スーパー◇ボット大戦「」- 星戦秘録外典 -
第1話「銃爪は君が引け!」
青く輝く水の星、地球。
その中で生きる命は、まだ知らない。
自分達の地球が、惑星"
そして、惑星"
そう、まだ知らない……惑星"J"へと飛ばされてしまった者達のことも。
彼等が異なる地球で、
惑星"r"のある宇宙もまた、激動の時代を迎えようとしていた。
――月衛星軌道上。
ヴィクトリクス号から射出された愛機センチュリオンの中で、リョウ・クルベ中尉は
突然の
クルベを除く他の隊員は、
クルベだけが、とある理由で待機の命令を受けていた。
「最終防衛ラインにて、特殊機材を受領の後に運用……速やかに目標を破壊せよ、か」
そう、極めて不可解な命令だった。
そして、その命令が
今持って地球圏、そして太陽系全土で混迷は深く長く続いている。
そんな時、ヴィクトリクス号から通信が入る。
『クルベ中尉、例の特殊機材とやらが届いたわ。相対速度を合わせて頂戴』
「了解だ、マユミ艦長。あれか……こちらでも目視で、確認、し……た、が……おいおい、これが特殊機材だって? 俺に何をやらせようってんだ、こんなもので」
クルベはセンチュリオンを加速させつつ、飛翔する物体へと降り立った。
そう、それは人型機動兵器であるオービットガンナー、センチュリオンよりも遥かに巨大だ。長く伸びた砲身は200m級で、
それは、長く伸びた剣のようなシルエットの、宇宙を翔ぶ馬鹿でかい大砲だ。
『
「こんなものをどうやって?」
クルベはすぐに、開示された機密情報のデータバンクへとアクセスする。マニュアルがあったが、読めば軽く
現在、光学兵器や熱線兵器の
木星圏でのみ、小型化して運用が可能になっているものが少数存在する程度である。
「つまり、こいつは……地球人類が作った最小サイズのビーム砲ってことか」
『そうよ。
「こいつか……正気の
『急増だけどコネクタを増設してあるわ。直接ドッキングする必要はないの。ユナイテット・フォーミュラ規格(※7)だからセンチュリオンとの有線接続は可能なはずよ』
それ自体が巨大な剣であるとすれば、丁度
クルベはそれを愛機に
同時にセンチュリオンのコントロール系にアップデートが加わり、あっという間にクルベは人類最大の巨砲を手中に収めた。
『中尉、第三次防衛ラインのフォレスター曹長達が突破されたわ。ここで食い止めて……目標はこのままだと、地球へ落下するコースをとっている。一撃で仕留めて
「こちらでもデータを確認した。全長4kmの円筒形……こいつは?」
『大昔に造られた、木星圏の初期型コロニー……その成れの果てよ』
「ちょっと待ってくれ、それを地球に? 落とすっていうのか」
『情報統制により一部の部隊しか知らず、故に我々少数精鋭での迎撃しかできないわ。そして、この最終防衛ラインを突破されれば、旧世紀のロボットアニメが現実になる』
「コロニー落とし、か……どこのどいつです? これはもう、戦争のやり方じゃない」
『月の連中は関与を否定してるらしいわ。パラレイド(※8)でもないみたい……詳細は不明よ』
艦長のマユミが少し
こういう時は多くを聞かずに、自分の仕事に専念したほうがいいだろう。
そして、センチュリオンの中から巨大な砲身を制御して、迫るレーダーの光点へと砲口を向ける。チャンバー内で膨大なエネルギーが破壊のために練り上げていった。
そして、光学映像を肉眼で確認してクルベは二度目の驚きに声をあげる。
「……なあ、艦長。マユミ……これは」
『言わないで。……私も理解不能なの。ただ、ああ、待って。新しい情報が入ったわ』
「今日が実は
『例のコロニーについてね。老巧化のため住民が退去したあと、民間企業が買い取ってるみたい。コロニーまるごと遊園地にする計画が
「それでか」
今、静かにトリガーの時を待つクルベの目に、脅威が姿を現した。
あまりに奇異な。
そして突飛な姿だ。
「それで……ペンギン(※9)が落ちてくる訳か。悪い冗談もここまでくると笑えないものだな」
そう、落下阻止限界点である最終防衛ラインに向かって……漆黒の闇を引き裂き、巨大なペンギンが突っ込んでくる。突破されたため推進剤を補給し、追跡に入った仲間達からの映像でも再確認した。
コロニーは、巨大なペンギンの姿をしている。
円筒形の構造物がそのまま、ずんどうのペンギンを
『クルベ中尉、射撃用意を。全艦耐ショック防御……あれだけの巨砲よ、離れていても衝撃波は途方もないものになる』
「なあ、マユミ」
『何かしら? 他に必要な情報は……そうね、コロニーを買い取った企業は一大リゾートに作り変えたかったみたい。でも、膨らむ予算に計画を断念したの。解体費用の
既に現実感が持てなくて、クルベは上官にして恋人であるマユミを呼び捨てにしていた。そのことにも気付かないのは、どこかで別の現実が待っているかのように
クルベに与えられた任務はこうだ。
馬鹿でかい大砲で、馬鹿でかいペンギンを撃つ。
しくじれば地球にでかい穴が空く。
「……まあいい、やるしかないんだ。それより、遺棄されたコロニーだろ? ……いったい、誰が……何がそいつを動かした?」
宇宙では慣性の法則により、モーメントを加えられた物質はどこまでも減速せずに進む。誰かが木星圏で、あのペンギンの尻を叩いたのだ。
なんの目的で?
