スーパー◇ボット大戦「」- 星戦秘録外典 -

第1話「銃爪は君が引け!」

 青く輝く水の星、地球。

 その中で生きる命は、まだ知らない。

 自分達の地球が、惑星"アール"と呼ばれていることを。

 そして、惑星"ジェイ"と呼ばれるもう一つの地球の存在を。


 そう、まだ知らない……惑星"J"へと飛ばされてしまった者達のことも。

 彼等が異なる地球で、超法規的独立部隊ちょうほうきてきどくりつぶたい『リジャスト・グリッターズ』を結成した時。

 惑星"r"のある宇宙もまた、激動の時代を迎えようとしていた。


 ――月衛星軌道上。

 ヴィクトリクス号から射出された愛機センチュリオンの中で、リョウ・クルベ中尉はいぶかしげにモニターをにらむ。漆黒の宇宙はどこまでも暗く深く、その中へ吸い込まれた仲間達の光はもう見えない。

 突然の抜錨ばつびょうで母艦ヴィクトリクス号がステーションを緊急発進したのが半日前。

 クルベを除く他の隊員は、すでに指定された前線へと飛び出していった。

 クルベだけが、とある理由で待機の命令を受けていた。


「最終防衛ラインにて、特殊機材を受領の後に運用……速やかに目標を破壊せよ、か」


 そう、極めて不可解な命令だった。

 そして、その命令が人類同盟じんるいどうめい(※1)宇宙軍の指揮系統を無視したものであることも不思議である。現在の人類同盟宇宙軍は、長引く月のアラリア共和国(※2)と戦争状態である。無数の降下部隊を送り込んでくる敵は、つい先日……木星圏のインデペンデンス・ステイト(※3)と同盟を結び、アラリア連合帝国の建国を宣言した。

 今持って地球圏、そして太陽系全土で混迷は深く長く続いている。

 一兵卒いっぺいそつに過ぎぬクルベでさえ、終わらぬ戦乱を思えば暗鬱あんうつたる思いだった。

 そんな時、ヴィクトリクス号から通信が入る。


『クルベ中尉、例の特殊機材とやらが届いたわ。相対速度を合わせて頂戴』

「了解だ、マユミ艦長。あれか……こちらでも目視で、確認、し……た、が……おいおい、これが特殊機材だって? 俺に何をやらせようってんだ、こんなもので」


 クルベはセンチュリオンを加速させつつ、飛翔する物体へと降り立った。

 そう、それは人型機動兵器であるオービットガンナー、センチュリオンよりも遥かに巨大だ。長く伸びた砲身は200m級で、艤装ぎそうも済んでいない船体――それが宇宙船と呼べるものならば――は、馬鹿げた推力を無言で語るブースターが背部に乱立している。

 それは、長く伸びた剣のようなシルエットの、宇宙を翔ぶ馬鹿でかい大砲だ。


秘匿機関ひとくきかんウロボロス(※4)から貸与たいよされた、試作型の集束荷電粒子砲オプティカル・フォトンカノンよ』

「こんなものをどうやって?」


 クルベはすぐに、開示された機密情報のデータバンクへとアクセスする。マニュアルがあったが、読めば軽く目眩めまいを覚えた。

 現在、光学兵器や熱線兵器のたぐいは、ごくごく一部の艦船にしか搭載されていない。

 木星圏でのみ、小型化して運用が可能になっているものが少数存在する程度である。


「つまり、こいつは……ってことか」

『そうよ。粒子加速器りゅうしかそくきのサイズがどうしても大きくなってしまって。クルベ中尉、砲身の基部中央にコントロールユニットのドッキングハブがあるはずだけど』

「こいつか……正気の沙汰さたじゃないな。待ってくれ、このサイズ……パンツァー・モータロイド(※5)やレヴァンテイン(※6)のサイズだ。こんなデカブツを一機で制御する構造になってる」

『急増だけどコネクタを増設してあるわ。直接ドッキングする必要はないの。ユナイテット・フォーミュラ規格(※7)だからセンチュリオンとの有線接続は可能なはずよ』


 それ自体が巨大な剣であるとすれば、丁度鍔元つばもとの部分にクルベのセンチュリオンが歩く。そこには、小型の人型兵器が自動二輪のようにまたがれるユニットがあった。今は、そこから数本のケーブルが浮かび上がっている。

 クルベはそれを愛機につかませると、すぐに機体との直結を試みた。

 同時にセンチュリオンのコントロール系にアップデートが加わり、あっという間にクルベは人類最大の巨砲を手中に収めた。


『中尉、第三次防衛ラインのフォレスター曹長達が突破されたわ。ここで食い止めて……目標はこのままだと、地球へ落下するコースをとっている。一撃で仕留めて頂戴ちょうだい

