第21話 サファイアは試練の輝き
ある日の夜、私は自分への誕生日プレゼントとしてサファイアのアクセサリーのネットショッピングをしていた。
別にお一人様な訳ではない。彼氏はいるにいるが、ガサツが服を着て歩いている人なのでセンスは壊滅的だから当てにならない上に、リクエストしてもすぐに曖昧にされて逃げられる。
しかも、最近は忙しいと言ってなかなか会えない。
まあ、それはいい。とにかく9月生まれの私は
私はひたすらマウスを動かしてはクリックを繰り返し、品定めをしていた。
「うーん、やはり高い」
色が美しい青だとやはり高くなる。カラットが大きくても同様だ。しかし、砂粒みたいな大きさでは映えないだろう。人造サファイアにするか、しかし本物へのあこがれも捨てきれない。
そうやって迷いながら膨大な商品が並ぶWebの海を泳いでいたが、さすがに疲れてきたのでサファイアの雑学が書かれているコラムをクリックした。
「『世界各国で大空の青を映した石と尊重され、神の石とも崇められ……』はあ、そんな古代から尊重されてるなら、そりゃ高いわな」
独り言をつぶやきながら、私はさらに読み進める。
「『また、浮気している者や邪な考えを持つ者が手にすると色が濁ると信じられていたため、美しい女性にプレゼントして誠実さを試したという話もある』へえ、そんな言い伝えもあるのか」
それだけ、パートナーの浮気を気にしている輩が古今東西いたわけだ。
そういえば、彼もなかなか会えない日が続く。もしかしたら、新しい女でもできたのではないのだろうか。いや、そうかもしれない。きっとそうだ。
会えないと言われるのも、やっと会えてもデート中にぼんやりしているのも、新しい彼女のことばかり考えているのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。なんて奴だ、そんな不誠実な人だったなんて。
それなら会社の同僚の山田くんの方がいい。最近はアプローチされているし、こないだはご飯を奢ってくれたし、優しい所もあるから付き合うのもいいのかもしれない。
ならば彼氏の浮気を暴いて別れを突きつけるしかない。しかし、どうやって暴くか? 探偵を雇うお金はない。まさか自分が張り付いて調査する訳にもいかない。共通の友人はいないから動向を探ることもできない。
ふと、ディスプレイの先のサファイアの伝承が目に入った。
「浮気をしている者が持つと色が濁る、か」
これは使えるかもしれない。メンズアクセか、ネクタイピンでサファイヤ付のものを贈るか、あるいは自分で買ったサファイヤを持たせれば、もしかしたら。
そう考えた私はネットショッピングを再開した。
「久しぶり。忙しかったの?」
「あ、ああ」
ようやく彼と会えた。相変わらず上の空な態度というか落ち着かないようでそわそわとしている。きっとこの後に女と会うのだろう。
もういい、疑うのもこれで最後だ。昨日は山田君とデートしてお持ち帰りまでされた。あとは彼の浮気を暴いて別れを突き付けるだけだ。
「ねえ、ちょっと見てほしいものあるんだ」
「あ、俺もあるんだ」
ほぼ同時にテーブルの上には小箱が置かれた。
「じゃ、じゃあ、同時に開けようか」
もしやと思いつつ開けてみる。中には美しいサファイアの指輪。メインのサファイアは1カラット、周りのダイヤも含めれば合計2カラットはあるのではないだろうか。
「あ、驚いているよね? ずっとこのきれいなクオリティのものを探し回ってたんだ。そうしたらすごく高くて、指輪代が給料三か月分を超えてしまったから残業や出張を詰め込んでさ。……その、良かったら指にはめてくれない?」
私は愕然とした。どうしていいのかわからずに固まっていると彼が私のプレゼントを開けて喜んでいる。
「あ、こっちもサファイアなんだね。ネクタイピンか早速つけてみるね」
嬉々としてネクタイピンをつける彼。相変わらずサファイアは美しい青色をしていた。
「どうしたの? はめないの? あ、俺にはめてほしいかな?」
そういうと彼は私の手を取って指輪を嵌めた。
私の指でサファイアはみるみるうちに濁っていった。
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