最後の晩餐レストランで必ず最後を迎える

ちびまるフォイ

死なずに食べたい

"最後の晩餐レストラン。

一度、足を踏み入れると必ずここで最後を迎える"



最後の晩餐レストランが人気だということで来てみた。

内装はごく普通のレストラン。


「ほっほっほ、ワシの人生もここで終わるにしても

 最後に幸せな瞬間ができて本当によかった」


「おじいさん、私もですよ」


別のテーブルには老夫婦が席についている。


「あなた、本当にありがとう。

 ここのレストランは最高においしいから招待したかったの」


「本当かい。ここへ来るのは初めてだよ、楽しみだ。

 ところで君は食べないのかい?」


「え、ええ。私はお腹いっぱいだから」


あっちにはワケありそうな男女。


「うわぁぁん! 死んでやるぅ!! ここで幸せに死んでやるーー!」


騒いでいるのは自殺志願者だろうか。

本当にさまざまな理由で最後の晩餐レストランに訪れている。


「ご注文はお決まりですか?」


シェフ自らが親切にやってきた。


「いえ、最後の晩餐かと思うとなかなか決められなくって」


「みなさん悩まれますよ。でしたらすべて頼めばいい。

 最後の晩餐なんですし残したところで貴方には迷惑かかりませんよ」


「あ、そっか」


メニューを見ておいしそうなものを大量に注文した。


「ちなみにどうして最後の晩餐なんですか?

 料理に毒でも入れているんですか?」


「ははは、そんなことしませんよ。味が損ねちゃいます」


シェフはにこやかに笑った。


「最高の料理を提供することだけ追求した結果、

 文字通り"死ぬほどうまい料理"になっただけです」


「し、死ぬほどうまい……!!」


「すぐに調理いたしますね」


シェフが厨房に戻ると、料理ができる間は自分の人生を振り返った。

すぐに料理が出ないとイラつく客もここでは話が別。

最後の晩餐が出来上がるまで走馬灯に思いをはせるのだそうだ。


「お待ちいたしました、ごゆっくりどうぞ」


テーブルには豪華な料理が並ぶ。

もちろん私はけして手をつけない。


私はここで死ぬために来たのではないから。


横目でシェフが客の死体を運んでいるのを確認してから

用意していたタッパーに料理をつめていく。


すべて片付けるとトイレに行くふりをして店を出た。

これだけ繁盛している店だから客1人消えても気付かれまい。


「最後の晩餐、持って帰りました!!」


自分の店に戻るとタッパーを開封した。


「ふふふ、最後の晩餐をコピーすることが出来たら

 間違いなく私の店は大繁盛よ!!」


「「「 さすが姉さん! 」」」


「それじゃ、みんな。最後の晩餐を研究するわよ!

 いい? 食事には絶対に手を付けちゃだめよ! 死ぬからね!」


「「「 はい姉さん! 」」」


遠心分離器に顕微鏡、こまごめピペットにメスシリンダー。

昔の理科の授業を思い出すような器材が厨房に並ぶ。


舌ではなく科学で最後の晩餐を研究して再現してみせる。

そして、最後の死なない最後の晩餐を作り上げれば大繁盛間違いなし。


「よし、やるわよ!!」


回収してきた最後の晩餐をひとつひとつ成分分析し始めた。


「醤油が100mg含まれているわね……!

 それに隠し味にコーヒーが使われているわ、興味深い……!」


研究は精度を高くするためにどこまでも細かく分析した。

材料も調味料も分析し、調理時間を算出し、料理を再現した。


「これが最後の晩餐……!」


「姉さん、本当に死なないんですか……?」


「ええ、そのように料理したわ。あんた食べてみなさい」


「えっ、いやそれは……」


競技の結果、まずは実験動物のラットに食べさせることにした。

ラットがぴんぴんしてたのを確認してから料理を口に運ぶ。


「うっ……!!」


「ううっ……!!」




「うまいっ!!」


「小学生みたいなリアクションすんな!!」


毒味役の弟子が死ななかったので私も食べてみる。

すごく美味しくできていた。店で出せるレベル。


「姉さん、どうしたんですか? 表情が優れませんよ」


「普通においしいけど……本当にこれが最後の晩餐の味なの?」


「それは……わからないっす」


「確かめるしかないわね……!」


私のコピー料理がどれだけ本家に近づいているのか確認する必要がある。

でも死ぬわけにはいかない。


「心肺蘇生装置!」

「はい!!」


「AED!」

「はい!!」


「ブラックジャック!!」

「呼んだかい」


「手術台!!」

「はい!!」 ・・・・



「よし、これだけ準備すれば大丈夫ね」


名医に最高の医療器材を用意した。

最後の晩餐で三途の川が見えたとしても強引に引き戻せるはず。


「い、いくわよ……!」


最後の晩餐を口に運んだ。

形容しがたい美味しさが口に広がり脳を震わせる。


「ふわぁぁぁぁぁあ~~!! お、お、おいしっ……がくっ」


「「「 姉さぁーーん!!! 」」」


「手術の用意だ!」

「心臓マッサージ!!」

「電気、いきます!!」


薄れる意識の中であわただしい声が遠くで聞こえていた。


「はっ!!」


目を覚ますとベッドの上だった。


「姉さん、大丈夫でしたかぃ?」


「私、生きてる……!」


「姉さんが蘇生準備をしっかりしていたので

 死ぬ前になんとか引き戻すことができたんですよ」


「それはよかった、私どうしても心残りができたの」


「え? 心残り?」


「それはね……」






私はふたたび最後の晩餐レストランにやってきた。


「いらっしゃいませ。おや? 先日もいらっしゃいましたよね」


「ええ、ここだけの話、ここのコピー料理を作りたくて」


「それでなぜ戻って来たんですか?」



「出来立てはもっと美味しいかと思うと、もういてもたってもいられなくて!!」



最後の晩餐レストラン。

一度、足を踏み入れると必ずここで最後を迎える。

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