スーパー◇ボット競争「」- 美央ねきスパッツ祭 -
二つの地球を守護する
そのことに胸を痛める大人をよそに、彼等彼女等の士気は高い。
誰もが自分の暮らす地球を愛し、友の生まれた地球を尊重していた。
二つに一つを選んで、どちらかの地球を差し出す……そんな選択は認められない。
だからこそ、多くの者達は自主的に訓練カリキュラムをこなしていた。
例えばそう……
「ハァ、ハァ……もぉ駄目、ごめん……私、駄目。エリー、先に行って」
「がんばろ、
「でも、ちょっとハードだよぉ……なんで、ルゥも、いちずも、平気なのぉ」
ふらふらと手すりにつかまり立ち止まるのは、
地球生まれの地球育ちな
「二人共、お先っ! 無理しないでよ? ここから先は……私達パイロットの本気の一周だからっ!」
スタート地点と同じゴール地点が近付いてくる。
そこでは、タイムウォッチを持って小さな女の子が立っていた。服装は美央達と同じスパッツにランニングだが、汗をかいた様子はない。
幼児体型を強調する格好で、
「貴様等、たるんでおるっ! 走れ、走れ、走れ! ラスト一周、持てる力を振り絞れ!」
かれこれ、同じ場所をグルグルと20周くらいは走っている。
美央も他の面々も汗だくで、脱落者もちらほらと出ていた。
だが、これは美央達が自ら望んだ訓練の一環だ。
特殊部隊とも言えるリジャスト・グリッターズでの生活は、あらゆる部署や作業で体力が要求されるからだ。
そんな中、唯一
「刹那ちゃーん! なんかご褒美とかないのー? 私、このペースなら何周でもできるよー?」
「ええい、シルバー! お前はアンドロイドだろうっ! ……ふむ、そうだな。ラスト一周、トップでゴールした者には私から商品を出そう。金一封と特別休暇、および次回の上陸時の外泊許可もだ!」
その言葉が、少女達を戦士へと変貌させる。
刹那の前を通り過ぎる誰もが、瞳に強い光をギラつかせていた。
「つまり……お
「あ、ちょっと待って! もっ、
「外泊許可は
弾丸のように一人の少女が飛び出した。
脅威の
自慢ではないが、昔から勝負事に妥協したことはないのだ。
勝敗は別にして、常にその時点でのベストを尽くす……それが美央の生き方だ。
「へえ、都ってばやるじゃない。それに、綺麗な脚してる。やっぱ
限界を超えた力を解放させたのは、都だけではなかった。
数人の少女が、目の前にぶらさげられた人参を追う
あっという間に重力ブロックの居住区画通路は、
美央は先頭集団を見据えて、自分の中のギアをトップへと叩き込む。
引き締まった
「っし、本気出す! 休暇も金一封も嬉しいけど……あんな走り見せられたら、燃えない訳にいかないっ!」
加速する美央がトップスピードに達して、徐々に先頭集団との距離が縮まり始める。
最初に追いついた一人を、美央は鮮やかにパスして追い抜く。
忍び寄るように背後についてから、タイミングよく抜きん出る。
「まあ、美央さん! 流石ですね。ですが、私も負けてはいられません!」
「
「美央さんは、休暇の使い方をもう決めていますか?」
「あー、なんか刹那ちゃんがそんなこと言ってたような……別に!」
「私は、
「あーもぉ、休暇は美李奈にあげるから! もー、完全におさんどんモードだよっ」
美李奈を徐々に置き去りに、美央は前だけを見て走る。
すぐに先頭の数人が見えてきた。
体力や筋力、運動神経に反射速度はほぼ互角……ここからは美央も全能力をフル動員だ。先頭集団の後方について、送り狼のようにペースを上げる。
宇宙戦艦愛鷹の重力ブロックが折り返しに差し掛かる時、美央は勝負に出た。
「
「美央さん、おだててもなにも出ませんよ?」
「
「……本当ですか? やっぱり男の子というのは……いえ、でも……美央さん、その」
「ごめん、嘘! 詳しくはあとで!」
僅かに速度を鈍らせた
メスゴリラ呼ばわりは心の中で謝罪したが、本人に自覚がないので不要だったかもしれない。千雪の肉体は均整が取れ過ぎていて、トップモデルとアスリートが同居したような肉体美だ。裸の付き合いで確認済みなので、嫌いではない。
そんなことを思い出しつつ、次もごぼう抜きに抜き去る。
「シファナ、お先っ!」
「美央さん!
