第5話 新説・妖怪二口女
昔々、あるところに一人のケチな男が住んでいた。
男は常々「働き者で飯を食わない嫁さんが欲しい」というのが口癖だった。
人々はそんな嫁いるわけがないと諌めたが、男は聞き入れなかった。
だがしかし、本当に「ご飯は要りません」という女が現れたので男は喜んで嫁に迎え入れた。女はよく働き、飯を食わないので男は満足であった。
しかし、女が来てから米や味噌の減りが早いのを不審に思った男がこっそりと家の天井の梁に登り、そこから覗くと、女は大量の握り飯と味噌汁を作っていた。そして髪の毛をかき分けると頭の後ろにも口があり、それらを二つ目の口へ流し込み始めた。
そして、その二口女が気配を感じて見上げ、男との目が合った。
次の瞬間、男は天井から素早く飛び降り、女をひしっと抱き締めて言った。
「すまなかった、そんなコンプレックスを抱えて隠していたなんて!」
「え? いや、そのこれはコンプレックスとかじゃなく妖……」
「いいんだ、皆まで言わなくていい。世の中には指が6本あるやつだって、乳が3つあるやつだっている。お前の口が二つあるくらいなんだ。俺のお前への愛は変わらない!」
「いやだから人間じゃなく……」
「人間じゃないなんて言う輩が居たら、俺がぶっとばしてやるからな! 安心しろ!」
「え、えーと……」
人権擁護の啓発活動の結果、差別に対する問題意識の浸透はここまで進んでいたようです。男はケチでしたが、心まではケチではなかったため、寛容な心を持っていたのでした。
とりあえず、めでたしめでたし。
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