「こちらでもデータを確認した。全長4kmの円筒形……こいつは?」

『大昔に造られた、木星圏の初期型コロニー……その成れの果てよ』

「ちょっと待ってくれ、それを地球に? 落とすっていうのか」

『情報統制により一部の部隊しか知らず、故に我々少数精鋭での迎撃しかできないわ。そして、この最終防衛ラインを突破されれば、旧世紀のロボットアニメが現実になる』

「コロニー落とし、か……どこのどいつです? これはもう、戦争のやり方じゃない」

『月の連中は関与を否定してるらしいわ。パラレイド(※8)でもないみたい……詳細は不明よ』


 艦長のマユミが少し苛立いらだってるのをクルベは察した。

 こういう時は多くを聞かずに、自分の仕事に専念したほうがいいだろう。

 そして、センチュリオンの中から巨大な砲身を制御して、迫るレーダーの光点へと砲口を向ける。チャンバー内で膨大なエネルギーが破壊のために練り上げていった。

 そして、光学映像を肉眼で確認してクルベは二度目の驚きに声をあげる。


「……なあ、艦長。マユミ……これは」

『言わないで。……私も理解不能なの。ただ、ああ、待って。新しい情報が入ったわ』

「今日が実は4月1日エイプリルフールだったって話かな? それとも、ドッキリの類とか」

『例のコロニーについてね。老巧化のため住民が退去したあと、民間企業が買い取ってるみたい。コロニーまるごと遊園地にする計画が頓挫とんざした記録があるの』

「それでか」


 今、静かにトリガーの時を待つクルベの目に、脅威が姿を現した。

 あまりに奇異な。

 そして突飛な姿だ。


「それで……(※9)が落ちてくる訳か。悪い冗談もここまでくると笑えないものだな」


 そう、落下阻止限界点である最終防衛ラインに向かって……漆黒の闇を引き裂き、。突破されたため推進剤を補給し、追跡に入った仲間達からの映像でも再確認した。

 コロニーは、巨大なペンギンの姿をしている。

 円筒形の構造物がそのまま、ずんどうのペンギンをかたどっているのだ。


『クルベ中尉、射撃用意を。全艦耐ショック防御……あれだけの巨砲よ、離れていても衝撃波は途方もないものになる』

「なあ、マユミ」

『何かしら? 他に必要な情報は……そうね、コロニーを買い取った企業は一大リゾートに作り変えたかったみたい。でも、膨らむ予算に計画を断念したの。解体費用の捻出ねんしゅつもできず、安全な宙域に放置……まあ、不法投棄してたみたい』


 既に現実感が持てなくて、クルベは上官にして恋人であるマユミを呼び捨てにしていた。そのことにも気付かないのは、どこかで別の現実が待っているかのように空々そらぞらしいからだ。

 クルベに与えられた任務はこうだ。

 馬鹿でかい大砲で、馬鹿でかいペンギンを撃つ。

 しくじれば地球にでかい穴が空く。


「……まあいい、やるしかないんだ。それより、遺棄されたコロニーだろ? ……いったい、誰が……何がそいつを動かした?」


 宇宙では慣性の法則により、モーメントを加えられた物質はどこまでも減速せずに進む。誰かが木星圏で、あのペンギンの尻を叩いたのだ。

 なんの目的で?

 それよりも、新たな疑問がクルベの中に浮かぶ。

 同時に、彼は最終安全装置を解除し、トリガーに指を押し当てた。


「今、減速したな……あのコロニーが自分で。そう、減速した……つまり、。だがっ!」


 測距そっきょデータを素早く再計算して、万全を期すために再度マニュアルで確認する。そして諸元しょげんを入力すると同時に、センチュリオンを乗せた集束荷電粒子砲が震え出す。

