第6話 超能力者の苦悩

 私は超能力者だ。どんな力かと言うと、主に気圧をコントロールして空気の移動を促す…つまりは風を起こすことだ。

 真空を作り出すこともできるから、かまいたちを意図的に起こすこともできる。もっとも、それを起こす必要が無いから実行しないだけだが。

 しかし、私は孤独であった。なんと言うのだろう、特殊な力を持った者だけが感じる孤独、疎外感。仲間が居たらという渇望を何度も感じた。

 どこかに仲間はいないのか、もし居たらこの孤独感や疎外感を分かち合える。誰でもいい、仲間はどこかにいないのか私は日々葛藤していた。


 そんなある日、私は雨の中を急いで帰っていた。台風並の爆弾低気圧の影響で荒れるとは聞いていたが天気予報が示した時間よりも早く荒れてきた。こういう大型の脅威の前には私の超能力ちからは、とても無力だ。

 しかし、風向きと反対の風を起こして打ち消し合って自分の周辺だけ弱めることは可能だ。このままではコンビニで買ったビニール傘は間もなく大風に負けて壊れそうだ。どうせおおっぴらに超能力ちからを使ったところで誰も気づきはしない。

 私は超能力ちからを使い、大風と真っ正面からぶつかる風を起こそうとしたその時、別の風が吹いた。

 …なんだ、この感覚は。明らかに自然の風ではない。かといって送風機などの人為的な風でもない。

 もしや、同じ超能力ちからを持った者がいるのか?!

 慌てて大雨の中、雨に打たれながら探し回る。傘はとうの昔に役に立たなくなっているが構わない、世界のどこかにいると思っていた仲間が日本、しかもこの近くにいるのかもしれないのだ。どこだ、どこにいる?確信はもてないが私は風上に向かって駆け出していく、雨はますます激しくなっていく。そうして風向きだけを頼りに駆け抜けた先、一人の男性がいた。合図になるかもしれないと私も風を起こす。

 男は驚いたように振り返った。激しい雨風で聞こえないが口の動きから「もしやあなたも同じ超能力ちからを……」と言っているのがわかる。仲間だ、長年探し求めていた仲間だ!

 ……仲間は私の知っている人物だった。二回り年上の独身、デブ、自分を含めて女性にセクハラばかりしてくるハゲ上司であった。おまけにワキガ持ちであった。

 次の瞬間、かまいたちを起こして奴の頸動脈を掻き切った。あっという間に出血を起こして倒れ、動かなくなった。この荒天の夜は目撃者もいない、大雨が返り血も洗い流してくれるからバレないだろう。そのまま私は帰路についた。

 この世でたった一人の仲間だったかもしれない。だが、後悔はしていない。

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