竟憶のリトロス

はじめに

『竟憶のリトロス』…リアルなリアリティの書き方

 世の中にはどうも、『リアルロボット』と『スーパーロボット』があるらしい。

 あまり大きな意味を持つくくりではないが、リアル系とスーパー系の違いはこうだろう。

 まず、リアル系……主題となるロボットを、それを取り巻く世界観や設定で見せていることが多い。整備性や開発系譜、母艦との運用。他にも、敵も味方も同じカテゴリのロボットであることが多い。モビルスーツとかモーターヘッドとか、コンバットアーマーとかね。ようするに、描写や演出で『ロボットの実在性リアリティを主張してくる作品』は、リアルロボット作品と読んでもいいのではないだろうか。

 次に、スーパー系……主題となるロボットの強さ、神秘性、とにかくオンリーワンのヒーロー性とでもいうべき物を軸にして見せることが多いと思う。マジンガーゼットもゲッターロボも、この世で一つのスーパーロボットだ。整備シーンや運用上の長所短所は少なく、悪に対する唯一にして無二の対抗手段、人類の希望として描かれている。リアル系とは逆に、フォーカスが『世界』ではなく『ロボットそのもの』にある作品が非常に多い。必定、それを唯一操れる主人公もまた、神にも等しいヒーローとして映るのだ。


 では、いわゆるリアル系と呼ばれるリアルロボットのリアリティはどれくらいだろう?

 リアルロボットの金字塔きんじとう機動戦士きどうせんしガンダム』を例に上げてみよう。この作品は、それ以前をスーパー系、それ以降のいくつかをリアル系として枝分かれさせた、日本のロボットモノコンテンツのマイルストーンだ。

 まず、敵も味方も『モビルスーツ』と呼ばれる人型機動兵器で戦う。

 敵は宇宙人でも魔界の悪魔でもなく、同じ人間である。

 そして、国家間の宇宙戦争で、人型機動兵器の必然性がある設定を構築した。

 ロボットを兵器としてえがき、時にパワーアップ、時に新型が出てくる。その上で、弾切れやカスタム機の描写、そして局地戦専用機の存在、そして試作機と量産型の概念をも取り入れた物語になっている。

 実は、リアル系をリアルに見せているリアリティは、

 RX-78-2ガンダムに直接あるのではなく、ガンダムを包む周囲にリアリティが込められている。だから、無敵の装甲で傷つかないガンダム、コアファイターが入ってるのに腰がスィングするガンダム、時々大きさが変わるガンダム……これが気にならない。

 ガンダムという主人公のロボットがスーパーロボットでも、別に構わないのだ。

 リアリティはそのロボットを設定するだけでは生まれない。そのロボットで物語を作る時に、どう接してゆくか、どういう世界で包み込むかで決まってくるのだ。


 そういう訳で、鉄機てっき 装撃郎そうげきろう先生の『竟憶ついおくのリトロス』である。

 カクヨムロボット作品の中でも、多くの名作と並ぶ老舗しにせ作品だ。そして、カクヨム内でも屈指のリアル系ロボットである。

 そのリアリティは、前述ぜんじゅつのように主人公バルト・イワンド大尉の乗る最新型ロボットそのものにだけあるのではない。まず、最新型故に評価試験中から始まるという扱い。そして、正式名称やペットネームではなく、トール一号機という呼称がある。その上で、主人公の機体を生み出した開発の系譜けいふ、そして実際に戦う前や後の格納庫での整備シーン……ふと気付けば、戦闘で動いてるロボットと同じくらい、氏は様々な状態のロボットを描いている。

 同時に、ロボットに乗る人間、ロボットを運用する組織の描写も緻密だ。

 こうした外堀そとぼりを埋めるような物語の構築が、氏の魅力の一つである。

 ロボットをリアルに見せたい時、リアリティを持たせたい時……ロボットがリアル設定である以上に、ロボットを包む環境の全てに力を注いでみるといいだろう。その好例がリトロスであり、この作品を起点に氏は様々な名作ロボット小説を生み出していった。

 氏は一人で『神は細部ディティールに宿る』という、偉大な創作の基本を体現しているのだ。


 そんな訳で、自分もまたリトロスのファンの一人として、遅読ながらもゆっくり物語を追いかけさせてもらっている。ロボットモノコンテンツであるから、必定『主人公がロボットに乗って戦う』のだが、同時に組織の政治的駆け引き、主人公の過去から現在にいたる因縁、仲間達との人間関係といったものが語られる。

 そうした濃密なてっきちゃんワールドに、ちょっと入り込みたくなる。

 読むと入れるが、もっと深く味わってみたくなるのだ。

 そういう訳で、氏の御厚意もあってスパ◇ボ「」カクヨムで書かせて頂き、その過程で二次創作として独自のリトロスワールドを書かせてもらった。少年少女がパイロットという作品が多い中で、が主人公という異色のリトロス。まさにネットスラングでいう『』という言葉がよく似合う。壮年そうねんの男性主人公を通して、リトロスの世界は圧倒的なリアリティでドラマを突きつけてくるのだ。


 そういうハードでビターな世界観を、自分が書くとどうだろうか……結果的に全くリトロスじゃない物が出来上がってしまったなとも思う。シビアな男の世界観である原作に対し、拙作せっさくは女性のマッドサイエンティスト(ロリババア)が主人公だ。本来は設定されていない、トール零号機ぜろごうきが登場する。

 しかし、自分なりに同じ世界観の別時間軸として、成立するよう考えたつもりだ。

 なにより、どうしたら原作者の鉄機装撃郎先生に喜んでもらえるか……リトロスファンの読者が読んでくれるか。何より、読者が原作のリトロスを読んでくれるか。

 自分が心がけたのは、やはりロボットのリアリティ、リアルな描写だと思う。四機の第三世代型トールが運用試験中である中、研究機関に残されたデータ収集用の機体……それが零号機だ。その巨体が水に浸かれば波も立つし、20mの全高を超えるロングバレルの対物ライフルを捨てると、下の人間は大変だ。リアルロボットは一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくの全てが作品世界にリアクションを生む。空気も大地も、どうなるかを描写することでリアリティを映すのだ。で、超電磁弾体加速装置レールガン。当たり前だが、凄い電力を馬鹿食いする。それを脱出用の船からバイパスする。

 そうした中で語られる、キルシュ・スタインの狂気と狂奔きょうほん

 登場人物がほぼ全て男という世界の二次創作で、真っ当なヒロインよりこっちの方が面白いと思った。かなり気に入ってるキャラだし、基本的に自分の二次創作は女性が主人公になることが多いようだ。その中でも、研究畑で後方から本編の主人公を偏愛へんあいしている、半ば変質者のように粘着してる女性だ。たった一本の短編ながら、強烈な存在感は原作のリトロス譲り、上手くエッセンスを抽出できたのかもしれない。

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