 全長200mの砲身が、各部にアポジモーターを明滅させながら射線を固定した。

 その砲口が、粒子加速器から零れ出る輝きで光り出す。

 クルベは迷わず、トリガーを操縦桿へと押し込む。

 まばゆい光がほとばしって、溢れ出した光芒がペンギンを包んだ。

 そして、クルベは舌打ちを零す。


「質量がでかすぎる、完全に破壊するにはもう一射……だが、エネルギーが」


 数十秒ほど連続で光の粒子を吐き出し続けた砲身が、白煙を巻き上げ冷却に入った。エネルギー残量はほぼ空で、二射目を撃つことは不可能に近い。

 そして……もうもうと爆煙を巻き上げながら、ペンギン型のコロニーは近付いてくる。

 クルベの射撃でさらに減速し、外殻部分も大半が蒸発して消えた。

 だが、崩壊し始めた質量の中に……

 それをクルベが察した瞬間、ノイズ混じりの通信に何かが割り込んできた。


『僕は……帰って、来たんだ……地球、に……帰って、来たんだ!』


 子供の、それも少年の声だった。

 そして、コロニーの中に巨大な熱源体を探知する。

 それは、増援として駆けつけた軌道守備艦隊オービタル・ガードナーが砲撃を開始するのと同時。無数の火線が吸い込まれる中、ペンギンの姿をしたコロニーが崩れ始める。

 だが、クルベははっきりと肉眼で確認した。

 バラバラになり始めた構造物の中から……巨大な赤い影が浮かび上がるのを。







※1:人類同盟

 惑星"r"と後に呼ばれていたことが判明する、小さい方の地球(大きい方は惑星"J")で、ほぼ全ての国家が参集してできあがった軍事同盟。

出典『リレイヤーズ・エイジ』


※2:アラリア共和国

 惑星"r"と呼ばれる地球で、月に終結して人類同盟と戦争をしている宇宙国家。何度も地球降下作戦を実施しては大規模戦闘を引き起こし、今は一進一退で膠着状態こうちゃくじょうたいおちいっている。長引く戦乱の中、アラリア連合帝国を名乗り再侵攻を開始しつつある。

出典『ピースキーパー』


※3:インデペンデンス・ステイト

 木星圏でコロニーの自治と独立を求める革命運動勢力。こころざしの確かな者、手段の正当性にこだわる良識派がいる一方で、末端には宇宙海賊とそう変わらない連中もいて玉石混交ぎょくせきこんごうである。月のアラリア共和国と手を結んだ一派と、地道で平和的な独立運動を望む一派とに分裂しつつあるようだ。

出典『PEAXION-ピージオン-』


※4:秘匿機関ウロボロス

 人類同盟内に存在が噂される、謎の秘匿機関。階級や所属を問わぬ独自の命令権を持ち、多くの優れた技術を独占しているとも言われている。また、その構成員は何故か『リレイヤーズ』と呼ばれる10歳前後の少年少女のみで構成されている。

出典『リレイヤーズ・エイジ』


※5:パンツァー・モータロイド

 人類同盟各国で運用される人型陸戦兵器。全高7m程と小型で、大量生産と集団運用を前提とした構造で作られている。本来は非戦闘員である女子供にも使えるよう、不慣れな搭乗員でも動きを把握しやすくするため人型をしている。また、絶対元素Gxぜったいげんそジンキの発見による科学技術の向上で、半思念操作が可能なインターフェイスを持つ。

出典『リレイヤーズ・エイジ』


※6:レヴァンテイン

 人類同盟の一部や、各国の治安維持部隊で運用される人型機動兵器。全高は6~7mで、フレームや各種パーツをそれぞれ無数のメーカーから選択し、アッセンブル方式で組み立てられるためカスタム機が多いのが特徴である。数を揃えるならパンツァー・モータロイド、質を求めるならレヴァンテインになるのが現在の陸戦兵器の運用スタイルとなる。

出典『戦慄のレヴァンテイン』


※7:ユナイテット・フォーミュラ規格

 惑星"r"が存在する世界の、ありとあらゆる兵器が共有する共通規格の総称。長い戦乱の中で、人類は効率的に多種多様な兵器を運用するべく規格の統一化を図った。そのため、パンツァー・モータロイドやレヴァンテイン、アーマードモービルやダイバーシティ・ウォーカー、強襲可変機レイダーといった大小様々な人型機動兵器は火器や弾薬、一部のパーツを共有している。現在、ユナイテット・フォーミュラ規格を採用していない機体はほぼ存在しないと言ってもいいだろう。

出典『PEAXION-ピージオン-』


※8:パラレイド

 惑星"r"を襲う謎の侵略者。無数の無人兵器群を用い、次元転移ディストーション・リープによって時間も空間も無視して出現する。圧倒的な物量と、小型化された光学兵器による絶対対空戦等能力を持ち、地球上から『航空機に寄る制空権の維持、戦略爆撃や空輸、空挺作戦』という概念を消滅させてしまった。そのため、人型の陸戦兵器ばかりがいびつに進化した世界となったのである。また、パラレイドの中にはまれにセラフ級と呼ばれる戦略兵器級の危険個体が存在し、その力はブリテンや北海道を地球上から消し飛ばしてしまった程。

出典『リレイヤーズ・エイジ』


※9:ペンギン

 どう見てもペンギンダーです本当にありがとうございました。……いや、冴吹稔先生が以前描かれてた、1stファーストガンダムのコロニー落としのパロディイラストがとても好きでした。今回、あのイラストを勝手にフィーチャーさせて頂きました。

出典『世迷いペンギンは荒野を歩く』

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