第24話 誤変換はほどほどに

 その晩、ワタシはいつものように小説投稿サイトに小説を執筆していた。

「『俺もせんだいまおうから……』あ、また間違えた。脊髄反射でエンター押しちゃうのだよな」

 慌てん坊なワタシはこの手のミスをよくやらかす。仕事でも書類の見積りを一桁間違えてしまい、大目玉をくらったこともある。


「これで三度目。さっきの誤変換もそのままだし、さすがに消さなきゃ……」

 キーボードを誤字の部分に戻し、Deleteを押そうとした時であった。

『消しても無駄だ』

 なんだ? 今の声は? ワタシは独り暮らしだから侵入者か幽霊か?

 キョロキョロしたワタシに再び声が聞こえてきた。

『このパソコンが我が乗っ取った。故にこれは保存する』

 声の主はパソコンのスピーカーから発せられているようだ。何かのバグなのか?

 きょとんとしていると勝手にパソコンが話し続ける。

『我は宇宙空間にいる生命体だ。この星を制圧するために来た。実体を持たないのでここに入らせてもらったぞ。まずは実体化するために、お主が一番多く打っていた文字を解析してその姿を借りよう』

 ……まずい、今の話が本当ならば、書いていた小説のキャラということになる。今書いているのは異世界ファンタジー。しかも序盤の魔王が治めていたくだりを書いていたのだ。

 なんてことだ、せめて勇者を書くべきだった。いや、この邪悪な何かは勇者でさえ最凶にして最悪のモノになって降臨するに違いない。

 完全に乗っ取られたようでDeleteも押せなくなっており、パソコンを切ろうにも電源ボタンに触れるとショックが走る。

 もうだめだ、手遅れだ。そうしているうちにパソコンが光りだし何かが現れた。


「ふっ、文章を解析し、足りない情報はぐうぐ◯とやらにアクセスして補完したのち実体化した」

 ワタシは唖然として固まってしまった。

「ふはははは、我がそんなに恐ろしいか。そなたの言葉でいうところの太陽系第三惑星の人間よ」

 さすがに固まったままという訳にもいかない。ワタシは反論することにした。


「いえ、とっても変です。ツッコミ所が多すぎるので固まってました」

「何?」

「えっと、坊主頭に笑顔で腕を組んでいるのは福の神っぽいです。それに着ているのは黄色いサッカーユニフォームですし、手にしているのはボールではなくて、ずんだ餅と牛タン串ですし」


 そう、目の前にいるのは例えるならば、長身の福助がサッカーユニを着てずんだ餅を持っている。お笑い芸人のようにも見えて恐ろしさは微塵もない。

「おかしい、お主の文章から解析して恐ろしい魔王にしたのに」

「あ、そっか」

 ワタシは心当たりに思い当って手を思わず叩いた。

「自分、魔王の恐ろしさのくだりを書いていて、先代魔王のエピソードを書いていたけど」

「ど?」

目の前の魔王もつられて語尾を復唱する。

「誤変換で“仙台魔王”としたまま書いてたんだった。あ、そっか、その顔見たことあると思ったから仙台四郎か。それでベガルタ仙台のユニフォームにずんだ餅と牛タンかあ。

そっか、仙台を検索すれば出るねえ、せめて伊達政宗にすりゃ迫力出たのに、よりによって仙台四郎じゃゆるキャラじゃん。あっはっはっは」

 笑いが止まらなくて腹が痛くなってきた。さらに思いついたことを口走ってしまう。

「何? やっぱ必殺技はずんだ餅ビームに牛タンボンバー? くらった人間はグルメが降ってきたから喜ぶよ。ぷっ……!! ダメだ、その風貌でずんだ餅ビームなんて盛大に笑うわー、ないわー」

 盛大に笑っていたら仙台四郎ならぬ仙台魔王は顔を真っ赤にしてパソコンの中へ引っ込んでいった。


『ちくしょう、覚えていろ』のメッセージが残っていたが、パソコンの操作ができることから、ここから去っていったようだ。


 どうやら、自分はよくわからないうちに世界を救ったらしい。


「……ってわけだから、それ以来タイプミスは直さないようにしている」

「先生、新しいネタだったら没ですよ。誤字の多い言い訳にしてもファンタジーを勉強しなおしてください」

 担当は私の原稿のゲラを眺め、誤字を赤ペンでチェックしながら、冷徹に言い放った。

「いや、ネタじゃないんだが、なんでそう思った?」

「とぼけてもダメですよ? 今、都市伝説で話題の“仙台魔王”。

 どう見てもベガルタ仙台のユニフォームを着た仙台四郎のゆるキャラなんですけどね。遠い宇宙からやってきた設定で、必殺技はずんだ餅ビームに牛タンアタック、仙台で出没するらしいですよ。

先生が話したことそのまんまですよ。私が知らないと思ったら間違いですからね」


 ……あいつ、あの姿のまんま、仙台で活動しているのか。


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