アナザーハイスクールライフ

はじめに

『アナスク』に見た夢、『アナスク』が見た夢

 俺が高校生活を過ごした1990年台……はっきり言って、自分のようなオタク少年にとっては地獄のような時代だったと思う。今のように、サブカルチャーのコンテンツが一般化していない時期だ。

 今はいい……アニメや漫画、ゲームといったコンテンツが娯楽ジャンルとして成立している。程度問題こそあれ、オープンな環境で楽しむ人が増えた。

 だが、1990年台……バブル景気が弾ける前後、俺の灰色の青春時代があった。

 趣味を語れる友達はいた。

 しかし、友達と語る時間、場所が許されなかった。

 学校では趣味を隠し、なるべく背景に徹して生きる。

 アニメ雑誌など持っていようものなら、その後の高校生活は暗黒に染まる。

 オタクに人権がない時代が、実はあったのである。

 宮崎勤ミヤザキツトム氏の殺人事件を契機に、マスコミがオタクに貼ったレッテルもあっただろう。

 コミケが新聞に「犯罪者予備軍」と書かれてた時代だってあったのだ。

 だから、今の日本のサブカルチャー界隈かいわいとうとい。クールジャパンなどとおためごかしではなく、もっと根本的に守って、伸ばして、誇って欲しいものだ。


 さて、俺が求めても得られなかった青春を描いた物語……それがTAMA-CHAN先生の『アナザーハイスクールライフ』だ。主人公は学校の部活の裏の顔として、巨大ロボットのパイロットになって戦う。そして、国家規模の陰謀を前に、孤立した学校を守るべく仲間達と団結して立ち向かうのだ。

 主人公は適度にオタクである。

 アニメが好きだし、それを友人達と隠しもしない。

 明るく楽しいオタク生活を満喫しているのだ。

 そして、秘密の部活動ではパイロットをやっている。

 うらやましい……作品を読んでて、素直に『こんな学生生活を生きたいだけの人生だった』と思わせてくれる。エンターティメントとして、純粋に読者が主人公を羨ましいと思えること。これは名作の共通点であり、とても重要なファクターだ。

 しかし、物語は急激に主人公達の環境を変えてしまう。

 国家から敵と指定され、戦いは激化……学校自体があたかも独立国のように自衛を強いられ、戦闘が続く。少しずつ日常が侵食されてゆくのだ。


 羨ましいと思っていた景色が、徐々に戦いに塗り潰されてゆく。

 学校の部活でロボットのパイロットという、キャッチーな入口の先で……少しずつ道は傾斜して読者を吸い込む。その先にあるのは、なかばデスゲームと化したサバイバルだ。次第にすさんでいく物語が、前半とのギャップでとても面白い。

 諸事情があって現在は更新が凍結されている。

 でも、この物語がTAMA-CHAN先生にとって大きく意義のあるものになったと思う。

 創作物はよく、完結させてこそ一人前だという人がいて、自分も昔はそうだと思った。だが、創作家として歳を取ると気付く……。誰もが皆、我が子のように思う作品を完結させたいのだ。だが、事情が許されず打ち切りにしたり、大人のしがらみで未完になってしまう。それは結果であり、それとは別に完結を願い望んで皆が努力しているのだ。

 作品を完結させてこそ、えられる経験値があるというのも、嘘だ。

 勿論もちろんそれはあるが、それを全てのように語る論調には俺は懐疑的だ。


 だから、アナザーハイスクールライフが突然再起動リブートすることだってあるだろう。それはいつでもいいし、十年後でも二十年後でも構わないのだ。それと同じくらい、このまま未完の大作として記憶されることも、許されるはずだ。創作にはYESかNOかの選択肢など存在しない。あるのは、自由という名のたった一つの選択だけである。

 という訳で、俺は未完であってもアナザーハイスクールライフを猛プッシュする。

 というのも、俺にもこうした作品を書き、それを持て余した少年時代があった。

 誰にだってあるのだ。

 そして、それはいつか思い出になる。

 完結させられなかった作品からも、人は成長を得る。

 この度感謝と敬意を込めて外伝を書かせていただこうと思いました。これはあれですね、ファフナーでいうとROLです。本当にそういう感じの話を、少しですが書かせて頂きます。今までの創作仲間の皆様の作品世界を二次創作してた時とは、明らかに違う形になるかな? なんて思ってます。それも挑戦、凄く楽しみですね。


・アナザーハイスクールライフ(TAMA-CHAN)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881528910


敬称略

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