Second Life小説■孤高と唯一無二(pilot sketch)

結城あや

イントロダクション

 土地を借りていたSIMの閉鎖に伴い別のSIMに引っ越して数か月が経った。

 バー自体は以前と同様の建物を流用したが、地下には少し広めのギャラリーを作り、好きなマンガや小説の表紙を並べている。ブックギャラリーとでも呼べばいいだろうか。同じように本好きな友人や来店者には喜ばれているようだ。

「セカンドライフ」の中にもギャラリーやミュージアムというものがあって、現実世界でイラストや絵画を描いているユーザーが自分の作品を展示したり、「セカンドライフ」内で撮影した写真を展示していたりするが、わたしのようにコレクションを展示しているケースは稀だろう。バーの建物同様に、有りそうで無いところがわたしの「セカンドライフ」内でのコンセプトと言えるのかもしれない。

 ちなみにわたし自身の座右の銘は「孤高」と「唯一無二」だったりする。

「まあ、あやさんはすでにその領域でしょうね」と親しい友人は冗談まじりに言う。

「セカンドライフ」の中のわたし、つまりアバターは黒人女性だ。

 黒人アバターは、日本人ユーザーの中ではもちろん、海外のユーザーにもあまり多くはないという印象がある。最初に黒人スキンを使ったのは、フリーで手に入れたことがキッカケだったが、周囲に黒人スキンを使っているユーザーがいなかったこともあり、自分のアバターの特徴にできると思い、黒人スキンにこだわるようになった。ブラックミュージックが好きだからとか、黒人女性に憧れがあるという理由ではないことは、ときどき黒人スキンを使用している理由を聞かれるときに、なんだか申し訳なく思ったりもする。

 とはいえ、黒人スキンと銀髪のセットは、わたしのアバターの特徴であり、この外見で覚えてくれている人は多い。この点においては、確かに「孤高」に近づいているようにも思える。

 黒人女性であるということは、もちろん「セカンドライフ」内だけのことだ。現実のわたしは日本人であり、肌の色も黒くはない。

 現実とは違う自分をネットの中で生きている、と考えてみると、これはある種のパラレルワールドを体験しているのではないかという気もしてくる。「同じ自分」であるのと同時に「別の自分」であるという多重人格的な要素もそこにはある。もちろんこれは「セカンドライフ」に限ったことではなく、MMORPGにも言えることかもしれない。実際、わたしはいくつかのMMORPGに「セカンドライフ」と同じ名称で、同じように黒い肌と銀髪のキャラクターを持っている。複数の平行世界を生きているという気もするし、それぞれが少しずつ違う多重人格のひとつという気もしている。

 では、基本となる本来の自分は現実世界の自分なのか、というとそれもまた違う気がする。そう、「セカンドライフ」を始めMMORPGのキャラはすべて黒人女性だからだ。「セカンドライフ」の結城あやというアバターが中心にいて、MMORPGのいくつかのキャラクターが派生的に生まれた。MMORPGのキャラは「セカンドライフ」の結城あやの別人格なのである。

 では現実世界の自分と、「セカンドライフ」やMMORPGの結城あやは別の存在といえるだろうか。現実の自分とは違う黒人女性ではあるけれど、ことさら結城あやというアバターを演じているわけではない。そこには現実世界の自分も反映されているはずだ。その意味においては、現実世界の自分と、「セカンドライフ」のアバターも同じ自分の別人格ということが言えるだろうと思う。

「セカンドライフ」のアバターはシェイプとスキンで外見を変えることができる。スキンのクリエイターは、作ったスキンを最大限魅力的に見せるために調整したシェイプも用意していることが多い。それをセットで使えば、どこのクリエイターのものを使っているか、見ればわかることも多い。へたに自分でシェイプを調整するよりキレイでカッコイイ外見になれるのだから、セットで使う方がいいかもしれない。けれどわたしは、それでも自分でシェイプを調整して自分らしさを表現したいと思う。そこに「孤高」と「唯一無二」が生まれると思うからだ。

 まだ自分では「孤高」にも「唯一無二」にも成れていないと思っている。自分で納得できる時が来るのか、と言えば来ないような気もするが、少しでも近づきたいと思っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Second Life小説■孤高と唯一無二(pilot sketch) 結城あや @YOUKI-Aya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