第28話 新・さるかに合戦
むかしむかし、あるところに猿と蟹がいました。連れだって歩いていると蟹がおにぎりを拾いました。
「おや、猿さん。おにぎりが落ちてるよ。三十秒以内ならまだ食べられるかなあ」
蟹さんは少々潔癖性でした。無頓着な猿はただ引き受けるのはなんだと思って別に拾った柿の種を蟹に見せながら言いました。
「じゃあ、この柿の種と交換しよう。君は食べられるかどうかわからないおにぎりより確実に新鮮な柿が食べられる。俺は三十秒ルール気にしないからそのまま食べる。一応Win-Winだよ」
蟹は育てる時間がかかるコストがかかるよなあ、と思いながら猿の言うことももっともと思い、交換しました。
そうして、蟹は柿を植え、コンプライアンス違反にならない程度の恫喝……もとい声掛けをしながら柿を成長させ、たわわに実が成りました。
「これは美味そうだ。しかし、登れないから実が取れない。せめて縦に歩ければロッククライミングの要領で登れるのだが。それとも、『アレ』を……いや、しかし、どうするか」
蟹が悩んでいると猿が通りかかりました。
「よぉ、登れなくて困ってるようだな。俺が代わりに取ってきてやるよ」
そう言うと猿はスルスルと登り、柿をもいでむしゃむしゃ食べ始めました。
「おい、コラ。猿。柿を独り占めしないでくれ。おいらにもくれよ」
「じゃあ、やるよ。そらっ!」
猿が投げたのはまだ青い固い柿の実でした。
しかし、蟹は咄嗟にハサミを前に組むとレシーブの要領で打ち返しました。青い実は猿にぶつかります。
「ぐおっ!」
痛みに悶える猿に対して蟹は勝ち誇ったように説明します。
「ふっ、縦の動きは出来なくてもポジションによってはバレーボールは蟹に取って最適なスポーツ! レシーブくらい朝飯前だ」
「くそっ! これならどうだっ!」
もう一度、猿は固い柿の実を投げました。
「甘いっ!」
蟹は再びレシーブを返しましたが、猿の額にぶつかった瞬間にキレイに真っ二つに割れました。
「おっと、いけねえ。ハサミの刃の部分で返したから切れ目が入ったようだ」
「やるな、蟹」
額から血を流しながら、猿は不敵な笑いをしました。
「そりゃ、毎日のプロテイン及びカルシウム摂取と鍛錬は欠かしてないからな」
カチカチとハサミを鳴らしながら蟹も不敵な笑みを浮かべます。
「どうも、俺はお前を甘く見てたぜ。俺も本気出すぜ! 追撃開始だ! 豪速球を喰らえっ!」
猿は野球ボールの如く青柿を全力で投げてきました。
「何をっ! 迎撃モード!」
ハサミの先端に青柿を突き刺すことにより直撃を免れた蟹でしたが、あることも危惧していました。
(今回はしのげたが、この豪速球が続くとハサミの強度が耐えられないかもしれない)
そこへ、用事を済ませた子蟹が帰ってきました。
「ただいま。って、母ちゃん何してるの?」
「おお、我が子よ。ちょうどいい所に帰ってきた。突然だが、一子相伝の技を享受する。しかと見届けよ」
「ええっ! ま、まさか一歩間違えると死んでしまうアレを?! わかったよ。母ちゃんの覚悟と奥義を見届ける! そして引き継ぐよ」
子蟹は突然の展開に戸惑いながらも、母の覚悟を見届ける決心をします。
「親子の会話は終わったようだな。蹴りをつけるか。喰らえっ」
猿はこれまで一番固そうな青柿を母蟹に向かって全力で投げました。
「見切った!」
母蟹はレシーブします。しかし、猿には向かわず、真上に飛んでいきます。そして蟹とは思えないジャンプをして、高く飛び上がります。
「殺人アターック!」
ハサミに渾身の力を込めて猿目掛けてアタックを仕掛けました。
そう、蟹にとっては捨て身のカウンター攻撃とも言える「一人レシーブ&殺人アタック」です。もちろん着地に失敗すれば死んでしまいます。
そして、渾身のカウンター攻撃は猿に命中しました。咄嗟に避けて急所は避けたものの、ダメージは大きかったようです。
「くっ! なんてパワーだ。……これが蟹の奥義、蟹の生態をも犠牲にした技、さすがだ。ひとまず出直すぜ」
ふらつきながら、猿はなんとか木をおりて逃げて行きました。
「母ちゃん! 大丈夫か?!」
母蟹の元へ子蟹が駆けつけます。やはり身体にダメージは大きかったようで体にはヒビが入っています。
「あと少しで決着が付いたのに……。我が子よ、後は頼んだぞ」
「母ちゃーん!!」
感動的なシーンの裏では臼や蜂、栗達は激闘の振動で落ちた柿の実をちゃっかりと拾い集めていました。
とっぴんぱらりのぷう。
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