第3話 公務員の味方?

 ココは某役所の「相談窓口」。そのカウンターにおいて、一人の男が延々とクレームをつけていた。

「だからよぉ! この届いた文書! ふざけてんのか! 『記入もれ多数につき訂正してください』のメモと鉛筆の下書きがされてるが汚い字! 今はパソコンで作成だろぉ! ちゃんとした文書送れよ! というか、役所で直せよ!」

「不快にさせて申し訳ありません。しかし、こちらとしても全て作成してあげることは難しく…」

 ベテラン職員と思しき女性は平身低頭の姿勢で謝罪をしている。男の提出した書類は半分以上間違いだらけであり、記入もれも多く、捨印も無かったため送り返すか、来庁してもらい書き直してもらうしかなかった。

 しかし、そんな事情はお構い無しに男はますます激昂していく。

「大体よお! こんな幼い字ということは新人だろ! どういう教育してるんだ!」

「恐れながら、私が作成したものでございます」

「はあ? あんたが! こんな汚い字を平気で寄越すのか! どんだけバカなんだよ! 何年仕事してもできない奴なのか!」

 新たな攻撃材料を得た男はますます勢いを増し、もはやクレームを通り越して人格攻撃に変わっている。こんな調子で時間はもうすぐ一時間は経過しようとしていた。

「あの、お客様。そろそろその辺りにして訂正をお願いしたいのですが」

 ベテラン職員が激昂する男を制するように切り出した。

「はあ?! 指図するな! 大体こんな汚い文書を送ってくるお前が悪いんだろうが! 役所で直せ!」

 しかし、職員の提案は聞き入れられず、男は同じことを言っては攻撃の手を緩めない。

「いえ、これ以上この状態が続くと来てしまうのです」

「おう、上司が来るなら呼べ! 好都合だ!お前のような女じゃ話にならん!」

 上司が来ると思った男は図に乗り始めたが、職員の答えは男の想定外だった。

「上司ではありません。“あれ”が来るのです」

「あれってなんだよ?」

わたくしどもは名前を言えない、いえ、評価もできない方です」

「なんだよ、それ! ふざけてんのか!」

『ふざけてなんかいない!』

 不意に声が割り込んできた。男が振り替えると全身白タイツにサングラス、白マントを付けた男が立っていた。胸には『公』をモチーフにしたと思われるエンブレム。役所というお堅い機関においてそれは異彩を放っていた。

「私は公務員仮面! 国のために働く公務員に理不尽な要求を為すものを成敗するために現れた!」

 状況からして職員にとってはクレーマーから解放してくれる救いの神なのだろうが、なぜか職員は諦めの顔をしている。

 どこからどう見ても不審者の登場に男は面食らったが、怯まず矛先を変えて恫喝してきた。

「なんだ、てめえ! この女が汚い文書を送ってきたのを改善要求しているだけだ!」

「フッ、この役所の母体である省は予算が他に比べて格段に低い。なおかつ、ここはその省庁の末端の出張所だ。パソコンは20人に一人という少ない割り当て! 常に誰か使用しているため、清書する余裕などない。苦肉の策で手書きにしたのがわからぬのか!」

「んな事情知るかよっ!」

「さらにマスコミの公務員叩きの弊害により人員削減の嵐! かつてない人員不足! 当然職員の負担が増しているから一から十まで書類作成などできん! 公務員は公共の福祉のために働くが、国民の下僕ではない!」

「それもそっちの都合だろ!」

 公務員仮面と男の不毛なやりとりは平行線のままだ。

「フッ、ならば仕方ない。口で言ってわからないならば力で解決するまでだ」

 そう言って公務員仮面は奇妙な構えを見せた。

「お、お客様、逃げてくださいっ!」

 カウンターの職員の悲痛な叫びが響く。しかし、男は先ほどからの異様な展開に逃げ惑う。

「貴様のような奴には必殺! 『懲戒免職パ~ンチッ!!』」

 ドゴォォォ!

 強烈なパンチは男に炸裂し、吹き飛ばされ、天井にマンガのような人形の穴が空いていた。その穴から空が見え、男ははるか彼方に飛び、キラッと光って見えなくなった。

 呆然とする職員達に公務員仮面は爽やかに言い放つ。

「フッ、言わなくてもわかってる。君たち公務員は人事評価があるから発言によって評価が不当に下げられてしまう理不尽は分かっている。だから私への賛辞は心の中にしかと受け取ったぞっ! さらばだっ!」

 そうして公務員仮面は疾風の如く去って言った。

 行け!公務員仮面!次なる行政暴力に立ち向かうのだ!

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