事にやりがいを見つけ、会社からも必要とされている事が、退職を思いとどまらせる枷になり、続ける原動力に変わって言ったんだと思います。


 そして葬祭業を続けて2年と少し。

 学校の恩師の両親や同級生の祖父母、近所の歯医者や病院の両親たちの葬儀も経験し、周囲から立派になったと言われるようになった頃、社長から不思議な事を言われました。


「葬祭会館の中にある、蛍光灯の数、換気扇、扉、窓、材質、全部調べてくれ」


 なんの事を言ってるのかわからず、言われるまま私は数を数えました。

 次に、


「葬祭会館の中にある、幕、花輪、生花ポット、オアシス、薬剤、ストック、鋏に桶に棺に釘、トンカチと道具がいくつあるのか数えてくれ」


 葬祭の道具は特殊なものもあり、生花や祭壇の生け花、花輪に看板と全て自分たちの手で準備し、飾っていたました。

 通常なら花は花屋、花輪は花輪屋と分かれていることがおおいのですが、私の勤めていた会社はすべて従業員が行っていました。


 そして、どこになにがあり、これがどういう道具なのかもすぐにわかるので、全て数を数え、それをノートに記して会社に提出しました。


 そしてこれが、この会社での最後の仕事にもなりました。


 数日後、会社に出勤すると、直属の上司より、会社が倒産すると知らされたのです。


 つづく

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