それよりも、新たな疑問がクルベの中に浮かぶ。
同時に、彼は最終安全装置を解除し、トリガーに指を押し当てた。
「今、減速したな……あのコロニーが自分で。そう、減速した……つまり、何らかの意図を持って制御されているということになる。だがっ!」
全長200mの砲身が、各部にアポジモーターを明滅させながら射線を固定した。
その砲口が、粒子加速器から零れ出る輝きで光り出す。
クルベは迷わず、トリガーを操縦桿へと押し込む。
そして、クルベは舌打ちを零す。
「質量がでかすぎる、完全に破壊するにはもう一射……だが、エネルギーが」
数十秒ほど連続で光の粒子を吐き出し続けた砲身が、白煙を巻き上げ冷却に入った。エネルギー残量はほぼ空で、二射目を撃つことは不可能に近い。
そして……もうもうと爆煙を巻き上げながら、ペンギン型のコロニーは近付いてくる。
クルベの射撃でさらに減速し、外殻部分も大半が蒸発して消えた。
だが、崩壊し始めた質量の中に……なにかがいる。
それをクルベが察した瞬間、ノイズ混じりの通信に何かが割り込んできた。
『僕は……帰って、来たんだ……地球、に……帰って、来たんだ!』
子供の、それも少年の声だった。
そして、コロニーの中に巨大な熱源体を探知する。
それは、増援として駆けつけた
だが、クルベははっきりと肉眼で確認した。
バラバラになり始めた構造物の中から……巨大な赤い影が浮かび上がるのを。
※1:人類同盟
惑星"r"と後に呼ばれていたことが判明する、小さい方の地球(大きい方は惑星"J")で、ほぼ全ての国家が参集してできあがった軍事同盟。
出典『リレイヤーズ・エイジ』
※2:アラリア共和国
惑星"r"と呼ばれる地球で、月に終結して人類同盟と戦争をしている宇宙国家。何度も地球降下作戦を実施しては大規模戦闘を引き起こし、今は一進一退で
出典『ピースキーパー』
※3:インデペンデンス・ステイト
木星圏でコロニーの自治と独立を求める革命運動勢力。
出典『PEAXION-ピージオン-』
※4:秘匿機関ウロボロス
人類同盟内に存在が噂される、謎の秘匿機関。階級や所属を問わぬ独自の命令権を持ち、多くの優れた技術を独占しているとも言われている。また、その構成員は何故か『リレイヤーズ』と呼ばれる10歳前後の少年少女のみで構成されている。
出典『リレイヤーズ・エイジ』
※5:パンツァー・モータロイド
人類同盟各国で運用される人型陸戦兵器。全高7m程と小型で、大量生産と集団運用を前提とした構造で作られている。本来は非戦闘員である女子供にも使えるよう、不慣れな搭乗員でも動きを把握しやすくするため人型をしている。また、
出典『リレイヤーズ・エイジ』
※6:レヴァンテイン
人類同盟の一部や、各国の治安維持部隊で運用される人型機動兵器。全高は6~7mで、フレームや各種パーツをそれぞれ無数のメーカーから選択し、アッセンブル方式で組み立てられるためカスタム機が多いのが特徴である。数を揃えるならパンツァー・モータロイド、質を求めるならレヴァンテインになるのが現在の陸戦兵器の運用スタイルとなる。
出典『戦慄のレヴァンテイン』
※7:ユナイテット・フォーミュラ規格
惑星"r"が存在する世界の、ありとあらゆる兵器が共有する共通規格の総称。長い戦乱の中で、人類は効率的に多種多様な兵器を運用するべく規格の統一化を図った。そのため、パンツァー・モータロイドやレヴァンテイン、アーマードモービルやダイバーシティ・ウォーカー、
出典『PEAXION-ピージオン-』
※8:パラレイド
惑星"r"を襲う謎の侵略者。無数の無人兵器群を用い、
出典『リレイヤーズ・エイジ』
※9:ペンギン
どう見てもペンギンダーです本当にありがとうございました。……いや、冴吹稔先生が以前描かれてた、
出典『世迷いペンギンは荒野を歩く』
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