第25話 公務員の味方?5

 私はとある役所の窓口に勤めている。

不況だとかなんたらショックやら失われたなんたらとかも安心して働けるのはいいのだが、公務員にはその分リスクもある。


それは……

「おい、なんで水を飲みながら仕事をしているのだ。勤務中だぞ、これだから公務員なのにけしからん」


……ついに来た。

このハゲオヤ……もといこのご老人は常連である。しかし、正規の申請ではなくクレームの方だ。こうしてどうでもいいことを文句つけては「公務員の癖にけしからん」と難癖をつけてくる。


「コーヒーやジュースなんて飲むな、休憩時間じゃないだろ。公務員はたるんでいる」

とクレームを言われたため、それらのドリンクは禁止とされて勤務中は飲めなくなった。


「勤務時間中に飯を食うな、公務員なのにけしからん」

と言われたときは休憩時間であっても、事務室でのお昼ごはんが禁止となり、外食か狭い休憩室で取らざるを得なくなった。


「外でうどんを食っている、公務員なのにけしからん」

こんなクレームが入り、外食が禁止になった。それからはコンビニでお弁当を買わざるを得なくなった。


「コンビニで買い物している、公務員なのにけしからん」

とのクレームが来た時には近所のコンビニでの買い物禁止令が出された。


 毎日のように来る「けしからん」を聞かされた同僚は出勤拒否になり、メンタルを病んで休職してしまった。いや、彼だけではなく何人もいる。


そしてついに水ですら「公務員なのにけしからん」ときた。もう、何も飲めない、できない、心が折れる音がしたその時。


「貴様は公務員を飲み食いしないロボットと思ってないか?」

不意に声が割り込んできた。二人が声の方向を見ると職員たちには見覚えのある人物。すなわち、公務員仮面がいた。全身白タイツにサングラス、白マントを付けた男が立っていた。胸には『公』をモチーフにしたと思われるエンブレム。役所というお堅い機関においてそれは異彩を放っていた。


「な、なんだ! 貴様は!」

クレーマーは面食らったように叫ぶが、公務員仮面は動じずに続ける。

「貴様がクレームを入れ続けたせいで、この役所の待遇は最悪になっている。この夏に何人もの熱中症患者が発生したのは貴様が飲み物にクレームを入れたからだ」


「公務員は勤務時間中は仕事さえすりゃいいんだよ! 飲みながら仕事なんてたるんどる!」


「それに貴様が昼ご飯にクレームを入れたせいで、周辺のコンビニや飲食店は売り上げが大幅減となり赤字経営が続いている。潰れるのも時間の問題だろう。地域を寂れさせている自覚はないのか?」


「うっせえ! 勤務時間中に外で飯を食ってるなんてたるんでいる!」


「ふっ、貴様は交代制で休憩を取るという考えに至らぬのか、愚かだな」


「だいたい、俺達の税金で暮らしているお役人様なんだろ! 市民に仕えてろ!」


「ちなみに貴様の納税状況を調べさせてもらった。住民税を始め、税金各種を滞納して、差し押さえがたくさんされているようだな。この手の輩はまったく納税しないで『税金で食っている』とほざく。笑止千万!」


「な、なんで知っているんだよ! ってか、住民税とここの税金は別だろっ!」


公務員仮面とクレーマーの不毛なやりとりは平行線のままだ。


「フッ、ならば仕方ない。口で言ってわからないならば力で解決するまでだ」


 そう言って公務員仮面は奇妙な構えを見せた。


「お、お客様、逃げてくださいっ!」


 クレーマーであっても、私は一応避難は呼びかける。しかし、彼は先ほどからの異様な展開に逃げ惑って固まったままだ。


「貴様のような義務を果たさずクレームばかりを言う奴には必殺! 『懲戒免職パ~ンチッ!!』」


 ドゴォォォ!


 強烈なパンチはクレーマーに炸裂し、吹き飛ばされ、天井にマンガのような人形の穴が空いていた。その穴から空が見え、クレーマーははるか彼方に飛び、キラッと光って見えなくなった。


 呆然とする職員達に公務員仮面は爽やかに言い放つ。


「フッ、言わなくてもわかってる。君たち公務員は人事評価があるから発言によって評価が不当に下げられてしまう理不尽さがあることも分かっている。だから私への賛辞は心の中にしかと受け取ったぞっ! さらばだっ!」


 そうして公務員仮面は疾風の如く去って言った。


 行け! 公務員仮面! 次なる行政暴力に立ち向かうのだ!

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