第6話「選択を迫り来る、死」
リョウ・クルベは
ルナティック
無数に襲い来る謎の敵は、その
見上げるその
例えるならそう、騎士の鎧を模した城だ。
「れんふぁ、
『は、はい……ごめんなさい。少し、この子の調子が悪くて』
「いや、いい。とりあえず今は、みんなで生き残ることを考えよう」
すぐにメガフロート警備任務中だった、2機のバンガードとイルミネート・リンクを構築する。向こうに話のわかる少年がいたのは
この地獄のような惨状で、理性的にそれらを働かせられるのは一つの才能だ。
『クルベ中尉、でしたよね。敵の増援が続いています。それに、この巨大な次元転移反応』
「戦艦クラスが出てくるのかもな。ここは撤退が吉と思うが……援護する、君達は戦域外へ離脱しろ。それと、うちのれんふぁを頼む」
『中尉はどうするんです?』
「君達の離脱を援護する。悪いが俺は軍人なんでね。それで飯を食ってる以上、未来の
少しの強がりと、
そして、確固たる責任感だけがクルベを動かしていた。
幸い、この重力下の大気圏内でも、特殊装備の愛機センチュリオンは普段と変わらぬ操作感覚で戦える。
むしろ、アウトレンジでの砲戦では絶対的なアドバンテージがある。
それを
だが、そんなクルベの考えを否定する声が
『失礼ながらクルベ中尉。脱出するなら全員で一点突破しかないかと』
「君は……ええと」
『
「……もっともだ。だが、君達を兵隊として数えることには抵抗を感じる」
『ならばご安心ください。私達幼年兵も、制度上は正規の軍人と同等ですので』
――
パラレイドとの永久戦争が常態化し、多くの外敵に面した
多くの少年少女が、過酷な戦場でお取りや弾除け、無謀な特攻に使い捨てられた。
宇宙のオービット・ガンナー乗りにもちらほら幼年兵はいる。
皆、高等教育の無償化を
そして、彼等彼女等が一人前になれることは少ない。
「……了解した。では、全員で現状の危機から脱出を選択する。俺が指揮を取るがいいか? 何かあったら、タクミ……君があとを引き継げ。
クルベは命令を終えるか終えぬかの中で機体を
いよいよ目の前に、そそり立つ鋼鉄の破壊神が姿を表した。
全高400mを超えるその巨体の着陸に、メガフロート全体が揺れる。激震に見舞われる中で、2機のバンガードはお互いの死角をカバーしながら臨戦態勢だ。対して、
次元転移と重力制御を可能とした、謎のパンツァー・モータロイド……【シンデレラ】。その存在が
だが、そんなことを言ってはいられない現実が目の前にそそり立っていた。
「何だ……? あのデカブツにも、識別データが、交戦記録があるだと? ……ダルティリア。だが、このジェネシードというのは」
その時だった。
巨大な甲冑の化物にも似た巨体から、光が宙へと映像を描き出す。
そこには、地球の
鮮明な立体映像は、ゴホンと
『皆様、ごきげんよう。わたくしはキィと申します。ジェネシード……この地球、惑星"
「何……? この地球を? これは……ッ!? ジェネシードとかいう組織についてもデータがある。しかし、重要度
『こちらの機動兵器は、キィボーダーズの騎士オルトが駆る、ダルティリア。現在の地球の科学力で、この機体は撃破不能ですの。どうか、抵抗なさらないでくださいな』
キィと名乗った少女の立体映像は、とても穏やかで静かな笑みを湛えている。それは、クルベが見ても侵略者の表情に見えなかった。
そして、違和感を感じてやれない自分を納得させる。
そう、彼女は自らを地球の生みの親の末裔と名乗ったのだ。
これは侵略ではない……ジェネシードとかいう連中からすれば、相続の問題なのだ。
『宇宙の
クルベは耳を疑った。
タクミやナナカ、れんふぁも同様だ。
『今すぐこちらの地球を……この惑星"r"を返してくださいな。わたくし達の