「シファナはなに? 休暇? 外泊許可? 金一封?」
「恥ずかしながら、スメルの
「ん、別に……なに? なにがどうしたのさ」
「先日、ミスリルとアマゾー・ン・トットゥコ・ムゥなる大規模商会の
「あー、ずっとガラケーだったもんね。それで金一封狙い……ま、考えとく! 取れたらあげるよ、そろそろスマホにしなきゃね! んじゃ!」
シファナは特別体力が秀でた人間ではないが、流石の精神力としか言いようがない。苦しげな顔を見せずに汗を流す彼女を、そっと抜きつつ肩をポンと叩く。美央に触れられたからか、シファナはようやく立ち止まって両膝に手をついた。
オーバーワークで倒れられては困るし、好みの美少女が辛さも見せずに激走するのはちょっと見てて辛い。
そして、いよいよ先頭の三人を
意外な人物にも見えたし、当然のようにも思える。
美央にとって美しいと思える好みの三人で、自分に勝るとも劣らぬ美少女達だ。
「まずっ、エリカ! トレーニングならユートに付き合ってもらいなって」
「あっ、美央! つ、付き合うだなんて、そんな、交際には手順というものが――」
「その付き合うじゃ、ないっ! よし、次!」
残り、二人……一気に美央は余力を振り絞る。
「ほいで次は……ソーフィヤ! ……なに涼しい顔してんの、余裕?」
「ん、結構しんどい。でも、祖国の東ロシアでは苦しさを顔に出してはいけない」
「あ、そ……でもっ! お人形みたいな顔ばっかしてると、出せる力も出せないっ!」
「む……美央、私と張り合う気? それ、面白い……本気、出す」
そのまま二人は、互いに先を競うように加速する。
あっという間に、トップを走っていた都を左右から二人は追い越した。
「ああっ! ま、待ってー! 私のプラモー! ゴーアルター! ……うぐぐ、これが十代のパワァなんだね……ごめん灯ちゃん、ごめん級君……ついでにごめん?
背後から都が猛烈に追い上げてくる。
精密機械のように規則的な呼吸で、隣を走るソーフィヤはさらにペースをあげた。
美央も最後の力を振り絞って、一周回って見えてきたゴールへ己を押し出す。
そいて、三者はほぼ同時に刹那の前を通り過ぎた。
そして、運命の声を聞く。
「ふむ、ほぼ同着……強いて言えば、神塚美央! 貴様が胸の差で勝利だ。よくやった、日頃の戦闘でもその力を発揮しつつ、もっと私の命令をだな……あ、待て! 神塚美央! どこへ行く、貴様!」
後で刹那が
勝利は、いい。
全力の勝負だからこそ、勝つことが気持ちいい。
それは他者が
美央はいつでも全力全開、なにごとにも全力投球だ。
ただ、そのことを口に出したり表現したりはしないが。
「暑ぃ……もう限界、水……それと、シャワー! みんなもだよね? じゃ、一緒に」
ようやく脚を止めた一同は、ぞろぞろと互いの健闘を讃えながらシャワールームに向かう。途中にはドリンクサーバもあったし、誰もが給水の飲み物を受け取ってそぞろに歩いた。
だが、シャワールームに脚を踏み入れた美少女達を悲劇が襲う。
「……ん? あれ……って、なんで美央さん達がいるんですよぉ!?」
シャワー室には、全裸のアレック・マイヤーズがいた。
「ア、アレックス!? なにしてんの、ちょ……ちょっと! それ、しまいなさいよ!」
「さっき
美央は
なんとか腰にタオルを巻いたアレックスは……シャワー浴びたての身体に湯気を
次の瞬間、千雪の
美央が溜息に肩を
リジャスト・グリッターズの平和な日常のヒトコマは、こうして美央と仲間達を乗せて戦いへと向かう。戦いから戦いへと流れるままに戦う中、つかの間のひとときが誰をも笑顔にさせつつ、とりあえず変態は死ねという共通の意識を共有させるのだった。
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