第11話「虚構からの浮上」
この
そう、思っていた。
実際に訪れてみるまでは。
「っと、フィーネの
春季の側では、
彼は警官なのに、巨大なバイクにヘルメットも被らずここまで来た。それも、春季を
だが、不思議と信頼できる気がした。
俊暁はフィーネのことを知ってて追ったようだが、春季も気遣ってくれてるのだ。
「角川さん、えっと」
「俊暁でいい。お前さん、過去の地球から来たっていう例のボウズなんだろ?」
「は、はい」
「話は
一応だとか、仮にもだとか。
そんなことを言って苦笑する割には、俊暁の律儀さが感じられた。
そして、静まり返った校内の雰囲気も異常である。
その意味に、どうやら俊暁は心当たりがあるようだ。
「この区画は本来、閉鎖されてんだ……このエルヴィンは、俺達街の人間にもわからない謎が多過ぎる。セキュリティの奥にまさか、学校があるなんてな」
警戒しながら進む俊暁に、自然と春季も身体が強張った。
その時、絶叫が響く。
声のする方へと、即座に俊暁が走り出した。
妙な胸騒ぎを感じて、重い足取りでどうにか春季も続く。
学校の一角、声のした教室へと飛び込んで……二人は異常な光景に絶句した。
「なっ、なんだこりゃ!?」
「マネキン、ですか……? 俊暁さん、これは」
「知らねえよ、ボウズッ! ここは、この施設はいったい」
その言葉に、振り返る少女が答えてくれる。
間違いない、先程街の中で出会った少女……確か、
「……来てしまったのね、
切実さの
そして、真っ直ぐ見詰めてくる瞳に嘘はない。
周囲には、学園の制服を着た少年少女達が並んでいる。そう、笑みを張り付けた表情を凍らせ、固まっているのだ。マネキンと評したが、その
そんな中に、フィーネが寄り添う少年の姿があった。
彼だけは普通の人間、春季と変わらない。
端正な顔には今、戦慄に慄く恐怖の表情が浮かんでいた。
少年は春季と俊暁を一瞥してから、声を震わせる。
「どうなってるんだ……俺は今まで、日本で……普通の暮らしを、高校生をやってて」
彼の手を握って、フィーネが言葉を選ぶ。
それは容赦がなく、正直過ぎる端的な説明だった。だが、フィーネの声音に
「彼は、
フィーネの声はどこまでも透き通っている。
そして、彼女はふと視線を外した。
蓮介と呼ばれた少年の手を放し、歩き出す。
「……ナルミが、呼んでる。そう……私達の因果がこの座標に重なってしまったのね」
そう言ってフィーネは、教室を出ると行ってしまった。
春季は
彼は
「ボウズ、そっとしといてやれ……どういうことかわからねえが、このエルヴィンじゃヤバい研究なんてゴマンとあるからな」
「でも……放っておけないですよ。あの、僕は藍田春季です。えっと、蓮介さん、ですよね」
震えながら蓮介は
そして、必死で理性を確かめるように喋り出す。
「ここは、
「あのっ、蓮介さん。落ち着きましょう。周囲のこれは……」
「親友の
「え、えっと、とりあえず、これを!」
それを見て、蓮介は一瞬目を丸くした。
「うまぁ棒……一本、十円」
「僕のいた時代にも、似たようなお菓子がありました」
「僕の、いた、時代? お前は――」
「藍田春季です。訳あって、このエルヴィンに滞在してるんです」
「エルヴィン? ここは日本じゃ」
教室の扉が突然開いた。
俊暁が出てゆくところだった。
だが、彼は一度だけ振り向くと、蓮介を
「気の毒だったな! ニホン? そりゃ、大昔に滅んだ国だ。今じゃ名前すら知られてねえよ」
「そ、そんな……」
「でもな、そのボウズは……春季は過去から来た。お前の知ってるニホンとやらが、まだ確かにあった時代からな」
蓮介はしきりに
だが、その目には次第に強い光が戻ってきた。
それを確かめるように、俊暁は大きく頷く。
「俺はフィーネを追う。ナルミの奴も保護せにゃならん。お前はどうする?」
「どうする、って」
「そのボウズは優し過ぎんだ。甘えてブルブル震えてるか? それとも、この場に残るか! この施設だって、どっかの企業が抑えてんだ。すぐに人がやってきて……お前をニホンとやらの夢に戻してくれるかもしれない」
「……それは」
「自分で考えて、自分で選べ。俺はずっと、そうしてきた。じゃあな!」
俊暁は行ってしまった。
だが、春季は確かに見た。
彼が、蓮介の崩れかけた心に、微かな明かりを
そして、他ならぬ蓮介自身が、小さな火を
「……このまま訳もわからず終わってたまるか! 進むしか、ない」
「なら、一緒に行きましょう。僕は、エルンダーグがなければ無力、弱いですけど……あなたを一人にさせないくらいはできるつもりです!」
「春季君、だったよな。俺は緋崎蓮介だ。蓮介でいい」
彼はすぐに走り出した。
春季も必死でその背に追いつこうとして、身体を引きずるように走る。あっという間に息があがって、薬物の影響でけだるい肉体が重くなってゆく。
だが、ここにいては駄目だと頭の中でなにかが
その声は不思議と、幼馴染の
フィーネ達を追って辿り着いたのは、体育館。
だが、その扉は
「あら、ついて来たのね」
目を細めて、フィーネは一同を見渡し、最後に蓮介を
彼女が扉を開けると……闇の中に、巨大な物体が横たわっていた。
その数、三機。
ケイジに固定された人型機動兵器のようだ。
だが、中央に横たわる機体は違う。
その奇妙な巨神の上に、ナルミが立っていた。
彼女の側まで軽々と登って、フィーネは真っ直ぐ向き合う。
春季は奇妙な緊張感の中で、気付けば手に汗を握っていた。
これからなにかが始まる……誰かの現実が始まるのだ。
「ナルミ、彼を乗せたいのだけど……いいかしら?」
「フィーネが選んだなら、いいよ。でも」
「わかってる、最後に選ぶのは彼よ」
その時、激震が走って建物全体が揺れる。
自然と春季にも敵の存在が感じられた。
そして……もう、隣の蓮介に迷いや
「フィーネ、だったな……俺がこのロボットに? どうして俺なんだ」
「この
フィーネがなにか、デバイスらしきものを投げてきた。それを受け取る蓮介の手を見て、春季は
迷わず蓮介は、春季に一度だけ頷いて機体へと走った。
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