「な、何を言ってるんだ……? 惑星"r"だって?」
『もしくは、あちらの地球。そう、まつろわぬ
理解不能な状況だが、愛機センチュリオンにはデータが存在する。
ジェネシードと名乗る組織の機動兵器、ダルティリア。そして、無数に投入される量産壁のライリード。それは、恐るべき創世神話からの侵略者だ。
不意にキィと名乗る少女の立体映像が消える。
そして、若い男の無機質な声が響いた。
『キィ様からは以上だ。私はキィボーダーズの
同時に、ダルティリアと呼ばれた巨大要塞の
向かってくるその一歩一歩が、巨大なメガフロートを大きく揺らめかせる。
『クルベ中尉。逃げの一手で行きますよね? ……そうやすやすとは帰してくれそうもないですけど』
「ああ、そうだなタクミ。クッ、こんな時は彼が……いや、頼れてしまうなら、それも悲劇だ。彼はもう、俺達地球人のために戦った、戦い終えたのだから」
だが、徐々に下がりつつ追い詰められるクルベ達は、感じた。
誰もが皆、退路への糸口すら
それは例えるなら、
音速を何倍も超えたスピードが、周囲の空気を風圧へと変えた。
そして、ダルティリアの前に巨大な壁が立ちふさがる。
敵に対して半分もないその姿は、それでも150mもの巨体に少年の決意を乗せていた。
『すみません、クルベさん! さっきの次元転移ではぐれてしまって……ここは僕が抑えます。離脱を!』
「春季か!? いや、しかし……今まで
『エルンダーグの質量が、もしかしたら次元転移の負担になったのかも……地球の裏側まで飛ばされました。でも、戻ってきましたよ……僕は! 飛んで! 戦う、ために!』
両手を伸べる山のようなダルティリアに対して、エルンダーグも
全高で二倍以上違えば、その質量差は十倍では済まない。
だが、悲痛な叫びを張り上げる
『グッ、アアアッ! ガァ……僕が、抑え、るんだ……ッ!』
「春季、よせっ! 離脱しろ! 俺達も逃げるつもりだ!」
『ええ、だから……早く! 急いでください!』
「君も一緒だ!
『そう、言って、くれるから……僕ごと、あの
それは誰も知らない戦いを生き抜いた男の絶叫。
全人類が知らぬまま、知らぬうちに終わった戦争の勝利者……地球の外敵をたった一人で
エルンダーグが震えながら、ダルティリアの大質量を押し返し始める。
今、その力を絞り出すために一人の少年が激痛と業苦に耐えている。
魔神は少年の切なる願いと祈りを、
そんな中でも、タクミとナナカの冷静さが光る。
『クルベ中尉、チャンスです。予想外の戦力を前に、敵の足並みも乱れている。今なら脱出が可能かもしれません。僕が
『そこの
パラレイドの襲撃で事実上消滅した、東京校区の二人……恐らく、無数の
だが、逆境で育っただけあってこの危機にもよく落ち着いている。
部下に欲しいタイプだと、素直にクルベは思った。
『え、えと……次元転移、いけます。今度はエルンダーグも、春季君も……もう、誰も
『カウントダウンを開始して。タクミ? あのトリコロールを私と守るわよ』
その間もずっと、巨大な兵器同士の取っ組み合いが続いていた。
春季は一人で、オルトとやらのダルティリアを押し返そうと試みる。だが、遠い宇宙で
ずっと
「れんふぁ、いつでもやってくれ! タクミ、君は俺と援護射撃を。ナナカは【シンデレラ】の護衛! あと少し、少しでいい……こんなところで終わる訳には」
『カウントダウン、開始します。次元転移まであと5、4、3、2……1!』
再び【シンデレラ】から
同時に、春季の空を裂く絶叫がダルティリアを押し返した。
そしてクルベは、少年少女達と同時に七色の輝きに包まれる。
だが……それは、長き
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